●政府の借金を減らすのは長期の作業になる
日本の財政問題についてさまざまな議論が行われていますが、全ての議論の冒頭、背景にあるのは、日本はすでに1000兆円を超えた借金を抱えていることです。これはもう返済する以外にどうにもなりませんから、何とか返済しなくてはならない。このことがある意味で、財政健全化、財政再建の危機感を煽っています。
確かに、政府が厖大な借金を抱えていることは大きな問題です。借金の返済と金利を払うためだけに財政支出の一部を取らなくてはなりませんから、それだけで財政が窮屈になってしまいます。しかし、それ以上に多くの専門家が恐れていることは、将来、日本の財政に対する不安感が募り、マーケットの信任の揺らぎが起こったとき、国債の金利が上がってしまうかもしれないということです。現在、日本の10年物国債の金利は0.5パーセント前後ですが、仮にこれが2.5パーセントまで、2パーセントポイント上がるとすると、1000兆円の2パーセントの金利負担になります。大変な額になるわけです。
もちろん金利が上がったからといって、すぐに金利負担が増えるわけではありません。過去に発行した国債はすでに金利が決まっており、新たに発行する分だけ金利が上がるのですから。しかし、金利が上がってくると財政が厳しくなることも確かですから、できるだけ早くこうした状況を脱却しなければならないという議論になっているのです。
この議論で、少し気をつけなくてはならない点があります。政府の借金が大問題であることは間違いありませんが、そもそも1000兆円の借金がいつどのようにできたのかといえば、ご存知のようにバブル崩壊直前までは財政黒字で、バブルが崩壊し、経済が低迷して、税収もどんどん減っていく中で財政赤字が出て、これが借金になっていったのです。分かりやすくいうと、1990年代のはじめから2015年まで、約25年かけて赤字を増やしてきてしまった。25年かけてためてきた借金を、3年や5年で急速に減らすなどということはほとんど不可能に近い話です。政府の借金を減らすのは、相当長期の作業になるでしょう。今この時点で、それを減らす手法を真剣に議論しておく必要があるだろうと思います。
●借金を返済するには少し違った発想が必要
日本政府の財政健全化政策は、10MTVでこれまで何度もお話ししてきたように、当面は二つが中心になるでしょう。一つは、できるだけ早く財政赤字をなくし、出血を止めること。もちろん財政赤字をなくす手前には、プライマリーバランス、つまり国債費を除いた財政収支をバランスさせるところまで財政赤字を縮小させる作業があり、次に国債費も入れた財政収支をバランスさせる必要があります。これが今まさに政策の中心となっており、どこまで歳出をカットするか、どこまで消費税率を上げるかが大きな議論になっています。
もう一つ、緊急性を要するのは、これも10MTVで申し上げてきたことですが、2025年に団塊の世代が75歳を超え、医療費が急速に増えていくことが予想されます。2035年には85歳を超えますから、さらに介護費用が増える。そのときに困ることがないよう、今からきちんと社会保障改革を行う必要があります。
今年の政府の骨太方針では、その辺を重点に置き、かなりきめ細やかに社会保障改革案を出しています。一部の新聞では、「歳出カット目標を出していないから、経済財政諮問会議が後退した」といった単純な議論をしていますが、話はそう簡単ではありません。過去には歳出カットだけを進めすぎて財政再建を失敗しています。むしろ歳出の質を良くすることが重要なのです。そこで高齢化向けの医療や年金の改革が行われているのです。
こうして財政健全化を実行して、財政赤字を減らし、高齢化に対応できる社会保障改革を行ったとしても、1000兆円を超える債務は残りますから、それをどうするかという話をしなくてはなりません。先ほど申しましたように25年かけて増やした赤字ですから、減らすにはそれなりの時間がかかります。
単純に考えると、いま日本のGDPは約500兆円で、借金は1000兆円を超えていますから、GDPに対する債務比率は200パーセントを超えています。政府は借金の一方で金融資産を持っている、政府の債権債務を精査すれば数字はもう少し低くなるといった指摘があって、200パーセントの債務比率が本当に正しい数字かどうかを議論し始めるときりがありませんが、おおよその数字としては全く問題ないと思います。
その借金をどこまで減らしたらよいのかについても、さまざまな議論がありますが、仮に200パーセントの債務比率を100パーセントにする、つまり1000兆円の債務を500兆円まで減らすには、500...