追悼・前財務次官 香川俊介氏
この講義の続きはもちろん、
5,000本以上の動画を好きなだけ見られる。
スキマ時間に“一流の教養”が身につく
まずは72時間¥0で体験
香川俊介氏への歴史家として述べる哀悼の意
追悼・前財務次官 香川俊介氏
政治と経済
山内昌之(東京大学名誉教授/歴史学者/武蔵野大学国際総合研究所客員教授)
2015年8月、前財務次官・香川俊介氏がこの世を去った。生前親交があり、その優れた能力と温かい人柄に魅了されていた歴史学者・山内昌之氏は、香川氏の死にあたり明治の二人の軍人にある共通点を見出すという。これは、国を憂えて命を懸けた人々の仕事と思いに、当代随一の歴史家が敬意を表しつつ語る哀悼の弁である。
時間:10分01秒
収録日:2015年8月19日
追加日:2015年9月21日
≪全文≫

●故・香川俊介氏の仕事


 皆さん、こんにちは。

 今日は、残念なことについて話題にさせていただきます。前財務次官の香川俊介さんが、この8月9日に東京都内の病院で亡くなられました。58歳の若さでした。惜しみても余りある死だという声は、いろいろなところから、さまざまな人から聞こえてきます。

 香川さんは、1979年に旧大蔵省、現在の財務省に入省してから、もっぱら予算編成を担う主計局を中心に勤務され、2014年7月に木下康司さんの後任として事務次官に就かれました。香川さんは、2012年の自民党、公明党、民主党の3党合意による社会保障と税の一体改革の推進や、14年4月の消費税率8パーセントへの引き上げなどに力を尽くした人でした。


●優れた能力と人柄-日本の将来を憂えた人


 増税は、政治家と国民には大変不評であり、かつ不人気な政策です。特に消費税の値上げともなると、もろ手を挙げて歓迎する人は極めて少ないでしょう。しかし、実質的に破綻国家となり、最近話題になったギリシャよりも財政状況の悪い日本において、誰かが国の未来や子孫の歴史を見据えて、消費税について取り組まなければいけない。次なる課題として、消費税の10パーセントへの増税の必要性を分かりやすく説明しなければなりませんでした。

 香川さんは、その包み込むような人格的な温かさや、難しい問題を分かりやすく説明してくれる能力において、私が思うに、一頭地を抜いた存在でした。生前、香川さんとの個人的な会話や研究会などでの触れ合いにおいても、私が魅せられたのはその頭脳の明晰さにもまして、誰をも分けへだてしない人間的な温かさ、誠実さでした。税金だけではなく、そもそも日本はこれからどうなるのかといった日本の将来や国のあり方について、総合的に心から憂えた香川さんは、歴史や政治外交についての私の意見も、静かに、そしてじっくりと聞き、感想を的確に述べてくれました。


●歴史的共通点をもつ香川・川上・田村


 香川さんの58歳という早すぎた死を歴史的に思う時、私はすぐに、明治時代に生まれた二人の人物を思い浮かべます。それは、川上操六と田村怡与造という二人です。この二人は、それぞれ50歳と48歳の若さで死を迎えました。二人とも軍人であり、香川さんは文官であるという大きな違いはあります。戦後生まれの昭和人である香川さんと、明治に...

スキマ時間でも、ながら学びでも
第一人者による講義を1話10分でお届け
さっそく始めてみる
「政治と経済」でまず見るべき講義シリーズ
「新しい資本主義」の本質と課題(1)新自由主義と『21世紀の資本』
新自由主義からの時代背景から「新しい資本主義」を問う
柳川範之
トランプ政権と「一寸先は闇」の国際秩序(1)国際秩序の転換点と既存秩序の崩壊
経済秩序や普遍的価値観を破壊し、軍事力行使も辞さぬ米国
佐橋亮
政治学講座~選挙をどう見るべきか(1)選挙の意味
選挙と政治権力…「選挙に勝つ」とはどういうことか?
曽根泰教
マルクス入門と資本主義の未来(1)マルクスとはどんな人物なのか
マルクスを理解するための4つの重要ポイント
橋爪大三郎
アンチ・グローバリズムの行方を読む(1)世界情勢の転換
強まるアンチ・グローバリズムの動きをどう見ればいいか
岡本行夫
グローバル環境の変化と日本の課題(1)世界の貿易・投資の構造変化
トランプの動きを止められるのは?グローバル環境の現在地
石黒憲彦

人気の講義ランキングTOP10
数学と音楽の不思議な関係(4)STEAM教育でつくる喜びを全ての人に
世界で最もクリエイティブな国は? STEAM教育が広がる理由
中島さち子
外交とは何か~不戦不敗の要諦を問う(3)「内政と外交」と持つべき外交感覚
国民に求められる外交感覚とは?陸奥宗光の臥薪嘗胆の意味
小原雅博
トランプ・ドクトリンと米国第一主義外交(1)リヤド演説とトランプ・ドクトリン
トランプ・ドクトリンの衝撃――民主主義からの大転換へ
東秀敏
続・日本人の「所得の謎」徹底分析(1)各国の財政と国民負担
日本と各国の比較…税負担は低いが社会保障の負担は高い
養田功一郎
経験学習を促すリーダーシップ(2)経験から学ぶ力
米長邦雄のアンラーニング、弟子の弟子になってV字成長
松尾睦
海底の仕組みと地球のメカニズム(1)海底の生まれるところ
地球上の火山活動の8割を占める「中央海嶺」とは何か
沖野郷子
戦前日本の「未完のファシズム」と現代(8)満州事変と世界大恐慌
「100年戦争」と考えて戦争に突入した日本の現実
片山杜秀
「集権と分権」から考える日本の核心(5)島国という地理的条件と高い森林率
各々の地でそれぞれ勝手に…森林率が高い島国・日本の特徴
片山杜秀
50代からの親の介護~その課題と準備(1)突然やってくる介護の問題
「親の介護」の問題…優しさだけでは続かない
太田差惠子
弥生人の実態~研究結果が明かす生活と文化(1)弥生時代はいつ始まったのか
なぜ弥生時代の始まりが600年も改まった?定説改訂の背景
藤尾慎一郎