●年齢、主義、主張の共通するレーガンとトランプ
ドナルド・トランプ氏が大統領に選ばれた後、いろいろな人が過去の大統領を参照しながら、どんな大統領になるのだろうと思いをはせたと思います。私も当然、考えてみました。常識的に見て、トランプ氏と非常に重なってくるのは、1980年に大統領に選ばれたロナルド・レーガン氏だろうと思います。
まず、トランプ氏は年齢も70歳とかなり高齢ですが、レーガン氏が大統領になったのは69歳と300何日かで、ほぼ70歳でした。いずれも高齢の大統領であり、ともに共和党候補です。また、トランプ氏はまったくの政治の素人の中から、既存の政治に対する非常に強い批判の声をバックに当選しました。レーガン大統領は、その前にカリフォルニア州知事の経験を持っていたことはあるものの、もともとは映画俳優でした。ワシントンのプロの政治家から見れば、「レーガンが出てくるの?」ということで、やはりこれも既存の政治とは距離を置いた新しい動きでした。
ともに「強いアメリカ」を打ち出し、二人とも共和党候補ではあるのですが、選挙結果を見ても、それまで民主党を支持していた白人票を集めたところに、既存の政治勢力とはかなり違うところが感じられます。
●「減税」の景気刺激は、財政赤字と裏腹
これだけ共通点があるのはなかなか面白いと思うのですが、結果的にトランプ氏が大統領に当選してからのマーケットの動きを見ると、やはりかつてレーガノミクスといわれたレーガン政権の時の動きと非常に似た面があると思います。簡単にいえば、二人とも減税を非常に強く打ち出しています。これは景気刺激効果が期待できるだけではなく、財政に関してみると、財政赤字の方向に動いていくことを意味します。
レーガン氏は、減税と同時に歳出を抑えようとして、積極的に「小さな政府」の推進と規制緩和の方針を打ち出していました。ところが現実的には「強いアメリカ」と関連して、大統領自身が「スターウォーズ計画」という軍備の強化や構造化に動きました。また、当時のソビエト連邦(現ロシア)がアフガニスタンに侵攻したことから、米ソ関係が軍事的に緊張して軍事費中心の支出がかさみ、結果的にレーガン政権は巨額の財政赤字を出すことになったのです。
●ドル高と高金利が招いた新興国財政破綻
景気の刺激効果は大きかったものの財政赤字となり、結果としてアメリカの通貨は大きくドル高へとシフトしていきました。ドル円でいうと、直前のジミー・カーター大統領の頃は一時1ドル180円ぐらいから140~150円まで円高になっていたものが、一気に200~250円の円安にまで動き始めます。
そして、金利が急騰しました。これはもう一つ複雑な事情があります。レーガン政権以前、カーター政権が指名したポール・ボルカーという中央銀行総裁が、非常に強い反インフレ政策をとるために金利を引き締めていたのです。それに輪をかけたのがレーガン政権による財政赤字でした。こうして、長期にわたり金利が上がっていったことで、ドル高が進み、この結果、ブラジル・メキシコ・アルゼンチンなどの国々が、レーガン政権登場によって非常に厳しい状況を迎えることになったのです。
レーガン大統領就任翌年の1982年には、ブラジル・メキシコ・アルゼンチンが累積債務問題で破綻していきます。ドルで大量の債務を抱えたブラジルやメキシコ、アルゼンチンは、自国通貨における債務金額が膨らむことで非常に苦しくなったのです。また同時に、金利が非常に高くなることで、実質負担が上がっていきます。こうして、ドル高と高金利が、いくつかの国の財政破綻を招いたのです。
●新興国通貨の下落は、トランプ政権の懸念材料
当時と今をそのまま重ね合わせて見るのはなかなか難しいことですが、トランプ政権はレーガン政権の初期と同様に、減税・歳出増という形で財政赤字が膨らむ政策を取り、ドル高に動くと同時に、金利も上げつつあるということです。ドル高や金利が今後どこまで進むかは、トランプ政権の運営次第ではありますが、レーガン時代がなんとなく重なって見えるような人は多いだろうと思います。
さらに今後の見通しとして、例えばメキシコやブラジル、インドネシア、その他もろもろの新興国の通貨が非常に弱くなっていることがポイントに挙げられます。ここから資金が逃げていくのではないかと懸念する声も高まっています。もともと市場関係者の中で語られてきたのは、リーマンショック後、それ以前に新興国へ大量に流れ込んでいたお金が逆流して、新興国にとって非常に厳しい状況がくるのではないかという見通しでした。それに拍車を掛けるような動きが見えてきています。ここは非常に懸念しなければいけないのではないかと思います。
●「チーム・レーガン」の動きにならう?
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