●日本銀行の政策を整理する必要がある
安倍内閣が発足して最も注目されたのが日本銀行です。2013年4月、黒田東彦さんが日銀総裁になり、「バズーカ」といわれる世界を驚かせるような新しい金融政策で経済を大きく揺さぶったわけです。ご記憶のように、安倍内閣以前は一時1ドル80円を超えるような超円高だったのが、それによって急速に円安に向かい、一時は1ドル120円を超えるところまでいきましたし、株価なども連動して動きました。
ただ、ここに来て「金融緩和限界論」がいわれています。例えば為替は、現在世界の多くの国が同時に金融緩和している影響もあって、1ドル100円前後の攻防ラインまで円高に戻ってきていますし、株価も一時は日経平均が2万円を超えましたが、今は1万6000円台で動いています。日本銀行は今年の初めにマイナス金利にまで踏み込みましたが、金融機関の収益にマイナスの影響があったことで批判の声が強くなっています。この辺りで一度、日本銀行の政策がどのような状況にあるのかを整理する必要がありそうです。
●世の中を揺さぶる政策は何回もできるものではない
常日頃思うのですが、金融政策は二つに分けて議論する必要があります。一つは、マーケットに喝を与える、ショックを与える政策です。黒田東彦総裁の下で行われた2回の「バズーカ」、つまり量的緩和政策とマイナス金利政策は、その成果がどこまであったかは別として、ガツンと大きく世の中の流れを変えようとする政策でした。これらの政策は、日本経済にデフレマインドが蔓延していて、デフレが当たり前だと思っているところに、「そうじゃない。社会はデフレから穏やかなインフレに大きく変わっていくのだ」というメッセージを提供しました。日本銀行が一時使った言葉を借りると、「期待を変える」効果があったのです。
ただ、よく考えてみれば当たり前の話ですが、世の中を揺さぶったり、驚かせたりする政策は何回もできるものではありません。現に2回の量的緩和については、これ以上は難しいのではないかという見方がありますし、マイナス金利にいたっては本当に良い政策なのかどうかの議論がまだ収束していません。ガツンとやるのが黒田日銀の特徴であるという見方に立てば、限界説が出てきて当然です。
●低金利が投資や物価上昇にどこまで影響するか
もう一つ、緩和を持続するか、引き締めるかという金融政策があります。そうした観点でデフレから脱却するために重要なのは、金利をある程度低く抑えておいて、その低い金利に経済が反応することを待つ、あるいはマネーサプライをある程度増やすことで物価が上がるのを待つ。こうした政策を粘り強く行うことです。おそらく日本銀行がこれから問われるのは、繰り返しマーケットを揺さぶることではなく、今の緩和状態をいかにデフレ脱却につなげていくかでしょう。日本銀行は9月後半にこれまでの金融政策を総点検し、検証すると言っていますが、そこでの大きなポイントは、今までのやり方を大きく変えていくというよりも、今後の金融政策をデフレ脱却につなげるためにどうすれば一番いいのかを、再度冷静に議論することでしょう。
そうした点で見ると、金利がかつてないほど低くなっていることが重要です。一部の金融機関には長期金利までマイナスなのは問題だという意見もあり、現在の金利水準がいいか、もう少しイールドカーブが立った方がいいかという議論は残ります。しかし、いずれにしても低金利が重要なのです。ただし、低金利が続くことでどこまで投資が行われるのか、低金利がどこまで物価上昇に跳ね返ってくるのかをもう少し時間をかけて議論しなくてはなりません。
足元を見ると、この低金利に2つほどの反応が出てきています。一つは住宅の着工件数が少し増えてきていることです。住宅ローンも含めた史上最低金利に、マーケットが反応し始めているのです。例えば、これまで比較的高い金利で住宅ローンを借りていた方々が、より低い条件で借り換えをしています。銀行から見れば、その分だけ金利が取れなくなるのですからマイナスかもしれませんが、借りる側からすると利子負担が減り、可処分所得が増えるという意味で大きいわけです。ただし、これが経済にどの程度の影響を及ぼすのかは、もう少し様子を見る必要があるでしょう。
それから、長期金利が低金利になっているため、企業が長期社債などを通じて、より低金利での資金調達に大きくシフトし始めています。実際に社債の発行が増えてきています。ただし、これも現状はより低金利の資金調達にシフトしているだけで、財務的な流行に過ぎません。これが投資に結び付いていくのかどうかは、やはり様子を見る必要があります。
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