●“Diaoyou Islands“か“Senkaku(尖閣) “か
今日は「戦略的国際広報」というお話をいたします。固いタイトルですが、具体的な話から始めたいと思います。
友人のアメリカの学者と普通に会話をしているときに、彼が「日本は、“Diaoyou Islands“が大変だね」と言ったのです。私はこれが「魚釣島」「尖閣諸島」のことだと知っていたものですから、「あ、そうか」と思いました。つまり、アメリカのインテリのほとんどは「尖閣」よりも、中国名の「Diaoyou」が一般的なのかと、大変ショックを受けたのです。
その経験があったものですから、ある会合で「一体『尖閣』という呼び名は、どのくらいの国がどういう形で使っていますか」と発言しました。たまたま同席されていた官房副長官が、後から調べて「アメリカ国務省は正式に“Senkaku“と呼んでいます」と書面による回答をくださいました。ですが、私が知りたかったこととは少し違います。世界の何ヵ国が「尖閣」と呼び、何ヵ国が「Diaoyou」と呼び、 そしてメディアはどちらの言葉を使っているのかに私は大変興味を持ったわけです。
これは、日本が領土問題や領有権問題を議論する以前の話であり、一体何語が使われているのか。竹島か、独島(ドクド)か。日本海なのか、東海(トンヘ)なのか。このことは意外に知られていなかったし、平気でいたと思います。つまり、尖閣を「尖閣」と呼ばないメディアに対して、「正しくは尖閣なのだ」という訴え方を、外務省はやってきたのだろうか。この疑問があるわけです。
●「知られていない」のを知らせるのが広報の第一歩
そして、多くの人が指摘する日本のODAがあります。 中国に対する円借款、ODAはこれまで何度も行われてきました。額的にも大変多かったですが、問題はこのODAに効果があったのかどうかです。つまり、中国の政治家や中国社会科学院の学者たちは、「日本のODAが中国の経済発展に大変役に立った」と非常に感謝していますが、中国国民は知らないわけですね。
この「知らない」という事実に対して、一体どうしたらいいのかは、実は重要な問題です。日本の外務大臣やいろいろな立場の指導者が過去に海外に行ったときには、「日本のODAには大変感謝している」と言われています。でも、これを言うのは専門家や政治家、あるいは官僚であって、国民は知らないのが一般的です。
「実際にいいことをしているのだから、日本はこれで「陰徳」を積んだことになる。長期的に見ればいずれわかってもらえるだろう」という理解でやってきたと思います。しかし、「知られない」のは「ない」と同然です。まず知ってもらう、認知される。これは、広報における第一歩とも言うべき、一つの重要な点になります。
また、日本の官僚はよく「この政策は内容はいいのだが、 伝え方が悪かった」と言います。国民とのコミュニケーションが下手なために理解されていなかったという問題点です。
広報には「認知」と「伝え方(コミュニケーション能力)」の二つの問題がありますが、この二つ目のほうがもっぱら日本では議論になるのです。官僚たちは、間違った政策は決して行わない。しかし、伝え方がまずかった。だから、広報をすればいい。いずれ国民は理解してくれるだろう、と。
しかし、それ以前に、日本国内と海外を問わず、「知られていない」ということ。これをどうするかは、非常に重要なのです。
●“Cool Japan“や「医療ツーリズム」に見る国際広報の問題点
「戦略的国際広報」と言うとすぐ、「それ、クールジャパンのことだよね」と言う人がいます。日本人はこれには大変自己満足的に評価が高いのですが、何人かのアメリカやイギリスなどの有識者に聞きますと、「“Cool Japan“って、それ、“Cool Britannia“だよね」と返されます。つまり、「クールジャパン」のもとが「クール・ブリタニア」であるのは、みんな見透かしているわけです。
となると、そこで伝わるメッセージは何か。「日本は焼き直し」「ものまね」というメッセージです。「クールジャパン」そのもののアイデアは決して悪くない。ただ、なぜ違う言葉を使わなかったのか。これが非常に疑問なところです。
あるいは、これもしばしば指摘される例ですが、役所(官公庁)が情報を伝えるときの広報部門の問題もあります。つまり、それは内閣が伝えるべきものなのか、あるいは外務省なのか。また、国土交通省や総務省などもあります。それぞれの省がそれぞれ自分でやろうとしているわけです。例えば、「医療ツーリズム」などでは、三つの省それぞれがやろうとしています。
一体司令塔はどこなのか。作戦はどうやって立てられているのか。それは役所ないし官僚機構、そして予算を使って行う広報の問題点になり...