サイバースペースの国境とは何か
この講義の続きはもちろん、
5,000本以上の動画を好きなだけ見られる。
スキマ時間に“一流の教養”が身につく
まずは72時間¥0で体験
ネットと現実―グローバル化時代の国境問題とは?
サイバースペースの国境とは何か
曽根泰教(慶應義塾大学名誉教授/テンミニッツ・アカデミー副座長)
現代はグローバル化が進み、インターネット全盛の時代になったにもかかわらず、国境問題が再燃している。政治学者で慶應義塾大学大学院教授の曽根泰教氏は、経済やサイバースペース上においても、国境や主権、国家を前提とした議論が重要であると論じる。ネット上の通貨や法人税逃れ、国境税をどのように考えればいいのか。
時間:11分28秒
収録日:2017年7月24日
追加日:2017年8月21日
≪全文≫

●イギリスのEU離脱は北アイルランド問題を再発させる


 サイバースペース上の国境とは何か、ということをお話しします。国境は大変古典的な概念ですから、すでに過去の話だと思っている方も多いと思います。実社会上の国境と、これからお話するサイバースペース上の国境の、2つを考えなければなりません。

 現実に起きていることとして、第1に、ドナルド・トランプ大統領が、アメリカとメキシコの国境に壁を造るということを、公約に掲げました。ただし、3000キロメートルもあるところに壁を造るというのは、予算的にも実務的にも大変難しく、これが全面的に進展したという話は聞きません。

 第2に、イギリスのEU離脱に関して起きた、国境の問題です。北アイルランドとアイルランドの間に、約500キロメートルの国境があります。もしイギリスがEUを離脱すれば、国境管理上の問題が発生します。これまで、北アイルランド問題は棚上げされ、紛争は一応解決された状態になっていました。ところが、イギリスがEUを離脱すれば、ここに国境を造らざるを得ません。そうなれば、IRA(アイルランド共和国軍)問題が再発するかもしれません。今まで封印されてきた紛争が、これをきっかけに再び生じるかもしれないのです。改めて、グローバル化における国境の意義を考えさせる事件です。


●現実の貿易や通貨は、国籍や国境と密接に結びついている


 日本の場合、国境といえば、自然的国境です。海で囲まれていたり、山や川などではっきりと区切られています。この他に、定義された国境、つまり人為的国境があります。人為的国境に近いところもありますが、その意味が大きく異なるのが、サイバースペース上の国境です。

 かつてグローバル化についてお話したときに見せた、経済学者ダニ・ロドリック氏の図と、不可能の三位一体(impossible trinity)の図を、もう一度御覧ください。

 グローバル化という大きな現象の中で、市場が変化し、また民主主義も大変な問題に直面しています。ロドリック氏は、ここに主権問題を読み取りました。つまり、グローバル化をしながら民主主義を保ち、なおかつ主権を全うするのは難しいということです。

 この関係を市場(マーケット)に関して考察するのが、不可能の三位一体の図です。ただ今回は、この図を二層のレベルに表したものを見てもらいます。マーケットの場合には、ほとんど国...

スキマ時間でも、ながら学びでも
第一人者による講義を1話10分でお届け
さっそく始めてみる
「政治と経済」でまず見るべき講義シリーズ
緊急提言・社会保障改革(1)国民負担の軽減は実現するか
国民医療費の膨張と現役世代の巨額の「負担」
猪瀬直樹
外交とは何か~不戦不敗の要諦を問う(1)著書『外交とは何か』に込めた思い
外交とは何か…いかに軍事・内政と連動し国益を最大化するか
小原雅博
クーデターの条件~台湾を事例に考える(1)クーデターとは何か
台湾でクーデターは起きるのか?想定シナリオとその可能性
上杉勇司
ポスト国連と憲法9条・安保(1)国連の構造的問題
核保有する国連常任理事国は、むしろ安心して戦争できる
橋爪大三郎
墨子に学ぶ「防衛」の神髄(1)非攻と兼愛
『墨子』に記された「優れた国家防衛のためのヒント」
田口佳史
日本人が知らないアメリカ政治のしくみ(1)アメリカの大統領権限
権限の少ないアメリカ大統領は政治をどう動かしているのか
曽根泰教

人気の講義ランキングTOP10
中国共産党と人権問題(1)中国共産党の思惑と歴史的背景
深刻化する中国の人権問題…中国共産党の思惑と人権の本質
橋爪大三郎
内側から見たアメリカと日本(7)ジャパン・アズ・ナンバーワンの弊害
ジャパン・アズ・ナンバーワンで満足!?学ばない日本の弊害
島田晴雄
プロジェクトマネジメントの基本(1)国際標準とプロジェクトの定義
プロジェクトマネジメントとは?国際標準から考える特性
大塚有希子
歴史の探り方、活かし方(7)史料の真贋を見極めるために
質疑編…司馬遼太郎の「史料読解」をどう評価する?
中村彰彦
熟睡できる環境・習慣とは(2)酒、コーヒー、ブルーライトは悪者か
ブルーライトは悪者か?近年分かった「第3の眼」との関係
西野精治
何回説明しても伝わらない問題と認知科学(1)「スキーマ」問題と認知の仕組み
なぜ「何回説明しても伝わらない」のか?鍵は認知の仕組み
今井むつみ
習近平―その政治の「核心」とは何か?(1)習近平政権の特徴
習近平への権力集中…習近平思想と中国の夢と強国強軍
小原雅博
エネルギーと医学から考える空海が拓く未来(1)サイバー・フィジカル融合と心身一如
なぜ空海が現代社会に重要か――新しい社会の創造のために
鎌田東二
経験学習を促すリーダーシップ(3)成功の再現性と教え上手の指導法
教え上手の指導法に学ぶ!成功の再現性を高める4ステップ
松尾睦
危機のデモクラシー…公共哲学から考える(1)ポピュリズムの台頭と社会の分断化
デモクラシーは大丈夫か…ポピュリズムの「反多元性」問題
齋藤純一