財政赤字の特効薬は、穏やかなインフレ
この講義の続きはもちろん、
5,000本以上の動画を好きなだけ見られる。
スキマ時間に“一流の教養”が身につく
まずは72時間¥0で体験
政府の1000兆円の借金はどうやって減らすのか?
財政赤字の特効薬は、穏やかなインフレ
伊藤元重(東京大学名誉教授)
「日本の財政赤字には特効薬がある」と、東京大学大学院経済学研究科教授・伊藤元重氏は語る。それは一体何なのか。それはなぜ効果があるのか。
時間:13分59秒
収録日:2015年8月5日
追加日:2015年9月7日
カテゴリー:
≪全文≫

●政府の借金を減らすのは長期の作業になる


 日本の財政問題についてさまざまな議論が行われていますが、全ての議論の冒頭、背景にあるのは、日本はすでに1000兆円を超えた借金を抱えていることです。これはもう返済する以外にどうにもなりませんから、何とか返済しなくてはならない。このことがある意味で、財政健全化、財政再建の危機感を煽っています。

 確かに、政府が厖大な借金を抱えていることは大きな問題です。借金の返済と金利を払うためだけに財政支出の一部を取らなくてはなりませんから、それだけで財政が窮屈になってしまいます。しかし、それ以上に多くの専門家が恐れていることは、将来、日本の財政に対する不安感が募り、マーケットの信任の揺らぎが起こったとき、国債の金利が上がってしまうかもしれないということです。現在、日本の10年物国債の金利は0.5パーセント前後ですが、仮にこれが2.5パーセントまで、2パーセントポイント上がるとすると、1000兆円の2パーセントの金利負担になります。大変な額になるわけです。

 もちろん金利が上がったからといって、すぐに金利負担が増えるわけではありません。過去に発行した国債はすでに金利が決まっており、新たに発行する分だけ金利が上がるのですから。しかし、金利が上がってくると財政が厳しくなることも確かですから、できるだけ早くこうした状況を脱却しなければならないという議論になっているのです。

 この議論で、少し気をつけなくてはならない点があります。政府の借金が大問題であることは間違いありませんが、そもそも1000兆円の借金がいつどのようにできたのかといえば、ご存知のようにバブル崩壊直前までは財政黒字で、バブルが崩壊し、経済が低迷して、税収もどんどん減っていく中で財政赤字が出て、これが借金になっていったのです。分かりやすくいうと、1990年代のはじめから2015年まで、約25年かけて赤字を増やしてきてしまった。25年かけてためてきた借金を、3年や5年で急速に減らすなどということはほとんど不可能に近い話です。政府の借金を減らすのは、相当長期の作業になるでしょう。今この時点で、それを減らす手法を真剣に議論しておく必要があるだろうと思います。


●借金を返済するには少し違った発想が必要


 日本政府の財政健全化政策は、10MTVでこれまで何度もお話しし...

スキマ時間でも、ながら学びでも
第一人者による講義を1話10分でお届け
さっそく始めてみる
「政治と経済」でまず見るべき講義シリーズ
トランプ・ドクトリンと米国第一主義外交(1)リヤド演説とトランプ・ドクトリン
トランプ・ドクトリンの衝撃――民主主義からの大転換へ
東秀敏
日本人が知らないアメリカ政治のしくみ(1)アメリカの大統領権限
権限の少ないアメリカ大統領は政治をどう動かしているのか
曽根泰教
多数派が多数でなくなるとき
悩める多数派…なぜ「多数は少数の集まり」と考えるべきか
曽根泰教
マルクス入門と資本主義の未来(1)マルクスとはどんな人物なのか
マルクスを理解するための4つの重要ポイント
橋爪大三郎
グローバル環境の変化と日本の課題(1)世界の貿易・投資の構造変化
トランプ大統領を止められるのは?グローバル環境の現在地
石黒憲彦
ポスト国連と憲法9条・安保(1)国連の構造的問題
核保有する国連常任理事国は、むしろ安心して戦争できる
橋爪大三郎

人気の講義ランキングTOP10
何回説明しても伝わらない問題と認知科学(3)認知バイアスとの正しい向き合い方
知ってるつもり、過大評価…バイアス解決の鍵は「謙虚さ」
今井むつみ
内側から見たアメリカと日本(3)ビル・ゲイツの世界戦略
「50億人を救う」と宣言したゲイツとの粋なエピソード
島田晴雄
「宇宙の創生」の仕組みと宇宙物理学の歴史(1)宇宙の階層構造
「宇宙の階層構造」誕生の謎に迫るのが宇宙物理学のテーマ
岡朋治
エネルギーと医学から考える空海が拓く未来(2)量子論と空海密教の本質
脳内の量子的効果――ペンローズ=ハメロフ仮説とは
鎌田東二
歴史の探り方、活かし方(2)図書館「レファレンス」の活用
図書館の便利な活用法…全国の図書館からの「お取り寄せ」
中村彰彦
クーデターの条件~台湾を事例に考える(1)クーデターとは何か
台湾でクーデターは起きるのか?想定シナリオとその可能性
上杉勇司
伊能忠敬に学ぶ「第二の人生」の生き方(1)少年時代
伊能忠敬に学ぶ、人生を高めて充実させる「工夫と覚悟」
童門冬二
徳と仏教の人生論(3)無分別知と全人格的思惟
般若とは何か――秋月龍珉からの命題を探求し到達した境地
田口佳史
習近平中国の真実…米中関係・台湾問題(7)不動産暴落と企業倒産の内実
不動産暴落、大企業倒産危機…中国経済の苦境の実態とは?
垂秀夫
経験学習を促すリーダーシップ(1)経験学習の基本
成長を促す「3つの経験」とは?経験学習の基本を学ぶ
松尾睦