財政健全化~増税先送りの影響と社会保障改革
この講義の続きはもちろん、
5,000本以上の動画を好きなだけ見られる。
スキマ時間に“一流の教養”が身につく
まずは72時間¥0で体験
消費税増税先送りは財政健全化に悪影響を及ぼすのか?
財政健全化~増税先送りの影響と社会保障改革
政治と経済
伊藤元重(東京大学名誉教授)
消費税増税先送りは、国の財政にどのような影響を与えたのか? また歳出の大半を占める社会保障費を今後どう負担していくのか。現在の日本の重要課題である財政健全化について、東京大学大学院経済学研究科教授・伊藤元重氏が消費増税先送りの影響と今後の見通しを語った。
時間:9分48秒
収録日:2015年2月2日
追加日:2015年2月16日
カテゴリー:
≪全文≫

●消費増税の先送りのダメージはない


 財政健全化は今の日本にとって非常に重要な問題です。特に、2015年、今年の10月に8パーセントから10パーセントに引き上げられるはずだった消費税の引き上げが、1年半延期され、2017年の4月まで先送りされるということを、昨年、安倍晋三総理が決めた段階で、日本の財政健全化は、やはり次の新しいステージに入っているのだろうと思います。

 結果論で見ると、消費税の引き上げを1年半延ばしたことが日本の財政健全化のプロセスに著しく悪い影響を及ぼすことにはならなかったと言っていいと思います。そして、これにはいくつかポイントがあります。

 まず一つは、いま政府の財政健全化のプロセスにつまずきが生じる最も気をつけなければならないポイントは、マーケットが日本の国債を売りに出て、国債金利が上がってしまうこと、これがまず一番の懸念材料です。

 しかし、今これはあまり起こりそうもありません。それはどうしてかというと、日本銀行がこれだけ大量の国債を購入し続けているプロセスでは、それに対抗して国債の売りのポジションをもって国債の金利が上がっていく、つまり国債の価格が下がっていくことを仕掛ける投資家は、皆無といって構わないと思います。

 ですから、よくマーケット関係者が言うのですが、この局面で、例えばヘッジファンドなど投資を仕掛ける人たちがいま何をやろうとしているかというと、国債で日銀と勝負しても勝負にならないから、むしろ為替で勝負しようというのです。為替は、政府も中央銀行も、今この段階では介入していませんから、むしろ為替で円安をあおるような動きがあったと思います。

 その話はさておき、つまり結果的には、永遠にとは申しませんが、今この時点では、しばらくは国債の金利は、市場圧力によって動くような状況にはないということが、今の政権にとってみると、やはり財政の健全化の手法にある種のスペースを与えたというか、自由度を与えたということになると思います。

 したがって、いま2015年に消費税を上げるか、2017年に消費税を上げるかということは、実はそれほど大きな違いにはなっていなかった。これは、第一の重要な点だと思います。


●2015年度の赤字半減目標は実現できる


 第二の重要な点は、消費税引き上げを1年半伸ばしたにもかかわらず、実は、201...

スキマ時間でも、ながら学びでも
第一人者による講義を1話10分でお届け
さっそく始めてみる
「政治と経済」でまず見るべき講義シリーズ
半導体から見る明日の世界(1)世界的な半導体不足と日本の可能性
なぜ世界の半導体不足は起きた?台湾TSMCと日本復活への鍵
島田晴雄
本当によくわかる経済学史(1)経済学史の概観
経済学史の基礎知識…大きな流れをいかに理解すべきか
柿埜真吾
デジタル全体主義を哲学的に考える(1)デジタル全体主義とは何か
20世紀型の全体主義とは違う現代の「デジタル全体主義」
中島隆博
独立と在野を支える中間団体(1)「中間団体」とは何か
なぜ中間団体が重要か…家族も企業も学校も自治会も政党も
片山杜秀
マルクス入門と資本主義の未来(1)マルクスとはどんな人物なのか
マルクスを理解するための4つの重要ポイント
橋爪大三郎
アンチ・グローバリズムの行方を読む(1)世界情勢の転換
強まるアンチ・グローバリズムの動きをどう見ればいいか
岡本行夫

人気の講義ランキングTOP10
ヒトは共同保育~生物学から考える子育て(1)動物の配偶と子育てシステム
ヒトは共同保育の動物――生物学からみた子育ての基礎知識
長谷川眞理子
未来を知るための宇宙開発の歴史(7)米ソとは異なる日本の宇宙開発
日本の弾道ミサイル開発禁止!?米ソとは異なる宇宙開拓の道
川口淳一郎
「アカデメイア」から考える学びの意義(4)学びの3つのキーワード
より良い人生への学び…開かれた知、批判の精神、学ぶ主体
納富信留
「集権と分権」から考える日本の核心(3)中央集権と六国史の時代の終焉
天平期の天然痘で国民の3割が死亡?…大仏と崩れる律令制
片山杜秀
数学と音楽の不思議な関係(1)だれもがみんな数学者で音楽家
世界は数学と音楽でできている…歴史が物語る密接な関係
中島さち子
教養としての世界史とローマ史~ローマ史講座・講演編(2)神々のささやく世界
「神々のささやく世界」では神々の声が行動を決める
本村凌二
モンゴル帝国の世界史(2)チンギス・ハーンのカリスマ性
自由な多民族をモンゴルに統一したチンギス・ハーンの魅力
宮脇淳子
知識創造戦略論~暗黙知から形式知へ(1)イノベーションと価値創造
価値創造において重要なのは未来から現在を見るという視点
遠山亮子
DEIの重要性と企業経営(4)人口統計的DEIと女性活躍推進の効果
日本的雇用慣行の課題…女性比率を高めても業績向上は難しい
山本勲
睡眠から考える健康リスクと社会的時差ボケ(5)シフトワークと健康問題
発がんリスク、心身の不調…シフトワークの悪影響に迫る
西多昌規