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DATE/ 2025.09.19

スマホや本が見えにくくなったら

「あれ? 見えづらい……」

 スマホや本を見ているとき、「文字がぼやける」とか「なんだか見えづらい」と感じた経験はありませんか? 40代にさしかかると、このような変化に気づく方がだんだん増えてきます。そんなとき、スマホや本を少し離すと見やすくなるなら「老眼」の可能性が高いです。これは医療の現場で「老視」と呼ばれる現象で、年齢を重ねれば誰にでも起こり得る目の変化のひとつです。

 老眼になる仕組みは、目の中にある水晶体と周辺の筋肉に密接な関係があります。水晶体はレンズの役割を果たす透明の組織で、周辺の筋肉がこの水晶体の光の屈折を調整して焦点を合わせています。若いうちはこの筋肉が力強く、素早く反応しますが、加齢とともに衰えが出てきます。このため、目のピントが合わせにくくなるのです。特に近くのものを見るときは屈折率が大きくなるように強く調整する必要があり、加齢で弱った筋肉には負荷が大きくなります。これが、老眼によって近くのものが見えづらくなる理由です。

 現代人はスマホやパソコンなどで近くを見る機会が多く、見えづらさを感じやすいといえます。老眼は加齢現象のひとつなので病気ではありませんが、見えづらさを我慢していると生活の質が下がってしまいますよね。眼精疲労や頭痛の原因にもなるので、老眼鏡などの適切な矯正器具を使って快適さを調整していきましょう。

重病が潜んでいる可能性も

 さらに気をつけたいのが、見えづらさの原因が老眼だけとは限らないということ。見えない範囲が増えてきたり、眼鏡の調整がすぐに合わなくなったり、片方の目だけが見えづらかったり……このような症状があるときには、老眼以外の目の病気が隠れているかもしれません。加齢で発症しやすい目の病気には以下のようなものがあります。

・緑内障:特に要注意の病気です。視野がだんだん狭くなり、治療が遅れると失明のおそれもあります。中高年の病気の代表例に上げられることが多く、実際に40歳以上の人の5%程度は緑内障というデータもあります。現状では完治する治療法がなく、一度発症すると症状を遅らせながら気長につきあう必要があります。進行がとてもゆっくりなので、病状がかなり深刻になってから自覚症状が現れることも珍しくありません。

・加齢黄斑変性:見ようとしているところが見えづらくなる病気です。視界の中心あたりが歪んだり、暗くなったり、症状が進むと色が識別できなくなったりします。目の奥には視覚の情報を脳に伝える網膜という組織があり、この網膜の中心を担う黄斑部が加齢で弱ると発症しやすくなります。50歳以上の人の1%程度に発症するというデータがあり、緑内障ほどではありませんが失明の可能性もある病気です。

・白内障:ものがかすんで見えたり、二重に見えたり、まぶしさを感じたりします。加齢とともに水晶体が白く濁ることが原因で、症状が進むと視力の低下もみられます。60代以上の発症率が高く、80代以上になると自覚症状はなくてもほとんどの人が発症しているといわれる、高齢者の病気の代表例です。

 目の病気は両目に同じ症状が出ることはあまりありません。このため、片目だけになんらかの症状があるときは病気の可能性を考慮したほうが賢明です。

目の健康を保つには

 それでは、目の老化を遅らせたり、目の病気を早期発見したりするには、どのようなことに気をつければよいでしょうか。以下のポイントを参考にしてみてください。

・定期的な眼科検査:「単なる老眼だと思っていたら緑内障の初期症状だった」というような展開は少なくありません。40歳を過ぎたら自覚症状がなくても年に1回の眼科検査を受けましょう。緑内障は視野や眼圧の検査ですぐに発見できます。

・自分に合った矯正器具を使う:度数やピントが合っていない眼鏡は目によけいな負担をかけてしまいます。市販の老眼鏡は左右の視力差や乱視の有無によっては合わないこともあるので、眼科や眼鏡店で検査してもらってぴったり合う眼鏡を選ぶと安心です。

・目をいたわる:スマホやパソコンを見ているときはまばたきの回数が減るため、ドライアイの原因になります。1時間に1回程度は目を閉じたり、遠くを見るなどして目を休めましょう。温熱効果のあるアイマスクで血流をよくするのも効果的です。

・目に効果がある栄養素を摂る:緑黄色野菜やブルーベリーなどに豊富に含まれるビタミンA・C・Eやアントシアニンは目のケアに効果的といわれます。これらの栄養素は粘膜の保護や抗酸化作用も期待できるので日々の生活に取り入れてみてもよいでしょう。

 年齢とともに心身が変化するのは当然のことです。しかし、年齢のせいにしてケアを放置してしまうと取り返しのつかない事態になってしまうかもしれません。スマホや本が見えにくくなったら、ちょうどよい機会と思って目と向き合ってみてもよいのではないでしょうか。

<参考サイト>
・年代から見る眼の病気「40~50代」|西大井駅前眼科
https://nishioi-ganka.com/generation/generation04.html
・加齢黄斑変性|日本眼科学会
https://www.nichigan.or.jp/public/disease/name.html?pdid=52
・白内障と手術|日本眼科医会
https://www.gankaikai.or.jp/health/24/
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