テンミニッツTV|有識者による1話10分のオンライン講義
ログイン 会員登録 テンミニッツTVとは
社会人向け教養サービス 『テンミニッツTV』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2017.11.15

専門家が教える熊と遭遇した時の正しい対処法とは?

 もし、熊に襲われたらどうすればいいのか。助かる方法はあるのか。明治時代から現代まで、事故総数1,993件、被害者総数2,255人を調査し尽くしたクマ研究家・米田一彦氏の著書『熊が人を襲うとき』(つり人社)を参考に探っていきます。

 米田氏は秋田県庁生活環境自然保護課に勤務後、1986年からフリーのクマ研究家として国内外でクマに係わる研究を行っており、NPO法人日本ツキノワグマ研究所理事長を務めています。主な著書に『山でクマに会う方法』(山と渓谷社)、『クマを追う』(丸善出版)などがあります。

1年でも最も事故が多いのは9月、10月

 『熊が人を襲うとき』によると、1年のあいだで、最も事故が多いのは9~10月です。この時期、熊は「越冬、出産に備えて」、ドングリ類やブドウ類などを多食し、「食本能が覚醒しているので、遭遇すると事故が発生しやすく」なります。

 9~10月についで、事故が多くなるのは5~6月です。この時期、「初夏の山は山菜採りとタケノコ採りの人で山は賑わい」ます。他方、熊も同じものを食べます。さらに熊は「繁殖期(交尾期)にあたり、雄熊は興奮状態にある」ため、事故が多発するのです。

 ちなみに、被害者を年齢別で見ると、60代が圧倒的に多くなります。その理由について、米田氏は60代が「それだけ山間地集落で活動を担っている層だからだ」と述べています。

昨今の大量出没は温暖化が原因か

 年別で事故発生件数をみてみると、1999年以降に一気に増加し、とくに2004年、2006年、2010年は100件を超え、圧倒的に事故が多かったことがわかっています。

 その理由は解明されていませんが、米田氏は「04、06、10、12年と日本は以上な猛暑、高温に晒されて、同期するようにクマの出没年(=全国で大量に出没し、大量に駆除された年)に当たっている。十和利山のクマ襲撃事件と全国で大出没が起こった16年も顕著な猛暑だった。山中では黒いクマが暑さを嫌う様子が見られ、特に標高が低い里山に生息している若いクマには影響が大きかっただろう」と温暖化の影響の可能性を示唆しています。

事故が継続する地域がある

 県別事故件数は、1位岩手県が341件、2位秋田県284件、3位長野県174件、4位福島県150件という順になっています。事故が継続して発生する地域もあり、たとえば、岩手県釜石市の甲子、野田、定内、唐丹地区では、94年から99年にかけて11件の事故が連続し、重傷事故が多かったのだそうです。「同一家族系のクマが事故を起こし続けた」のではないかと米田さんは見ています。

 福島県会津若松市、天栄村、下郷町、会津高田町や、秋田県の八幡平、鳥海山、また、新潟県妙高高原町(現・妙高市)、妙高村(現・同上)、隣接する長野県信濃町のエリアも「危険地域」だということです。

「熊撃退スプレー」と「うつぶせ首ガード法」

 さて、以上のようなデータを学びましたが、熊と遭遇してしまった場合、どうすればいいのでしょうか。

 『熊が人を襲うとき』では、まず、防御用鈍器として「ピッケル」「ストック」「ステッキ」をなるべく所持することをすすめています。可能であれば、「ヘルメット」も装着すること。それから、安価で使い道があるのは「爆竹」で、「熊撃退スプレー」は最強の武器であるということです。

 ではもし本当に熊に遭遇してしまったら、どうすればいいのでしょうか。同書によると、もし熊との距離が遠い時は動かないこと、「不動する」ことです。熊は素早い動きに反応するので、逃げるときは「動作は緩慢に」。それでも襲われたらば、「大声を出す」。「何でも振り回して自分を大きく見せる」ように動作する。また、「持参した器物でクマの鼻先を打撃、口の中を刺す」。それか、「熊撃退スプレーを正しく使えば効果は確実です」などだそうです。

 また、同書ではイラスト付きで「うつぶせ首ガード法」についても説明しています。いわば、「死んだふり」の正しいポーズで、「地面にうつぶせになって腹部を守り、両手で首(頸動脈)と顔面をカバーする」姿勢です。米田氏は「クマの攻撃性が低い状態で襲われたときは、首をガードして「死んだふり」をした方が重傷化を防ぐ。山に慣れていない人には適した方法だ」と述べています。

 そして、あとがきには次のように書かれています。「どんな対策も概略10%の不確実性があることを忘れてはならない」。逆にいえば、90%は防ぐことができるということです。完全な熊対策はありませんが、やはり何事も備えあれば憂いなし。山に入いれば熊に出会う可能性があることを忘れないようにしましょう。

<参考文献>
『熊が人を襲うとき』(米田一彦著、つり人社)
http://tsuribito.co.jp/cover/archive/detail?id=4589&kind=1

<関連サイト>
日本ツキノワグマ研究所
http://ha3.seikyou.ne.jp/home/kmaita/
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
自分を豊かにする“教養の自己投資”始めてみませんか?
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,200本以上。 『テンミニッツTV』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

オウンゴールも!?ロシアにとって許しがたいNATO拡大の背景

オウンゴールも!?ロシアにとって許しがたいNATO拡大の背景

ロシアのハイブリッド戦争と旧ソ連諸国(1)ロシアの勢力圏構想とNATO拡大

長期化の様相を呈しているロシア・ウクライナ戦争。ウクライナに対してロシアが仕掛けているのは、多角的な手段を用いた「ハイブリッド戦争」である。それはいったいどのような戦略なのか。本シリーズ講義では、まずはこの戦争...
収録日:2024/07/25
追加日:2024/09/18
廣瀬陽子
慶應義塾大学総合政策学部教授
2

人の資本主義とは――新しい人間像と現代資本主義への警鐘

人の資本主義とは――新しい人間像と現代資本主義への警鐘

人の資本主義~モノ、コトの次は何か?(1)「人の資本主義」とは何か

「人間とは何か」「資本主義とは何か」、この二つの問い、その概念は歴史の上で常に変化し続けているという中島氏。「人の資本主義」は人と資本主義の合成語だが、両者を結合するとどのような反応がもたらされるか。今よりもよ...
収録日:2024/04/11
追加日:2024/07/27
中島隆博
東京大学東洋文化研究所長・教授
3

『風と共に去りぬ』で表現されたアイルランド移民の精神史

『風と共に去りぬ』で表現されたアイルランド移民の精神史

アメリカの理念と本質(5)アメリカのアイルランド問題

アイルランド本国で始まったアングロ・サクソンからの差別は大西洋を越えても消えず、逆にアメリカへ移民するアイルランド人たちに不撓不屈の精神を植え付けた。名作『風と共に去りぬ』には、その姿がビビッドに描かれている。...
収録日:2024/06/14
追加日:2024/09/17
中西輝政
京都大学名誉教授
4

どうすれば「最高の睡眠」は実現するか…健康な睡眠とは?

どうすれば「最高の睡眠」は実現するか…健康な睡眠とは?

「最高の睡眠」へ~知っておくべき睡眠常識(1)健康な睡眠のための方法

人生の約3分の1を、人は寝て過ごす。人間にとって不可欠な「睡眠」について、まだ分かっていないことが多く、睡眠ストレスや寝不足に悩む人は多い。現代人はどのように生活すれば最高の睡眠を得られるのだろうか。その前に、そ...
収録日:2021/06/23
追加日:2021/09/14
西野精治
スタンフォード大学医学部精神科教授
5

生物学的性差と文化的ジェンダー概念の入れ子構造の難しさ

生物学的性差と文化的ジェンダー概念の入れ子構造の難しさ

ヒトの性差とジェンダー論(5)生物学的性差と文化

第二次世界大戦下、その影響で飢餓が続いたオランダで集団としてそのときに生まれた男の子にゲイが多いという話がある。それは母親が極度のストレスを受けた生物学的影響だというが、一方で日本の戦国時代のような戦場で見られ...
収録日:2024/05/18
追加日:2024/09/16
長谷川眞理子
日本芸術文化振興会理事長