トランプ大統領の就任演説を読み解く
この講義の続きはもちろん、
5,000本以上の動画を好きなだけ見られる。
スキマ時間に“一流の教養”が身につく
まずは72時間¥0で体験
トランプ大統領の就任演説は「狭い・古い・内向き」
トランプ大統領の就任演説を読み解く
曽根泰教(慶應義塾大学名誉教授/テンミニッツ・アカデミー副座長)
2017年1月20日に行われたトランプ大統領の就任演説を、政治学者で慶應義塾大学大学院教授・曽根泰教氏が読み解く。曽根氏は今回の就任演説を「狭い・古い・内向き」と評する。どのような点がそうであったのか。それは、トランプ大統領のいかなる問題点を示すものなのか。アメリカ社会の根本的問題にも言及し、アメリカが抱える課題を追究する。
時間:13分59秒
収録日:2017年1月24日
追加日:2017年2月5日
カテゴリー:
≪全文≫

●「狭い・古い・内向き」だった就任演説


 ドナルド・トランプ大統領が就任いたしました。この就任演説に関しては、さまざまなところで解説がされていますので、改めてということになりますけれども、どう読み解いたらいいのかというお話をします。

 一言でいってしまいますと、「狭い・古い・内向き」という印象です。つまり、これで分断、あるいは不支持の多さがあるということを、どう乗り越えていくことができるのか、ということです。内容的には分かりやすい英語で語られていて、そういう意味では万人向けといえます。あるいは、大統領選挙のキャンペーン中に言ってきたこととほとんど同じようなレトリックが使われている、ということです。


●平板さと否定のレトリックが示す「狭さ」


 しかしながら、「狭い」という意味ですが、一つは、理念的、もしくは歴史的、国際的に見て、格調の高い議論をしたのかというと、議論の広がりや表現という点において若干、平板だったということです。もう一つは、否定のレトリックがかなり使われているということです。キャンペーン中のようなエンターテイメント的なことをまた言ってくれるのではないか、そのつもりだろうと思っていた人もいたでしょうが、それほど面白い話がたくさん出てきたわけではなく、従来の繰り返しであったと思います。


●1980年代的「アメリカ第一主義」で発想の古さが露呈


 また、その発想はかなり古い表現、古い内容のもので、1980年代のことが多いのです。それは「アメリカ第一主義」に関連しており、具体的にはどういうことかというと、“Buy Americans”、あるいは“Hire Americans”、つまり「アメリカの製品を買え」「アメリカ人を雇え」ということです。

 ただ、これは製造業中心の80年に当てはまることで、グーグル、アマゾン、フェイスブック、アップルなどで稼いでいるアメリカの現状とは実態が大きく違います。また、現実のアメリカの雇用状況は、アメリカ的にいえばですが完全雇用に近く、現実の認識がかなり異なっているわけです。それに対して、「口先介入」「指先介入」という言い方がされていますが、例えば、フォードのメキシコへの工場進出を止めさせて700人の雇用を確保するというようなことを言い出します。これは焼石に水というか、政策ではありません。

 日本でもよく、地方の駅前商店街がシャッター通りになっていま...

スキマ時間でも、ながら学びでも
第一人者による講義を1話10分でお届け
さっそく始めてみる
「政治と経済」でまず見るべき講義シリーズ
クーデターの条件~台湾を事例に考える(1)クーデターとは何か
台湾でクーデターは起きるのか?想定シナリオとその可能性
上杉勇司
グローバル環境の変化と日本の課題(1)世界の貿易・投資の構造変化
トランプ大統領を止められるのは?グローバル環境の現在地
石黒憲彦
財政問題の本質を考える(1)「国の借金」の歴史と内訳
いつから日本は慢性的な借金依存の財政体質になったのか
岡本薫明
中国共産党と人権問題(1)中国共産党の思惑と歴史的背景
深刻化する中国の人権問題…中国共産党の思惑と人権の本質
橋爪大三郎
内側から見たアメリカと日本(1)ラストベルトをつくったのは誰か
日本でも中国でもない…ラストベルトをつくった張本人は?
島田晴雄
多数派が多数でなくなるとき
悩める多数派…なぜ「多数は少数の集まり」と考えるべきか
曽根泰教

人気の講義ランキングTOP10
内側から見たアメリカと日本(3)ビル・ゲイツの世界戦略
「50億人を救う」と宣言したゲイツとの粋なエピソード
島田晴雄
何回説明しても伝わらない問題と認知科学(3)認知バイアスとの正しい向き合い方
知ってるつもり、過大評価…バイアス解決の鍵は「謙虚さ」
今井むつみ
「宇宙の創生」の仕組みと宇宙物理学の歴史(1)宇宙の階層構造
「宇宙の階層構造」誕生の謎に迫るのが宇宙物理学のテーマ
岡朋治
歴史の探り方、活かし方(1)歴史小説と史料探索の基本
日本は素晴らしい歴史史料の宝庫…よい史料の見つけ方とは
中村彰彦
編集部ラジオ2025(27)なぜ何回説明しても伝わらない?
なぜ伝わらない?理解の壁の正体を今井むつみ先生に学ぶ
テンミニッツ・アカデミー編集部
経験学習を促すリーダーシップ(1)経験学習の基本
成長を促す「3つの経験」とは?経験学習の基本を学ぶ
松尾睦
エネルギーと医学から考える空海が拓く未来(1)サイバー・フィジカル融合と心身一如
なぜ空海が現代社会に重要か――新しい社会の創造のために
鎌田東二
「ホメロス叙事詩」を読むために(1)ホメロスを読む
2700年前のホメロスの叙事詩が感動を与え続ける理由
納富信留
徳と仏教の人生論(1)経営者の条件と50年間悩み続けた命題
宇宙の理法――松下幸之助からの命題が50年後に解けた理由
田口佳史
戦争と暗殺~米国内戦の予兆と構造転換(1)内戦と組織動乱の構造
カーク暗殺事件、戦争省、ユダヤ問題…米国内戦構造が逆転
東秀敏