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当たり前のことを徹底してやった時、初めて人の心は動く

そこまでやるか

上甲晃
志ネットワーク代表
情報・テキスト
松下幸之助の言葉には、凡人を奮い立てる真実が多い。天才のみがこの世を統べるわけではない。平凡を徹底し、継続して積み重ねることが、非凡となって人の心を初めて動かす。志ネットワーク代表・上甲晃氏が松下電器時代の体験を踏まえて語る。(2015年3月20日開催日本ビジネス協会JBCインタラクティブセミナー講演より、全8話中第7話目)
時間:08:48
収録日:2015/03/20
追加日:2015/04/08
カテゴリー:
≪全文≫

●「そこまでやるか」に徹して、人の心を動かす


 私が松下電器産業株式会社(現パナソニック株式会社、以下「松下電器」)の頃、一番大事にしたのは「そこまでやるか」の合言葉でした。

 難しいことなどしなくていい、特別なことなどしなくていい。誰でもやっている当たり前のことに、「そこまでやるか」と言われるほど徹したときに、初めて人の心を動かすことができる。そこそこ適当にやっている間は、絶対に人の心を動かすことはできない。

 「お宅、そこまでやるんですか?」という時の「そこまでやるか」です。これは、松下幸之助から私が徹底して教えてもらったことです。


●たこ糸使いで、会議室の空気を変える


 松下電器在職中は、会議をやるときには必ずポケットに「たこ糸」を入れていきました。先ほどお話しした山形中央高校もひもを持っていましたが、私もよくたこ糸を使っていたのです。座席、机、名札から机の資料に至るまで、全てたこ糸を使って寸分違わず、ピシッと並べるためです。ペットボトルを置くときは、位置はもちろん方向もラベルが見えるようにそろえ、ピシッと並べるのです。

 まさに、「そこまでやるか」。ですから若い社員は「座ったら一緒でしょ」と言うのですが、即座に叱り飛ばされます。

 「そういう考え方をしていたら、いつまでたっても本物にはなれん。心の限りを尽くして準備した部屋は、空気が変わるんや」と言われます。「空気が変わることが分からなければ、経営者にはなれん」と教えられたのです。若い時は私もまた、それが分からず、「空気で経営なんて分かるか」と思っていました。


●「経営者は空気で経営がわからなあかん」


 高度な経営分析をしないと経営は分からないと思っていた私たちに、幸之助は言いました。「もちろんそういうことを否定するわけではないが、経営者は空気で経営がわからなあかん」。それは、そういう準備をいつもやってきていると、空気で「察知する力」が出てくるからだということでした。

 いつもそうやって会議室の用意をピシッと整えておくと、よその会議室にいったときに、違いが分かります。机がガタガタしていたり、席の前後が広かったり狭かったり。たばこの煙が残っていて、何となく空気が「締まらない」と感じるときがあります。

 そのように、他の会社の会議室に足を踏み入れた瞬間に、「この会社はもうかるな」ということが空気で分からないといけない。普段自分が平凡なことにしっかり徹していると、その「空気の力」が感じられるようになるのです。


●座布団の前後・裏表に見る料亭の「一流度」


 宴会もそういう方式でやりました。たこ糸をピンと張り、座布団をピシッと並べる。全部並べ終わった時に先輩から「おい、上甲。お前の座布団、前と後が反対や。裏と表も逆や」と言われました。「ええっ? 座布団に、前とか後ろとかあるんですか。裏とか表とか、あるんですか。大学へ行ったけど、そんなこと教わりませんでした」と言うと、本気で叱られました。

 「座布団には前と後があるんや。裏と表もある。その証拠に、一流の料亭では全部ビシっとそろっている」と言うのです。「一流」というからには、料理や器が一流というだけではない。「隅々まで行き届いているのが一流や」と言うのですが、本当にそうでした。名だたる料理店へ行くと、こちらが知っている・知らないにかかわらず、座布団の前後・裏表は全てそろっているのです。

 そして、また「あれ? この店、今日は前後・裏表がそろってない」となると、すぐに分かります。社員の教育が少し手抜きになっているのではないか、一流の座にあぐらをかいて経営の「たが」が少し緩んでいるのではないかということを、座布団一枚から見抜くことができるようになります。

 真理は、平凡の中にある。その中には「空気力」と呼ばれる、空気で分かる力があって、「あそこと取引したらあかんな」と分かる力がついてくるのです。


●応接間の作法でスクープを射止めた草柳大蔵


 また、来客用の会議室に入ったら、まず掛け軸や絵を見るように言われました。「これはご亭主の心遣いなんや」、だから絵を見ることがご亭主の心遣いに目を向けることになる、と。本当にそうなのですが、実際にはほとんど見ていない、眼中にないという格好です。

 飾っているのが誰の絵かをきちんと見ることを厳しく教えられたのが、草柳大蔵さんでした。ご自身がマスコミで記者をされている時、ある財界人のお宅へ原稿を取りに行った。そこのソファにどかっと座っていると、奥さまに叱られたのだそうです。

 「あなた、若い記者だからよく教えておいてあげるけれども、これから原稿を取りに人の家の応接間に通されたら、いきなりソファに座らずに、必ずそこに飾ってある絵や花に目を向けなさい」

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