オスマン帝国とは何か~その繁栄と共生の秘密~
この講義の続きはもちろん、
5,000本以上の動画を好きなだけ見られる。
スキマ時間に“一流の教養”が身につく
まずは72時間¥0で体験
オスマン帝国とは何か?その繁栄の理由
オスマン帝国とは何か~その繁栄と共生の秘密~
山内昌之(東京大学名誉教授/歴史学者/武蔵野大学国際総合研究所客員教授)
「オスマン帝国とは、何か?」との質問に対し、山内昌之氏からは「いい質問です」の答えが返ってきた。それほど、この定義は一筋縄ではいかないらしい。紛争の絶えない中東で、共生を果たしたオスマン帝国。その最大の秘密について、うかがってみた。
時間:5分15秒
収録日:2014年7月17日
追加日:2014年10月23日
カテゴリー:
≪全文≫

●オスマン帝国の「オスマン」とは王朝の名前である


 「オスマン帝国とは、何か?」とお尋ねが寄せられたようです。なかなか難しい質問ですが、これは大変良質なお尋ねだと思います。私も一言でお答えするのは難しいと思い、この回を設けました。

 「オスマン」は、民族名ではありません。地名でもありません。もともとこれは、「オスマン朝」という王朝の名前なのです。王朝名ではありますが、本来はトルコ人であったオスマン帝国のつくり手たちは、帝国をつくることによって、自分たちの持っていた民族性を次第に薄めていくことになります。

 なぜ、薄めたのかというと、オスマン帝国では、帝国を率いるエリートの出自を問わなかったからです。ボスニア・ヘルツェゴビナやクロアチアの出身でも、コーカサスの方のチェルケス人やグルジア人でも、今問題になっているクリミア・タタール人やウクライナ人、ロシア人といった人びとでも、イスラーム教徒としてムスリムに改宗すればよかった。改宗することで、軍人・官僚としてエリートに登用される道を開く人材開発システムを体系的につくった国家だったのです。


●出自を問わずエリートになれたオスマンのシステム


 そうすると、彼らにとって帰属する対象は、トルコ人であるとか、あるいはクロアチア人やグルジア人であるという民族性ではなくて、オスマン王朝にとっての忠実な官僚・軍人という役割になります。そのような意味で、彼ら自身は意識していなかったけれども「オスマン」のアイデンティティを持ったと、お考えになってはどうでしょう。

 もっと擬民族的・擬人的にいえば、「オスマン人」の言い方もできなくはありません。しかし、この時代には「オスマン人」といった近現代的な民族アイデンティティは、まだ成立していません。ですから、強いて言うとすると、彼らのアイデンティティは「ムスリム」であるとなります。

 ムスリムになったクロアチア人やボスニア・ヘルツェゴビナ人、あるいはグルジア人やウクライナ人たち。中にはコーカサスのさまざまな民族、チェルケス人たちもいた。スラブ系の人たちも、バルカンの人たちもたくさんいた。こういう人たちが、帝国共通の人材開発路線で、エリートとして昇進していきました。


●平時は行政、戦時は軍隊の優秀性に表れる人材開発成果


 このように人材開発に優れていたトルコ人でしたが、その人...

スキマ時間でも、ながら学びでも
第一人者による講義を1話10分でお届け
さっそく始めてみる
「歴史と社会」でまず見るべき講義シリーズ
「武士の誕生」の真実(1)10世紀の東アジア情勢と「王朝国家」
「王朝国家」と「武士」が誕生した理由は大唐帝国の解体
関幸彦
『昭和16年夏の敗戦』と『昭和23年冬の暗号』
『昭和16年夏の敗戦』『昭和23年冬の暗号』が映す未来とは
猪瀬直樹
天下人・織田信長の実像に迫る(1)戦国時代の日本のすがた
近年の研究で変わってきた織田信長の実像
柴裕之
古代中国の「日常史」(1)日常史研究とは何か
『古代中国の24時間』英雄だけでなく無名の民に注目!
柿沼陽平
ローマ史と江戸史で読み解く国家の盛衰(1)父祖の遺風
なぜ「父祖の遺風」がローマと江戸に共通する価値観なのか
本村凌二
核DNAからさぐる日本のルーツ(1)人類の起源と広がり
人類の祖先たちの「出アフリカ」…その時期はいつ頃?
斎藤成也

人気の講義ランキングTOP10
デカルトの感情論に学ぶ(1)愛に現れる身体のメカニズム
デカルトが注目した心と体の条件づけのメカニズム
津崎良典
内側から見たアメリカと日本(2)アメリカの大転換とトランプの誤解
偉大だったアメリカを全否定…世界が驚いたトランプの言動
島田晴雄
何回説明しても伝わらない問題と認知科学(2)バイアスの正体と情報の抑制
『100万回死んだねこ』って…!?記憶の限界とバイアスの役割
今井むつみ
戦争と暗殺~米国内戦の予兆と構造転換(3)未解決のユダヤ問題
「白人vsユダヤ人」という未解決問題とトランプ政権の行方
東秀敏
認知バイアス~その仕組みと可能性(1)認知バイアス入門
誰もが陥る「認知バイアス」…その例とメカニズム
鈴木宏昭
経験学習を促すリーダーシップ(1)経験学習の基本
成長を促す「3つの経験」とは?経験学習の基本を学ぶ
松尾睦
「重要思考」で考え、伝え、聴き、議論する(1)「重要思考」のエッセンス
重要思考とは?「一瞬で大切なことを伝える技術」を学ぶ
三谷宏治
徳と仏教の人生論(1)経営者の条件と50年間悩み続けた命題
宇宙の理法――松下幸之助からの命題が50年後に解けた理由
田口佳史
学力喪失の危機~言語習得と理解の本質(1)数が理解できない子どもたち
なぜ算数が苦手な子どもが多いのか?学力喪失の真相に迫る
今井むつみ
習近平中国の真実…米中関係・台湾問題(1)習近平の歴史的特徴とは?
一強独裁=1人独裁の光と影…「強い中国」への動機と限界
垂秀夫