●アメリカ海軍と他国海軍の違いとは
―― リムパック(環太平洋合同演習)などで合同訓練をやっていると、米海軍以外で、他の軍隊はどこが優れていますか。
山下 近い考え方の中で言えば──というのは、欧米の海軍は基本的にアメリカの考え方に近いものを持っているからですが──例えばイギリスのロイヤル・ネイビーとユナイテッド・ステイツのネイビーでは、アメリカの意思決定プロセスに似たものを英国海軍がやっているのかというと、意外とそうでもないと思います。
アメリカと一緒に演習をやっている中で言えば、近い考えを持っているのは、特に最近、力をつけてきているオーストラリアやカナダです。アメリカの影響力の強いところには、やはりこの考え方に従ったものがあるなとは思います。
もっとも、ロイヤル・ネイビーとは演習の機会がまだそれほどないということはあります。ただ、一緒にものをやろうとするときに、彼らがどんな意思決定プロセスの中で動いているのかということは、われわれとしてももう少し勉強する必要があるかという感じがしています。日本の環境に近い英国という世界、すなわち周りにいろいろな欧州の国がある中での意思決定のプロセスと、先ほどのアメリカのように、周りからの直接的な脅威はないけれど、いろいろな多民族からなる国家で多様な価値観の中で行っていく意思決定プロセスとでは、若干違うような気がします。
―― 違うのですね。アメリカの影響下のカナダやオーストラリアの方が、ノウハウが移転しているのですね。中国海軍はどういったレベルなのですか。
山下 先程の話ではないですが、中国はおそらく「こうしろ」というものがあるときに動く部分と、何もないときにただ動いているという部分とが混在しているのではないかと思います。まだまだ成長過程の海軍だろうということです。
―― 統制が取れていない。
山下 そうですね。中国海軍は陸軍から派生しながらも、「海洋」ということを最近やっと言い出しました。そのため、考え方のベースはやはり陸軍に近いものですし、そもそも「陸」というものの考え方は「つながっていること」が基本です。ですから海の上のように、何十マイル何百マイル離れて意思決定するという、極めて不自由な世界で意思決定をしていく場合のものの考え方とは違うのだろうという感じがしています。先程言ったように、つながっているときはうまく動いているのですが、それがないときは何をやっていいのか分からず、使命の分析の一番上の部分が欠けてしまう。そのために、バラバラなことをやっているようにも見えます。
●戦史から教訓を導き出す意思決定分析
―― この山下講話は、相当面白くなりそうですね。真珠湾やミッドウェー海戦、ビスマルク海戦、レイテ沖なんて未だによく分からないですよね。
山下 われわれが分析する場合も、歴史の専門家から出てくる事実だけではなく「こうしたのだろうな」という推測がどうしても入ってしまいます。ですので、この意思決定プロセスに従って、「過去はこうだったのではないか。だからこうなっているのだろう」という風に考えざるを得ません。どうしてもレイテ沖などは・・・まあ、レイテに限らないですね。真珠湾の第二撃の問題だとか、ミッドウェーの話だとか、歴史上「・・・」となっている部分についてのチャレンジがどこまでできるかということかと思います。
―― やはり使命の分析が明確ではなかったということなのでしょうか。
山下 それが明確に残されていない。というか、そういったプロセスの中の記録がないというのが現実ですね。
―― それが全部あったら現在でも教訓になっていますよね。
山下 そうですね。もっともっと面白い歴史なり、いろいろなことができているのだろうなと思います。
―― 多分、日本の意思決定に関する致命的欠陥が全部出てくるような気がします。なぜそういう風になったのか。
山下 他のところも含めてですね。
―― 最大の教訓はやはり戦史ですものね。
山下 そうですね。人の生き死にの中で最大限の意思決定をしていきますし、国というものそのものに直接影響するという意味で、戦いというものの意志決定のプロセスをひも解いてみれば、実は非常に明快な部分が本来はあるべきだと思います。しかし残念ながら、そこは残っていない。戦争に至る経緯にしても、いろいろな書き物があるのですが、「なぜか?」という答えに対して、心に響く解答は今のところないのだろうと思います。
―― これは、当事者が意思決定プロセスを記録する習慣がないからですよね。
山下 ただそうかといって、日本以外の国がそれをきちんと残しているかと言えば、それもあやふやなところがあります。ただ日本よりは残っている部分がある。アメリカなどは、よく歴史上のアーカイブとし...