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文系少年にとって神田古本街は夢のような世界だった

東京はワンダーランドだ

曽根泰教
慶應義塾大学名誉教授/テンミニッツTV副座長
概要・テキスト
 東京一極集中を是正に向ける議論が活発だが、それが諸悪の根源だとするのは問題設定の誤りだろう、と政治学者で慶応義塾大学大学院教授・曽根泰教氏は言う。例えば大学の世界で、東大の地位を引きずり降ろしたところで、他大学の競争力が高まるとは言えないからだ。50年前の郊外少年が体験した東京の街歩きを通して、その魅力をもう一度考えてみたい。
時間:07:38
収録日:2016/04/27
追加日:2016/07/08
≪全文≫

●都市論ではない東京を、郊外少年の実感で語る


 「東京はワンダーランドだ」という、実に不思議なお話をします。

 どういう話かといいますと、私の個人的な経験、つまり昔の東京近郊の少年の話です。私の友人たちには浅草や銀座の老舗の息子たちがいますが、彼らの語る「東京は、こんなにいいところだ」という話とは少し違います。新宿から電車で40~50分かかる郊外に住んでいた中学・高校時代の話で、『三丁目の夕日』よりは少し後の話になるのではないかと思います。

 なぜ、このような話をするのか、なのですが、東京の持つ魅力や今ある問題点については、別の機会に改めて「都市論」として申し上げようと思います。また、世の中には「東京一極集中が、諸悪の根源だ」と言う方がいますが、これは問題設定の誤りだろうと思うのです。例えばわれわれ大学人の世界で、「東京大学に一極集中しているのが悪いから、東京大学を引きずり降ろそう」としたとしても、他の大学の競争力が高まるわけではないからです。

 むしろ問われるべき問題としては、「なぜ東京は、世界の金融センターではなくなったのか」「改めて東京を世界の金融センターにしようという試みが成功しないのはなぜか」という別の重要な話もあります。しかし、そういった「東京都市論」については、今日ではなく、改めて行いたいと思います。


●理系は秋葉原、文系は神田を目指したのどかな日々


 今日、お話しするのは、もっとのどかな話です。

 「のどか」とはどういうことでしょうか。東京や東京近郊に住んでいる中学生・高校生は、理系であれば秋葉原を目指しました。今の秋葉原とは違い、いろいろな電気製品や部品、模型などが並ぶ玉手箱のような街でした。

 しかし、同時に神田の古本街を一日中歩くこともありました。文系・社会科学系の学生にとっての神田の古本街は、もう夢のような世界で、一日歩いても飽きません。年を取るとくたびれるので、一日歩くような気力はなくなりますが、中学・高校の時代はともかく歩き回りました。

 芸術系の学生・生徒はどこへ行くかというと、上野を目指します。上野駅を降りて東京文化会館の方に行けば音楽系、西洋美術館の方へ行けば美術系です。コンサートに行く人もいれば美術展を見る人もいるわけで、私はもっぱら美術展を見る方でした。

 さらに言えば、ちょっと息抜きをしたいとい...
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