●黒田日銀総裁はもう1本のルビコン川を渡った
2016年が明けてから、さまざまなことが次々に起こって、市場のこれからをどう見たらよいか、多くの専門家も含めて皆さん迷っていらっしゃると思います。中国や石油に端を発する世界的な金融の大きな変動はどこで収まるのか。日本銀行が行ったマイナス金利政策でマーケットにどういった影響が出てくるのか。どちらにしても、今後の動きを見ながら判断していくしかないだろうと思いますが、今日はマイナス金利政策について、いくつかコメントしてみたいと思います。
ご存知のように、リーマンショックのあと、ベン・バーナンキ・連邦準備制度理事会(FRB)議長(当時)の下で、アメリカでは「QE」と呼びますが、量的緩和策が行われ、世界が大きく反応しました。2013年4月に黒田東彦日銀総裁が実行した「日本版量的緩和策」は、基本的にバーナンキの量的緩和策と同じ方法だと思います。バーナンキは、最近出した自伝『行動する勇気』で、これを行う際には相当の勇気が必要だったと書いています。簡単に言うと「劇薬」で、さまざまなマイナスの影響が想定されたが、それでも量的緩和策を実行しなければマーケットが大変なことになってしまうというのが、リーマンショック後のFRBの判断でした。このとき、世界の金融政策は一つの「ルビコン川」を渡り、新しい時代に入ったのだと思います。この劇薬のマイナス効果がどのようなものか。それを知るためには、いまアメリカが金融緩和に終止符を打とうとしていますから、それが今後どのような影響を及ぼすかを見ていなくてはなりません。
今回、黒田日銀総裁がマイナス金利政策を採ったのは、さらにもう1本の「ルビコン川」を渡ったということです。マーケットは、この政策が経済にどのような影響を及ぼすか、まだ十分に判断できていません。そのため、株価は上がったり下がったりしていますし、為替もいったん円安の方に振れましたが、また円高に戻っています。
今の段階では、マイナス金利政策が日本に悪い影響を及ぼすかどうかよりも、この政策が本当に効くのかどうかに関心が集まっています。マーケットは、もし効果がないと判断すれば、二つの反応を示すでしょう。一つは、そろそろ日本銀行の政策が手詰まりになってきたと考え、マーケットは悲観的になります。もう一つ、マーケットが今後も日本銀行の政策...