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なぜ新渡戸稲造は『武士道』を英語で著したのか

江戸とローマ~「父祖の遺風」と武士道(1)誠実さと新渡戸稲造『武士道』

本村凌二
東京大学名誉教授/文学博士
概要・テキスト
新渡戸稲造
出典:国立国会図書館
ローマと日本の共通項として、オリジナリティのなさが指摘されることがある。かつて西欧のモノマネと蔑まれていた日本がモノづくり大国に成長するには、人間としての誠実さが不可欠だった。実はローマにも共通する誠実さの源、ローマでは父祖の遺風、江戸では武士道だったのではないだろうか。(全6話中第1話)
※インタビュアー:川上達史(テンミニッツTV編集長)
時間:11:09
収録日:2021/07/16
追加日:2022/11/12
≪全文≫

●ソフィスティケートのために必要な誠実さとは


―― 皆様、こんにちは。本日は本村凌二先生の「江戸とローマ」の講義で「父祖の遺風と武士道」というテーマでお話をいただきます。どうぞよろしくお願いいたします。

本村 どうも。

―― 今回、「父祖の遺風」については、本村先生の『テンミニッツTV』講義でこれまでもいろいろご言及いただいています。やはりこれが武士道的な伝統との共通性が非常にあるということでしょうか。

本村 ええ。前にも言ったと思いますが、日本人とローマ人は意外に似ているところがあります。日本人はよくオリジナリティがないと批判されますが、実はローマ人も同じようなところがあります。ところがローマ人も、一旦自分たちが習得したものを磨き上げていく能力を持っています。日本人にも確かにそういうところがあるでしょう。

 皆さんには信じられないでしょうが、かつて戦後すぐの時期には、例えばアメリカに渡った「Made in Japan」が粗悪品の代表のようにいわれました。世界中でそのような評価を受けていた日本製品が、今ではまったくそうではなくなっています。一旦習得したものをソフィスティケートしていく能力には、非常に優れたものがあるわけです。

 その背景には、やはり一種の「人間としての誠実さ」というものがあると思います。物事をソフィスティケートしていくには、ごまかさないという資質が大事です。よりよくしていくような振りをして本当はごまかしているのでは、どうせボロが出てくる。長い時間をかけてよりよいものをつくっていくには、ごまかさない誠実さが必要だということです。


●誠実さの源、「父祖の遺風」と「武士道」


本村 その誠実さはどこでできてきたものかと考えたときに、ローマ人においては「モス・マイオルム(mos maiorum)」であり、日本人においては「武士道」ではないか。日本人は、キリスト教的な意味での共通の宗教を持っているわけではありません。武士道というと、『葉隠』とかいろいろな強面の武士道もありますが、私が思うのは、新渡戸稲造が書いた『武士道』でした。

 新渡戸がそれを書いた経緯として、幕末から明治維新の頃、たくさんの日本人が欧米を訪れていますよね(新渡戸は文久2(1862)年の幕末生まれですが、実際に訪れたのはそれよりももっと後になります)。そ...
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