●各国間の協調体制が極めて弱い今のG20
大上 本日は、高橋一生先生をお呼びいたしました。先生は、かつてOECD(Organisation for Economic Co-operation and Development経済開発協力機構)の事務総長補佐官を務められていた生粋の国際参謀です。世界を本当に等身大の目で俯瞰して見ることができる、数少ない日本の英知であると思います。それでは、先生、よろしくお願いいたします。
高橋 はい、かしこまりました。私がOECDの事務総長の補佐官をやっていましたのは、もう30年ほど前になりますが、その時のことが少しでも今の状況を考える上でお役に立てればと思いまして、お話しさせていただきます。
今、世界はいわゆる「G20の時代」と言われていますが、G20とは何によって特徴づけられているかと言いますと、協調体制が極めて弱く、時にはほぼ協調体制なしの時代に入りつつあるということかと思います。
その一つの重要な要素として、どうしてそのようなことになっているのかと言いますと、今のG20の制度では国際参謀役というものはあり得ないという体制になっているからだと思います。
●冷戦下におけるOECDの仕事は西側諸国の政策協調推進
高橋 今の状況を考えるために、ある意味で全く逆の状況であった冷戦の真っ最中を考えてみることが、非常に役に立つのではないかと思います。
当時は冷戦で、西側と東側が非常にシビアにがっぷり四つに組んで、世界で闘争を繰り広げていました。その時にOECDがやっていた主な仕事は、当時OECD諸国は24カ国でしたが、その西側諸国全体の経済、社会両方の政策協調を、それぞれ主要国を通じて進めていくということでした。
現在のOECDと全く違っています。今は、一種シンクタンクのようになってしまいまして、多くの場合、政策そのものにあまり関係がなくなっていますけれど、当時は、「政策協調のため」ということが全てで、その枠組みが冷戦でした。
そういうところでは当然のことながら、「政策協調を進めていくためにどうしたらいいか」ということをOECDの課題として、われわれ皆が取り組んでいたのです。
●国際参謀としてのレッスン-いかに西側主要国を動かし結束を強めるか
高橋 私は、OECDで1976年から1987年まで11年間務めましたが、初期の3年間は開発協力を担当するDAC(Development Assistance Committee 開発援助委員会)という機関の事務局にいました。3年目の終わり頃に、「事務総長室に移れ」という指令を受けまして、事務総長の補佐官になったのは、1979年春でした。
大上 それは、抜擢になったということですね。
高橋 そういうことだったかもしれません。その時、事務総長に、国際参謀のレッスン1として言われたことがあります。それが私には脳裏にこびりついています。
彼が言いましたのは、「国際参謀として仕事するということは、冷戦を前提として、ソ連を中心とした東側諸国の動きをにらみつつ、西側諸国の協調体制をどうやってピシっと整えるか、つまり、しっかりと東側諸国と対峙して、できるだけ冷戦体制を乗り越えることを考えていくことだ。そうすると、まずやらなくてはならないことは、西側主要国を動かすことだ。それが一番大事なことで、それを考えることが国際参謀の仕事だ。主要国を動かすということは、具体的にはドイツ、フランス、イギリス、アメリカ、日本、この5カ国を動かすことだ」。考えてみれば当然のことです。
●それぞれの国に対して、違うアプローチをしなくてはならない
高橋 その時に言われたことで私の頭にこびりついているのは、「同じテーマを全てのOECD諸国に扱ってもらうという前提だけれども、それぞれの国に対して、違うアプローチをしなくてはならない」、ということでした。
例えば、テーマが貿易自由化だったとして、それに関することを、全てのOECD加盟国に協議してもらうことにしたとする。その場合、例えば、ドイツには、インフレを中心においてアプローチして、動かしていかなくてはいけない。それ以外にあの国は動きようがない。当時は西独でしたが、ドイツにはそういう見方をしていました。イギリスに関しては、失業を中心にして、動かしていく以外にない。フランスに関しては、貿易自由化が課題であったとしても、それを文化に換言してアプローチしないと動かない。一番の中心はアメリカを動かすことだけれども、安全保障に結び付かないと、あの国は動かない。最後に日本。日本に関しては、「お前がよく知っているだろう」と言われました。私は、「残念ながら存じません。一番難しいですね」と言いましたら、「日本に関して...