●今年の日本経済は「3安」で始まった
私は、今年の日本経済はかなり良い状況になるのではないかと思っており、その一つの見方として、「3安」ということをよくお話ししています。今年の日本経済は、三つのものが極端に安い状況でスタートしたのです。それは、「金利」と「為替」と「原油価格」です。
なぜこの三つに注目するかというと、その安さが尋常ではないからです。後でもう少し詳しくお話ししますが、金利は、物価上昇率を加味した実質金利では、もうマイナス圏内に来ています。これはバブルが崩壊してから20年間、日本経済が一度も実現していないことです。これだけ低い実質金利がどのような意味を持つかは、やはり重要です。
二つ目の為替レートについては、実質実効為替レート、他通貨に対する円の価値を物価で調整した真の円の実力は、実は1973年とほぼ同じぐらいで、この40年で一番低い水準になっています。原油は、昨年2014年の1年間で40パーセントから50パーセント下がり、これまたとても安くなりました。マクロ的に考えると、これらが日本経済に及ぼすインパクトは大変大きいだろうと思います。
●実質金利が数年で2.8ポイントも下がっている
まず金利ですが、乱暴な数字で申し訳ありませんが、安倍政権前の日本経済では、例えば10年物国債の名目金利は1パーセントそこそこでした。消費者物価上昇率はマイナス1パーセントほどのデフレでしたから、名目の実質金利はプラス2パーセントだったのです。
しかし、それがこの数年、安倍内閣でどのように変わったかというと、10年物国債の名目金利は、当時の1パーセントから、今はもう0.2パーセントくらいまで下がってきています。一方の物価上昇率は、当時のマイナス1パーセントが、今はプラス1パーセントまで上昇してきました。すると、名目金利で1から0.2に、約0.8ポイント下がり、物価上昇率でマイナス1パーセントがプラス1パーセント、2ポイント動いたということで、実は実質金利が2.8ポイント下がっていることになります。
その結果、現状の実質金利は、今の計算によるとマイナス0.8パーセントになっています。もし今後、黒田東彦日銀総裁が言っているように2パーセントレベルの物価上昇率が実現し、仮に名目金利がほとんど動かなければ、マイナス1.5パーセントほどの実質金利水準になるかもしれません。
これが経済にどのような影響を及ぼすかを考えておく必要があると思います。よく言われることですが、金融政策では皆、どうしても翌日、1週間後、10日後の株価や為替の変化に注目してしまいます。しかし、本当に重要なのは、一昨年の2013年4月に日本銀行が始めた金融政策が、2年後の今年にどのような影響を及ぼすかで、そのポイントはこれだけ低くなった実質金利の動きなのです。
●人々は資産をインフレ対応にシフトする
個人と企業に分けてお話ししたいと思います。個人では、これまではデフレでしたから、資産の多くは預貯金に集中していました。1600兆円を超えると言われる個人金融資産は、いわば保守的な投資が行われていたのです。これは、実質金利がプラス2パーセント、つまり物価がマイナス1パーセントで下がっている状況ではそれほど悪い選択ではありません。デフレですから、焦って株式や不動産に投資するよりは、価値の安定した預貯金で持つのがよいのかもしれません。
ただ、もし仮に今後、実質金利がマイナス1パーセントを割る状況になったとき、それでも預貯金を、特に金利の付かない普通預金などを持っていると、毎年インフレ分だけ目減りしていくことになります。例えば、2パーセントが10年続けば20パーセント、資産の5分の1を失うわけです。
おそらく国民はそのような状況になる前に、反応を始めると思います。一部の資産をインフレに対応できるものに少しずつシフトしていくでしょう。1600兆円を超える金融資産ですから、このシフトはたとえ少量でも日本経済にとって大きな意味があるはずです。
●企業の動きが、日本経済を活性化させる
実質金利の変化は企業にも大きな意味があります。これまで企業は貯蓄に偏ってきました。投資するよりは借金を返す、借金を返し終えたら内部留保に持っていく。実質金利がプラス2パーセントで物価が下がっている状況では、それでも許されたのだろうと思います。ですが、実質金利がマイナス圏内に入っている現状が続くと、多額の内部留保を抱えるような守りの姿勢はなかなか許されなくなってくるでしょう。
マイナス実質金利の中で企業ができることは、おそらく四つしかありません。一つ目は、積極的に投資してリターンを稼ぐ。二つ目は、株主への配当を増やす、あるいは自社株買いによって株を引き上...