●消費増税の先送りのダメージはない
財政健全化は今の日本にとって非常に重要な問題です。特に、2015年、今年の10月に8パーセントから10パーセントに引き上げられるはずだった消費税の引き上げが、1年半延期され、2017年の4月まで先送りされるということを、昨年、安倍晋三総理が決めた段階で、日本の財政健全化は、やはり次の新しいステージに入っているのだろうと思います。
結果論で見ると、消費税の引き上げを1年半延ばしたことが日本の財政健全化のプロセスに著しく悪い影響を及ぼすことにはならなかったと言っていいと思います。そして、これにはいくつかポイントがあります。
まず一つは、いま政府の財政健全化のプロセスにつまずきが生じる最も気をつけなければならないポイントは、マーケットが日本の国債を売りに出て、国債金利が上がってしまうこと、これがまず一番の懸念材料です。
しかし、今これはあまり起こりそうもありません。それはどうしてかというと、日本銀行がこれだけ大量の国債を購入し続けているプロセスでは、それに対抗して国債の売りのポジションをもって国債の金利が上がっていく、つまり国債の価格が下がっていくことを仕掛ける投資家は、皆無といって構わないと思います。
ですから、よくマーケット関係者が言うのですが、この局面で、例えばヘッジファンドなど投資を仕掛ける人たちがいま何をやろうとしているかというと、国債で日銀と勝負しても勝負にならないから、むしろ為替で勝負しようというのです。為替は、政府も中央銀行も、今この段階では介入していませんから、むしろ為替で円安をあおるような動きがあったと思います。
その話はさておき、つまり結果的には、永遠にとは申しませんが、今この時点では、しばらくは国債の金利は、市場圧力によって動くような状況にはないということが、今の政権にとってみると、やはり財政の健全化の手法にある種のスペースを与えたというか、自由度を与えたということになると思います。
したがって、いま2015年に消費税を上げるか、2017年に消費税を上げるかということは、実はそれほど大きな違いにはなっていなかった。これは、第一の重要な点だと思います。
●2015年度の赤字半減目標は実現できる
第二の重要な点は、消費税引き上げを1年半伸ばしたにもかかわらず、実は、2015年度の財政健全化目標を実現できそうだというのが、今の見通しになってきたことです。
2015年度の財政健全化目標は、これもよく知られていると思いますが、プライマリーバランスを、対2010年度比で半減させる目標です。これは実は2010年に菅直人内閣の下で、2015年度までにプライマリーバランスを財政赤字の対GDP比の値を半分にするということを決めたのです。結果的には、安倍内閣になってもこれを引き継いでいるということです。もちろん、もっとさかのぼれば、小泉・竹中の時代に、このプライマリーバランスの議論が始まっています。
消費税の引き上げが先送りされたことで、これは実現できないのではないだろうかと、一時不安感が出ました。ところが、実は、消費税の話とはまた別のところで、それ以上に、税収額がものすごい勢いで伸びてきています。デフレ脱却で物価が低下から上昇に向かっていくことで名目の税収が増えただけではなく、例えば、法人税や個人所得税などの税収が非常に増えているのです。結果的には、この税収増があるものですから、2015年度の財政健全化目標はほぼ実現できるというのが、今の相場感覚です。
別の言い方をすると、何としてでも消費税を上げなくても、2015年度のプライマリーバランスの赤字半減を実現させることが、今回の予算にも実は反映されています。例えば、介護報酬を2.5パーセント抑え込むことによって、社会保障費をぐっと抑え込むのは今年度の財政の特徴なのですが、これによって本来であれば8000億円増えるはずだった社会保障費が、4000億円の増加で抑えられた。これは、財務省がそういう形で動いたわけですが、このようなことができたというのは、やはりプライマリーバランスの赤字半減という目標が一方にあったので、それをサポートするために行われたわけです。
したがって、結論から言うと消費税の引き上げを後ろにずらしたわけですが、当面のところは、財政健全化のプロセスはきちんと追っているということです。
●問題は2020年度までの黒字化という目標
問題は、2020年度までに、もう一つのもっと厄介な目標である、プライマリーバランスでの財政赤字の黒字転換が実現できるかどうかということだろうと思います。残念ながら、これはまだなかなかめどが立っていません。
これまで、この2020年度までの黒字...