●生産技術研究所は非常に特殊かつ仲のいい組織
大上 岡部徹先生は、東京大学の生産技術研究所(生研)という、東大の本郷とは独立した組織にいらっしゃると思っていますが、生研は面白いところですよね。
岡部 まさに私にとって非常に居心地のいい研究所で、(自身の境遇に)心から感謝しています。(大学の附属)研究所というと、一般の方はどんな組織かも分からないでしょうけれども、海兵隊特殊部隊を考えていただいたら一番理解できるのではないでしょうか。生産技術研究所は空母で、所長が艦長です。私たちは、それぞれ個別に勝手に作戦を実行するパイロットであり、場合によっては対ゲリラ(戦の特殊作戦)部隊であったりと、一研究者が一個人として世界中で活動するイメージです。
したがいまして、私自身も普段は頻繁に海外に行ったり、自分の研究に関わることを突き詰めています。ですから、研究所の皆さんとは、全く違うことをやっています。
ただ、ありがたいのは、外で一生懸命活動して、研究所に戻ってくると、皆が非常に仲がいいのです。要は、空母に戻ってきた戦闘機のパイロットのようなもので、空母の中にいる時はお互い助け合っているのです。他の研究組織は、ともすると足を引っ張り合ったり、いろいろと熾烈な競争があるようですが、生産技術研究所に関しては、非常に特殊かつ仲のいい組織だと思います。
●生産技術研究所の重要テーマ-技術、研究成果の社会実装
大上 逆に、企業、あるいは、社会から見た、生産技術研究所と関わることのメリットについて、どうお考えですか。
岡部 生産技術研究所はもともと東京大学の第二工学部で、しかも産学連携を非常に得意としていた研究所です。いわゆる技術、研究成果の社会実装を私たちの重要なテーマとして掲げていますので、そういった意味では、企業からの受けもいいと思います。
その証拠に、私自身も非鉄精錬関係の寄付研究部門に加え、サステイナブル材料国際研究センターという海外ネットワークの研究センターも運営させてもらっています。要は、外に対しては「大きく学者の枠を超えて活動している」のが、この生産技術研究所なのです。
大上 アカデミックな象徴が、ある意味、東大本郷だとすれば、生産技術研究所は、より(研究を社会に)実装(することも目的とした研究機関)に近い存在と言えるでしょうか。
岡部 もちろん、アカデミックなこともやっていますし、その方向に特化した先生もいますが、私の場合は、やはりレアメタルの精錬やリサイクルなど、産業に近いところをやっていますので、どうしても産業寄りの活動は多くなってしまいます。
●日本はチタン製造の最先進国で、世界の2割をつくっている
大上 岡部先生は以前、「私の夢はチタン閣寺をつくることだ」とおっしゃっていたと思うのですが、「チタン閣寺」とはそもそも何なのですか。
岡部 京都には金閣寺、銀閣寺がありますね。金閣寺を建てた当時は、恐らく一般の人から「品がない」と言われ、相当ばかにされたと思います。ただ、今や皆さんがお子さんや彼女、彼氏を連れて行く世界遺産になっているわけです。したがいまして、もし私がチタン閣寺を京都辺りに建立したら、500年後、1000年後は、恐らく世界遺産になると思います。
では、なぜチタン閣寺かと言いますと、チタンは絶対さびませんし、資源的に豊富です。もう一つ大事なのは、日本はチタンの製造(技術の開発研究)に関して最先進国だということです。大体、世界の2割ぐらいのチタンをつくっています。今後、航空機やロボット産業が発展すると、チタンはさらに必要となります。チタンは非常に夢のある材料なのですね。そういった意味で、私は学生の時からずっとチタンの研究をやっています。
●浅草寺や北野天満宮の屋根に使われているチタン
ただ、チタン閣寺と言うと、(そんなものはつくれるのかと)皆さん非常に不思議に思うかもしれません。実を言いますと、浅草にある有名な浅草寺の屋根瓦はセラミック(焼き物)でできていると皆さん思っていますが、あれは中が空っぽのチタンの箔なのです。表面処理をして、あたかもセラミックのように見せていますが、金属チタンの板でできているのです。
京都に行くと北野天満宮があります。屋根が青っぽくなっているため、皆さんあれは銅板を貼った屋根で、その銅がさびて緑青になったと思っています。もちろん昔は銅板を貼っていたのですが、今はチタン板を貼っているのです。ただ、チタンは(全くさびず)白くて金ぴかで全く色が変わらないので、あえて銅がさびたような緑青の色を塗っているのが現状です。
●問題はチタン製造コストの高さ、課題は技術革新と後継者育成
そういった意味では、チタンは一度屋根に使ったら永遠にもつ超長寿命...