中央銀行の役割
この講義の続きはもちろん、
5,000本以上の動画を好きなだけ見られる。
スキマ時間に“一流の教養”が身につく
まずは72時間¥0で体験
インフレターゲット論の欠陥とは?
中央銀行の役割
政治と経済
曽根泰教(慶應義塾大学名誉教授/テンミニッツ・アカデミー副座長)
巷に溢れる金融緩和論。では、無制限にお金を供給すればインフレは起こり、実体経済は本当に回復するのか?従来型の金融政策の限界点やインフレターゲット論の問題点を論じつつ、中央銀行がとるべき姿勢と役割を示唆する。
時間:5分44秒
収録日:2012年11月20日
追加日:2014年3月27日
カテゴリー:
≪全文≫

●従来型金融政策の限界とその理由


最近、金融政策で景気のいい話がずいぶん出ています。特に「日銀法を改正しろ」「日銀総裁を代えたほうがいい」「インフレターゲットを目指せ」「金融緩和をどんどんやれ」「無制限にお金をつぎ込め」などという説がありますが、これは非常に危険な要素が大きいわけです。
それはなぜかと言うと、たしかに金融政策のほうが、財政政策よりも最近の経済学者の主流ではあるのですが、この金融政策は、従来の方法では日銀が市中にお金を流し、ベースマネーを増やすことによって、銀行が貸し出し、銀行が貸し出すことによって信用創造が生まれるという考え方でしたが、ここ(銀行の貸出)が滞って半分ぐらいは国債を買っているわけです。ですから、これはもう手法として限界があります。
また、もう一つは「日銀が資産を買え」ということです。債券あるいは不動産の証券を買い込むことによって、市中にお金を流す。それは、日銀が買った分、金融機関なり市場なりがそこを埋めるだろう、だからお金が出るだろう、という理屈付けがされます。ただ、これは中央銀行のバランスシートを毀損します。どのぐらい毀損するか、これはリスクに依存するわけです。
ですから、手法としてはあり得る手法ではあるけれども、簡単ではありません。

●インフレターゲット論の欠陥


では、無制限にお金を供給することによってインフレが起きるのだろうか。たしかに起きるかもしれませんが、それはどこに起きるのかと言うと、バブルの形で起きやすいのです。
そういう意味で言うと、インフレターゲット論、あるいはこのような緩和論というのは、実体経済の人から言えば、「お金は余っていますよ」つまり、「現実は運用先がないんですよ」ということになります。運用先がないということはどういうことかと言うと、投資をしてきちんとしたリターンを取れるところがないということであり、これが最大の問題です。
そこを解決しないで、お金だけをじゃぶじゃぶと溢れさせれば、名目的な物価は上がるかもしれませんが、上がったところで現実の経済、実体経済が回復するとは限らないというのが、これが一つの欠陥なのです。

●消費者物価指数だけを見てはいけない


インフレターゲット論は、ずいぶん長いこと議論されていますが、ここには問題があって、1990年頃、日本でバブル発生した頃、赤羽隆夫さんという元経済...

スキマ時間でも、ながら学びでも
第一人者による講義を1話10分でお届け
さっそく始めてみる
「政治と経済」でまず見るべき講義シリーズ
半導体から見る明日の世界(1)世界的な半導体不足と日本の可能性
なぜ世界の半導体不足は起きた?台湾TSMCと日本復活への鍵
島田晴雄
トランプ政権と「一寸先は闇」の国際秩序(1)国際秩序の転換点と既存秩序の崩壊
経済秩序や普遍的価値観を破壊し、軍事力行使も辞さぬ米国
佐橋亮
岸信介と日本の戦前・戦後(1)毀誉褒貶相半ばする政治家
「昭和の妖怪」岸信介の知られざる実像を検証する
井上正也
デジタル全体主義を哲学的に考える(1)デジタル全体主義とは何か
20世紀型の全体主義とは違う現代の「デジタル全体主義」
中島隆博
独立と在野を支える中間団体(1)「中間団体」とは何か
なぜ中間団体が重要か…家族も企業も学校も自治会も政党も
片山杜秀
危機のデモクラシー…公共哲学から考える(1)ポピュリズムの台頭と社会の分断化
デモクラシーは大丈夫か…ポピュリズムの「反多元性」問題
齋藤純一

人気の講義ランキングTOP10
ヒトは共同保育~生物学から考える子育て(1)動物の配偶と子育てシステム
ヒトは共同保育の動物――生物学からみた子育ての基礎知識
長谷川眞理子
未来を知るための宇宙開発の歴史(7)米ソとは異なる日本の宇宙開発
日本の弾道ミサイル開発禁止!?米ソとは異なる宇宙開拓の道
川口淳一郎
「集権と分権」から考える日本の核心(3)中央集権と六国史の時代の終焉
天平期の天然痘で国民の3割が死亡?…大仏と崩れる律令制
片山杜秀
数学と音楽の不思議な関係(1)だれもがみんな数学者で音楽家
世界は数学と音楽でできている…歴史が物語る密接な関係
中島さち子
睡眠から考える健康リスクと社会的時差ボケ(5)シフトワークと健康問題
発がんリスク、心身の不調…シフトワークの悪影響に迫る
西多昌規
知識創造戦略論~暗黙知から形式知へ(1)イノベーションと価値創造
価値創造において重要なのは未来から現在を見るという視点
遠山亮子
DEIの重要性と企業経営(4)人口統計的DEIと女性活躍推進の効果
日本的雇用慣行の課題…女性比率を高めても業績向上は難しい
山本勲
トランプ政権と「一寸先は闇」の国際秩序(3)これからの世界と底線思考の重要性
同盟国よもっと働け…急激に進んでいる「負担のシフト」
佐橋亮
モンゴル帝国の世界史(2)チンギス・ハーンのカリスマ性
自由な多民族をモンゴルに統一したチンギス・ハーンの魅力
宮脇淳子
睡眠と健康~その驚きの影響(1)睡眠が担う5つのミッション
寝ないとよく食べる…睡眠不足が生活習慣病を招く理由
西野精治