●消費者物価指数の微変動に一喜一憂する必要はない
黒田東彦日銀総裁の下、2015年度の末、つまり2016年の3月までに、消費者物価上昇率、インフレ率を2パーセントにもっていくという形でやってきたわけですが、ここにきて、石油価格の大幅下落もあって、目標達成はなかなか難しいだろうという見方が非常に強まってきました。もともと民間のエコノミストは、日銀の目標は多少実現が難しいのではないかという議論をしていたわけですが、先日の日本銀行の政策決定会合の後の黒田東彦総裁の会見では、結果的には、日本銀行もその見方に少し擦り寄ってきたと言えるかもしれません。
具体的には何かというと、石油価格が下がったために、当初想定していたよりも、予想の物価上昇率に対しての数字を少し下げたということ。それから、2016年の3月、つまり2015年度末までに物価上昇率2パーセントにもっていくことは、ひょっとしたらスケジュール通りには実現できない可能性もある、つまり、これは将来必ず実現するけれど、少し時期が後ろにずれるかもしれないということを、日銀総裁はおっしゃったわけです。これが非常に大きな波紋を呼んでいます。
先週、私は香港で大きな金融の会議に出ていたのですが、たまたまその前の週に黒田総裁がスイスのダボスで発言したものですから、その中で「これからもう少しクリエイティブな金融政策運営をする」と表現された部分について、「クリエイティブ」とはどういう意味が考えられるかが、その香港の会議に集まった世界の多くの投資家の間で話題になりました。非常に興味深いことだと思います。
私の個人的な見方を申し上げますと、この問題はそれほど大変な話ではないと考えています。なぜかというと、確かに原油価格の下落は、足元の消費者物価上昇率を少し落としていきます。想定したよりも速いスピードで物価が上がっていくことにはなりにくいかもしれません。しかし、マクロ経済全体から見ると、これは明らかに経済を後押しする要因であるわけですから、これから半年くらいはいざ知らず、1年、あるいは1年半先を見ていくと、むしろ消費等に非常にプラスに働いてくる可能性が強いです。
ですから、足元の消費者物価指数の多少の変動に一喜一憂するより、「これまで日本銀行がやってきた金融緩和策は順調に進んでいる」と見るべきだろうと思います。
●原油価格下落は長期的に大いにプラス
それは、先日の経済財政諮問会議の中でも、いろいろな形で議論されてきましたが、いくつかポイントを申します。
まず、原油価格が下落したことが、どれだけの意味を持っているかを、やはりきちんと見ておく必要があるだろうと思います。ご案内のように、ちょうど1年ぐらい前は、ドバイの原油価格が100ドルを超えていました。それが、現在は、50ドル前後で動いています。仮に少し堅く見積もって、原油や天然ガスの価格が約40パーセント下がったとして、それが日本経済にどれくらいのインパクトがあるかを考えてみましょう。
原油価格が下がる前、つまり、一昨年の2013年ごろの日本の原油、天然ガスなど化石燃料の輸入額は、約28兆5000億円でした。ざくっと見て、GDPの約6パーセントが燃料の輸入額だったのです。その価格が40パーセント下がるわけですから、約12兆円、日本が海外に払うお金が減ったわけです。
これはもう大変な景気効果なのです。比較のために考えていただければよく分かりますが、2014年度の補正予算が約3兆円の規模ですから、それに比べても大変大きな規模ですし、しかも、これが全部、棚ぼた式に入ってくるのです。
では、これがデフレ的かインフレ的かと言えば、これは明らかにインフレ的な側面を持っています。そういう意味では、いま起きていることは、好ましくないことでは全くないと言えるでしょう。
●GDPデフレーターで見た物価指数は上がっている
政府サイドから見ると、やはり非常に重要なのが、今の日本のデフレ脱却はトータルで見る必要があるということだろうと思います。
日本銀行は、金融政策のコミットメントが重要ですから、消費者物価に目標を立ててやっていますが、政府から見ると、消費者物価指数以外に、例えば、GDPデフレーターや、あるいは賃金上昇率だとか、あるいはGDPギャップのようなものなど、トータルに見る必要があると思います。
そして、今回の原油価格下落によって、とても面白いことが起こっています。それは何かというと、消費者物価指数で見た物価上昇率は少し下がり気味ですが、GDPデフレーターで見た物価指数は、むしろ上がってきているのです。
これはなぜかと言うと、GDPデフレーターとは、日本の国内の付加価値であるGDPの価格です。ですから、海...