世界金融経済情勢と日銀のマイナス金利
この講義の続きはもちろん、
5,000本以上の動画を好きなだけ見られる。
スキマ時間に“一流の教養”が身につく
まずは72時間¥0で体験
マイナス金利に至った経緯と懸念される影響
世界金融経済情勢と日銀のマイナス金利
植田和男(第32代日本銀行総裁/東京大学名誉教授)
2016年2月、日本銀行はマイナス金利政策を初めて導入したが、これによって、日本経済はどう動いていくのか。今回の政策に至った経緯と懸念される影響について、東京大学大学院経済学研究科教授・植田和男氏が、世界の金融経済情勢と絡めながら解説を進める。
時間:18分32秒
収録日:2016年2月10日
追加日:2016年2月15日
カテゴリー:
≪全文≫

●量的質的緩和から3年、実体経済への影響は限定的だった


 それでは本日は、日本銀行がマイナス金利政策を初めて導入したということもありますので、その前後の世界金融経済情勢を話しつつ、マイナス金利の影響等を簡単にお話しできたらと思います。

 まずマイナス金利導入に至る経緯というところを、簡単に振り返ってみたいと思います。2013年から量的質的緩和を導入して3年近い期間が経過したわけですけれども、肝心のインフレ率の動きはやはり鈍いと言わざるを得ません。日本銀行は、食料品込みの物価指数をよく使っていますが、普通のエネルギーと食料を除いたベースで見ますと、いまだに0.5パーセント前後の動きをしていまして、目標の2パーセントにはなかなか届かないという状況が続いています。

 影響がまったくなかったわけではなく、この間、ご案内のように、株やドル・円はものすごく大きく動きました。それにもかかわらず、実体経済への影響は、インフレ率を含めて非常に限定的であったというところが、いわばこの政策の誤算といえるかと思います。

 そういう中で昨年末から、中国経済懸念、あるいは、原油下落等があり、マーケットは世界的に大荒れに荒れました。このまま放置すると、さらに経済、あるいは、インフレ率に下押し圧力がかかるだろうということで、年初来のマーケットの動きも見て、今後の経済、インフレ率を懸念しつつ、マイナス金利政策を導入したということかと思います。ちなみに、マイナス金利とは、厳密にいえば、民間の銀行が日本銀行に預けている預金がありますが、この預金のうちの一部の金利をマイナスにするという政策になります。


●今までの日銀政策は「0%の壁」の手前


 そこで、日銀の政策全体を振り返ってみます。やや大雑把な図ですが、イメージとしてこちら(縦)に金利の軸をとりまして、このあたりを0パーセントだとします。それから、こちら(横軸)をマネーの量とします。

 金融緩和をするというとき、しばらく前まで(日本の場合はずっと前ですけれども)、通常は金利を下げていきます。その過程で必然的にマネーの量も少し増えるということになりますので、このような動きをしてきたわけです。ただ、これは日本の場合、90年代半ばくらいにこのあたり(ゼロパーセント近く)まで来てしまいました。ここにゼロパーセントの壁があり、それ以上は...

スキマ時間でも、ながら学びでも
第一人者による講義を1話10分でお届け
さっそく始めてみる
「政治と経済」でまず見るべき講義シリーズ
戦争と暗殺~米国内戦の予兆と構造転換(1)内戦と組織動乱の構造
カーク暗殺事件、戦争省、ユダヤ問題…米国内戦構造が逆転
東秀敏
台湾有事を考える(1)中国の核心的利益と太平洋覇権構想
習近平政権の野望とそのカギを握る台湾の地理的条件
島田晴雄
財政問題の本質を考える(1)「国の借金」の歴史と内訳
いつから日本は慢性的な借金依存の財政体質になったのか
岡本薫明
ポスト国連と憲法9条・安保(1)国連の構造的問題
核保有する国連常任理事国は、むしろ安心して戦争できる
橋爪大三郎
内側から見たアメリカと日本(1)ラストベルトをつくったのは誰か
日本でも中国でもない…ラストベルトをつくった張本人は?
島田晴雄
墨子に学ぶ「防衛」の神髄(1)非攻と兼愛
『墨子』に記された「優れた国家防衛のためのヒント」
田口佳史

人気の講義ランキングTOP10
葛飾北斎と応為~その生涯と作品(1)北斎の画狂人生と名作への進化
葛飾北斎と応為…画狂の親娘はいかに傑作へと進化したか
堀口茉純
編集部ラジオ2025(30)西野精治先生に学ぶ「熟睡の習慣」
熟睡できる習慣や環境は?西野精治先生に学ぶ眠りの本質
テンミニッツ・アカデミー編集部
平和の追求~哲学者たちの構想(1)強力な世界政府?ホッブズの思想
平和の実現を哲学的に追求する…どんな平和でもいいのか?
川出良枝
熟睡できる環境・習慣とは(1)熟睡のための条件と認知行動療法
熟睡のために――自分にあった「理想的睡眠」の見つけ方
西野精治
プロジェクトマネジメントの基本(4)スケジュール・マネジメント
スケジュール管理で重要な「クリティカル・パス法」とは
大塚有希子
エネルギーと医学から考える空海が拓く未来(1)サイバー・フィジカル融合と心身一如
なぜ空海が現代社会に重要か――新しい社会の創造のために
鎌田東二
生成AI「Round 2」への向き合い方(1)生成AI導入の現在地
生成AIの利活用に格差…世界の導入事情と日本の現状
渡辺宣彦
何回説明しても伝わらない問題と認知科学(1)「スキーマ」問題と認知の仕組み
なぜ「何回説明しても伝わらない」のか?鍵は認知の仕組み
今井むつみ
定年後の人生を設計する(1)定年後の不安と「黄金の15年」
不安な定年後を人生の「黄金の15年」に変えるポイント
楠木新
中国共産党と人権問題(1)中国共産党の思惑と歴史的背景
深刻化する中国の人権問題…中国共産党の思惑と人権の本質
橋爪大三郎