●量的質的緩和から3年、実体経済への影響は限定的だった
それでは本日は、日本銀行がマイナス金利政策を初めて導入したということもありますので、その前後の世界金融経済情勢を話しつつ、マイナス金利の影響等を簡単にお話しできたらと思います。
まずマイナス金利導入に至る経緯というところを、簡単に振り返ってみたいと思います。2013年から量的質的緩和を導入して3年近い期間が経過したわけですけれども、肝心のインフレ率の動きはやはり鈍いと言わざるを得ません。日本銀行は、食料品込みの物価指数をよく使っていますが、普通のエネルギーと食料を除いたベースで見ますと、いまだに0.5パーセント前後の動きをしていまして、目標の2パーセントにはなかなか届かないという状況が続いています。
影響がまったくなかったわけではなく、この間、ご案内のように、株やドル・円はものすごく大きく動きました。それにもかかわらず、実体経済への影響は、インフレ率を含めて非常に限定的であったというところが、いわばこの政策の誤算といえるかと思います。
そういう中で昨年末から、中国経済懸念、あるいは、原油下落等があり、マーケットは世界的に大荒れに荒れました。このまま放置すると、さらに経済、あるいは、インフレ率に下押し圧力がかかるだろうということで、年初来のマーケットの動きも見て、今後の経済、インフレ率を懸念しつつ、マイナス金利政策を導入したということかと思います。ちなみに、マイナス金利とは、厳密にいえば、民間の銀行が日本銀行に預けている預金がありますが、この預金のうちの一部の金利をマイナスにするという政策になります。
●今までの日銀政策は「0%の壁」の手前
そこで、日銀の政策全体を振り返ってみます。やや大雑把な図ですが、イメージとしてこちら(縦)に金利の軸をとりまして、このあたりを0パーセントだとします。それから、こちら(横軸)をマネーの量とします。
金融緩和をするというとき、しばらく前まで(日本の場合はずっと前ですけれども)、通常は金利を下げていきます。その過程で必然的にマネーの量も少し増えるということになりますので、このような動きをしてきたわけです。ただ、これは日本の場合、90年代半ばくらいにこのあたり(ゼロパーセント近く)まで来てしまいました。ここにゼロパーセントの壁があり、それ以上は下げられないというのが常識でした。それでも緩和をするという場合には、金利はいじれないので、今やっているような量的緩和、あるいは、量的質的緩和によってこちらへ動かす(マネーの量を増やす)という動きを取ってきたわけです。
●マイナス金利を深めつつ、必要があれば量ももう一段増やす
しかし、これも今、申し上げましたように、効き目は少し弱いのです。あるいは、さらにマーケットが荒れた一因でもあるのですが、例えば、日銀が国債を買い過ぎて、これ以上もうあまり買えないのではないかという懸念も広がり始めていたわけです。この横軸で右方向にいく動き(マネーの量を増やす)も、どこかで壁があるのではないかという懸念があり、マーケットに下押し圧力が強まったという面もあるかと思います。
そこで、やむを得ず金利をゼロより下に行ってみたということになります。これは、昔から理論的な可能性としては考えられてきたのですが、できるのかなと皆、心配していたわけです。ただ、ヨーロッパの中央銀行のいくつかが先んじてマイナス金利政策を導入して、ある程度はやれそうだというメドが立っていたので、日本銀行もゼロより下の金利で少し実験してみようという動きになったと思います。
ただ、後で申し上げますように、無限にマイナスに行けるわけではなく、どこかにまたマイナス金利の下限のようなものがあると考えざるを得ないのかなと思います。ですから、今後の政策の方向としては、多少マイナス金利を深めつつ、必要があれば量ももう一段増やすという(表に示された赤い線)方向を目指すという感じかなと思われます。
●「現金の金利はゼロ」がマイナス金利の波及効果を弱めてしまう
では、多少技術的になりますが、マイナス金利の影響について少し考えてみたいと思います。金利を下げるということですので、基本的には普通の利下げと同じという面が強いかと思います。今回も、プラス0.1の預金金利(民間銀行の日銀預け金金利の一部)をマイナス0.1にするということですから、全体としては大まかにですが、0.2パーセント分の利下げと同じという解釈があり得るかと思います。
ただ、普通の利下げと違うのは、金利が下がらない金融商品があるということです。普通の利下げの場合、多くの金融商品の金利が一緒に下がるわけですが、今回の場合は現金という特殊な商品があります。この金...