●原油安は、基本的には世界経済にプラス
次に原油安の影響ですが、まずファンダメンタルズの観点に立てば、明らかに世界経済にも日米経済にもプラスに働くと思われます。例えば、アメリカの家計部門では、今回の原油下落によって、事実上2パーセントに相当する減税と同じ効果があるのではないかと言われています。
日本も過去1年ほど、地方経済を中心に、ガソリン・エネルギー価格が上がったことによって景気が下向く動きが出ていましたが、今回はいよいよガソリン価格も下がっていますから、原油安の恩恵を被ることが可能になってくるのではないでしょうか。
●しかし、市場センチメントは悪化する傾向にある
次に、原油安が市場のセンチメント(市場心理)に与える影響ですが、世界経済が拡大し株価にもプラスになるのですから、通常なら株高もしくはセンチメントの改善が起こりやすいはずです。しかし、前回申し上げた通り、センチメントは改善するどころか、このところ悪化の傾向が出てきています。
なぜかというと、今回の原油価格の下落が、一部の産油国やアメリカのシェール業者の採算ラインを下回るところまで来てしまったのではないかと不安視されているからです。要するに、原油価格が下がり過ぎて、一部の産油業者やシェール業者が事業を展開できなくなるのではないかと考えられてきているのです。特に、産油国やシェール業者にお金を貸している投資家の不安心理が煽られています。
この悪影響が出ている産油国では、為替市場や株式市場の下げが厳しくなっています。典型例がロシアですが、2014年11月末にOPEC総会が減産を見送った後はそれ以外の国にも余波が広がっており、例えば、中南米ではメキシコやコロンビアの通貨、株式市場が売られています。アジアでは、マレーシアで通貨、株式市場の売り圧力が比較的強まっている状態です。
●ベネズエラは、注意すべき国ではないか
少々変わったところでは、カザフスタンやベネズエラでも動きが出ています。この2国は自国通貨の為替レートを固定していますから、通貨が売られることはあまりないのですが、いずれもソブリンCDS(クレジット・デフォルト・スワップ)が急上昇しており、もしかすると債務不履行やクレジットイベントが起こるのではないかという不安心理が現れています。
非常に興味深いのはベネズエラの動きです。実はベネズエラでは、このところ株価が上昇しています。産油国の中で、なぜベネズエラだけ株価が反発しているかというと、通貨が切り下げられ、現地通貨建ての株式市場が上昇して、通貨安インフレの悪循環に陥るのではないかという織り込みが始まっているからです。ベネズエラは注意すべき国ではないかと思います。
●悪影響は、アメリカの金融市場にも表れている
このような原油安の悪影響は、新興国のみならず、実はアメリカの金融市場にも表れています。例えば、アメリカのシェール業者が資源開発の際に使う資金調達の手段「MLP(マスター・リミテッド・パートナーシップ)」の指数がこのところ急落しています。また、社債市場におけるジャンク債のクレジットスプレッドが非常に拡大しており、投資家がエネルギー開発にお金を出しにくくなっています。
以上、二つ目の論点として、原油安の影響がどのように出てくるかをお話ししました。長期的なファンダメンタルズ的観点では、原油安は世界経済にプラスに働くと考えられますが、中短期的には、金融市場に混乱を招いてしまっているのが現状です。