「素読」の効果
この講義の続きはもちろん、
5,000本以上の動画を好きなだけ見られる。
スキマ時間に“一流の教養”が身につく
まずは72時間¥0で体験
「素読」とは何か?その学びの効果や意味を解説
「素読」の効果
田口佳史(東洋思想研究家)
江戸期の教育の特性として触れておかなければいけないのは「素読」であると老荘思想研究者・田口佳史氏は言う。素読とは、朝早く師匠などの元に集まり四書を皆で読むことだが、果たして素読の効果とはいかなるものか。
時間:12分12秒
収録日:2015年1月13日
追加日:2015年8月13日
≪全文≫

●素読には心の言葉を刻印する学習効果がある


 もう一つ特性として触れておかなければいけないのは、「素読」です。これは、早い子は3歳くらいから、今の時刻でいえば7時、あるいは、7時半という朝早い時間に、町内の長老、あるいは、自分の親やおじの元に集まって素読をするのです。素読とは何をすることか、簡単にいえば、四書をしっかりと皆で読むということです。

 素読の効果については、いろいろな書物で散見することができます。たくさんありますが、一つ目は、言葉の響きとリズムを反復・復誦することで得られる効果です。何度も何度も読むのですが、そうすることによって、いつも自分が使っている言葉とは次元の違う言葉、あるいは、日常の会話とは全く違うジャンルの言葉、つまり、心の言葉、精神の言葉というものを幼い魂に刻印するという学習効果があるわけです。したがって、これを素読によって3歳から15歳くらいまで何年も何年もずっと行うのです。


●素読は聡明な人間になるための訓練


 ここで少し申し上げておかなければいけないことがあります。目読についてです。これは明治になってから使われ始めた言葉で、それまで日本では、書物を読むというと皆、音読が普通でした。

 なぜ音読が重要なのか。素読が重要なのか。要するに今、われわれは声に出して読んでいる人はいませんね。それは、都市生活を考えれば、そうなってしかるべきかもしれませんが、音(声)に出して読みますと、自分の声を耳で聞くわけです。書物は、目で読むものだと私などは思っていましたが、江戸期はそうではなく、耳で読むものでした。要するに、自分が声に出して読めば、ちゃんと耳が聞いているのです。したがって、耳と目で読むことが大切な書物の読み方で、よく読み、よく見ることを「明」、よく聞くことを「聡」と言い、これをしっかりと訓練した人間が「聡明」な人間になったのです。素読はその訓練にもなったわけです。


●素読によって違いを恐れない人間になる


 それから、三つ目の効果としては、多くの人、例えば、性格の違う、あるいは、天性、天分の違う、それから、環境の違う子どもたちと読んでいく中で、そういった違いを超越した何か人間の魂の響きのようなものを毎日感じるようになることです。そうすると、人間にはいろいろな違いがあるけれど、それを乗り越えることの素晴らしさ、すごさという...

スキマ時間でも、ながら学びでも
第一人者による講義を1話10分でお届け
さっそく始めてみる
「哲学と生き方」でまず見るべき講義シリーズ
日本文化を学び直す(1)忘れてはいけない縄文文化
日本の根源はダイナミックでエネルギッシュな縄文文化
田口佳史
禅とは何か~禅と仏教の心(1)アメリカの禅と日本の禅
自発性を重んじる――藤田一照師が禅と仏教の心を説く
藤田一照
神話の「世界観」~日本と世界(1)踊りと物語
世界の神話の中で異彩を放つ日本神話の世界観
鎌田東二
道徳と多様性~道徳のメカニズム(1)既存の道徳の問題点
多様性の時代に必要な道徳とは…科学的アプローチで考える
鄭雄一
楽観は強い意志であり、悲観は人間の本性である
これからの時代をつくるのは、間違いなく「楽観主義」な人
小宮山宏
ヒトはなぜ罪を犯すのか(1)「善と悪の生物学」として
ヒトが罪を犯す理由…脳の働きから考える「善と悪」
長谷川眞理子

人気の講義ランキングTOP10
逆境に対峙する哲学(1)日常性が「破れ」て思考が始まる
逆境にどう対峙するか…西洋哲学×東洋哲学で問う知的ライブ
津崎良典
豊臣兄弟~秀吉と秀長の実像に迫る(4)信長の直臣、秀吉の与力としての秀長
最初は信長の直臣として活躍――武闘派・秀長の前半生は?
黒田基樹
「アメリカの教会」でわかる米国の本質(1)アメリカはそもそも分断社会
「キリスト教は知らない」ではアメリカ市民はつとまらない
橋爪大三郎
葛飾北斎と応為~その生涯と作品(4)葛飾応為の芸術と人生
親娘で進歩させた芸術…葛飾応為の絵の特徴と北斎との比較
堀口茉純
生成AI「Round 2」への向き合い方(1)生成AI導入の現在地
生成AIの利活用に格差…世界の導入事情と日本の現状
渡辺宣彦
平和の追求~哲学者たちの構想(5)カント『永遠平和のために』
カント『永遠平和のために』…国連やEUの起源とされる理由
川出良枝
医療から考える国家安全保障上の脅威(1)「非対称兵器」という新たな脅威
フェンタニルの麻薬中毒も意図的な戦略?非対称兵器の脅威
山口芳裕
インテリジェンス・ヒストリー入門(1)情報収集と行動
日本の外交には「インテリジェンス」が足りない
中西輝政
人の行動の「なぜ」を読み解く行動分析学(1)随伴性
「なぜ人は部屋を片付けられないか」を行動分析学で考える
島宗理
熟睡できる環境・習慣とは(4)起きているときを充実させるために
夜まとめて寝なくてもいい!?「分割睡眠」という方法とは
西野精治