●トランプ大統領には二つの顔がある
ドナルド・トランプ大統領の就任決定を受けて、日々いろいろな報道が起き、関心を持っている方も多いことと思います。そこで今日は、トランプ政権になると、日本経済にはどういう影響が及ぶのかということを考えてみたいと思います。
とはいえトランプ氏が実際に大統領に就任して、新政権が始動するのは1月後半。その時点でもまだ、トランプ政権がどういう政策を取るかは不確定要因が多いため、今の段階でそれを予想するのは難しい作業です。そこで、現段階で言えることから、いくつか材料を拾ってみたいと思います。
まず、日本経済にとって最も注目すべきなのは、トランプ氏の大統領就任が決定してから大幅の円安と株高が進んだことです。選挙直後には逆の円高と株安が進みましたが、これは一日で修正され、基本的にはその後、円安株高が進んでいます。これをどう見るのかということが、いろいろと議論されているわけですが、大方の見方は、「トランプ氏には、大きく分けて二つの顔があるだろう」ということです。
●選挙戦で見せた「ポピュリストの顔」
一つは、選挙戦の最中に見せた顔です。いわば既存の政治勢力や秩序に対して反旗を翻す形で、今の政治に不安を持っている人たちの票を集める結果になりました。一部のマスコミは、これに対して「ポピュリストの顔」と悪口を言うこともあります。
こういう面を強調した言動は多くあります。例えば、メキシコに金を出させて、メキシコとの国境に壁を設ける。中国からの輸入品には50パーセント以上の関税をかける。テロリストを出している国の移民は認めない。日本には防衛費の負担をさらに求める。応じないのであれば日本は自分で自分を守ればいいとして、極論としては日本に核武装させてもいいといったことまで言う。
こういうものが並んでくると、「トランプ政権は大丈夫か」という不安が募ります。トランプ政権の選出という誰も予想しなかったことに対して、最初の日に大きく円高・株安に動いた背景には、一斉にリスクオフの流れができた、つまり株価は国債に逃げ、通貨は新興国通貨から円のような新通貨軸に移るといった動きが起こったということです。
●大統領就任に向ける「共和党の顔」
しかし、冷静になって考えてみると、選挙戦を戦った大統領候補としての言説と、その人が大統領になった後の施策は分けて考えなければいけないのではないでしょうか。トランプ氏の二つ目の顔は、リアリストというかどうか分かりませんが、典型的な「共和党候補としての顔」なのだろうと思います。
現実問題としては、これから選ばれる閣僚の顔ぶれです。すでに何人か名前が出ている中には共和党の重鎮といわれる人が相当います。議会では上院下院とも共和党が過半数を占めることとなりました。つまり、大統領・議会ともに共和党政権が、これから発動してくるということです。
そうなってくると、税金に関してはかなり踏み込んだ減税が行われるでしょうし、歳出に関してはトランプ氏の主張をもとに、インフラ整備中心の積極的な歳出が考えられます。これらが、今の為替と株価の動きにつながってきていることは、結果論としていえるでしょう。つまりは「財政拡張路線」で、アメリカの金利が上昇基調にあります。また、これによってアメリカ経済に(中長期的には別として当面は)景気振興感が強いために、ドル高と結果的な円安という事態が起こり、それが日本の株価を上げるという効果をもたらしているのでしょう。
●カーターとレーガンの「選挙中の顔」に学ぶ
想定外だったトランプ氏の選出により、彼が選挙中に見せていた「ポピュリスト」や「チャレンジャー」とは違う側面、地に足の着いた顔を見出そうとする動きが始まっています。過去の大統領の場合をいろいろと調べてみて、選挙中の発言と就任後の政策ではかなりギャップがあったという事実を、皆が改めて思い知らされた形です。
例えば1977年には、ジミー・カーター氏がアメリカ大統領になりました。大統領選の時、彼は「朝鮮半島からアメリカ軍を撤退させる」という発言を繰り返しました。その背景にはベトナム戦争に深入りしてしまった反省とともに、当時独裁政権下にあった韓国における激しい人権抑圧への批判の意味もありました。それらを込めて、カーター大統領候補は「朝鮮半島からアメリカ軍を撤退させる」という発言を繰り返したのです。しかし、実際にそれを行うと、極東の安全保障秩序は大きく揺らいでしまいます。就任後、カーター大統領は、そのような「できるはずのないこと」には手を出しませんでした。
カーター氏の次に大統領となったロナルド・レーガン氏は、当時の共和党の基本思想として「二つの中国」論を掲げていました。中華人民共和国と国交を結んで...