テンミニッツTV|有識者による1話10分のオンライン講義
ログイン 会員登録 テンミニッツTVとは
テンミニッツTVは、有識者の生の声を10分間で伝える新しい教養動画メディアです。
すでにご登録済みの方は
このエントリーをはてなブックマークに追加

トランプ大統領の就任演説は「狭い・古い・内向き」

トランプ大統領の就任演説を読み解く

曽根泰教
慶應義塾大学名誉教授/テンミニッツTV副座長
情報・テキスト
2017年1月20日に行われたトランプ大統領の就任演説を、政治学者で慶應義塾大学大学院教授・曽根泰教氏が読み解く。曽根氏は今回の就任演説を「狭い・古い・内向き」と評する。どのような点がそうであったのか。それは、トランプ大統領のいかなる問題点を示すものなのか。アメリカ社会の根本的問題にも言及し、アメリカが抱える課題を追究する。
≪全文≫

●「狭い・古い・内向き」だった就任演説


 ドナルド・トランプ大統領が就任いたしました。この就任演説に関しては、さまざまなところで解説がされていますので、改めてということになりますけれども、どう読み解いたらいいのかというお話をします。

 一言でいってしまいますと、「狭い・古い・内向き」という印象です。つまり、これで分断、あるいは不支持の多さがあるということを、どう乗り越えていくことができるのか、ということです。内容的には分かりやすい英語で語られていて、そういう意味では万人向けといえます。あるいは、大統領選挙のキャンペーン中に言ってきたこととほとんど同じようなレトリックが使われている、ということです。


●平板さと否定のレトリックが示す「狭さ」


 しかしながら、「狭い」という意味ですが、一つは、理念的、もしくは歴史的、国際的に見て、格調の高い議論をしたのかというと、議論の広がりや表現という点において若干、平板だったということです。もう一つは、否定のレトリックがかなり使われているということです。キャンペーン中のようなエンターテイメント的なことをまた言ってくれるのではないか、そのつもりだろうと思っていた人もいたでしょうが、それほど面白い話がたくさん出てきたわけではなく、従来の繰り返しであったと思います。


●1980年代的「アメリカ第一主義」で発想の古さが露呈


 また、その発想はかなり古い表現、古い内容のもので、1980年代のことが多いのです。それは「アメリカ第一主義」に関連しており、具体的にはどういうことかというと、“Buy Americans”、あるいは“Hire Americans”、つまり「アメリカの製品を買え」「アメリカ人を雇え」ということです。

 ただ、これは製造業中心の80年に当てはまることで、グーグル、アマゾン、フェイスブック、アップルなどで稼いでいるアメリカの現状とは実態が大きく違います。また、現実のアメリカの雇用状況は、アメリカ的にいえばですが完全雇用に近く、現実の認識がかなり異なっているわけです。それに対して、「口先介入」「指先介入」という言い方がされていますが、例えば、フォードのメキシコへの工場進出を止めさせて700人の雇用を確保するというようなことを言い出します。これは焼石に水というか、政策ではありません。

 日本でもよく、地方の駅前商店街がシャッター通りになっています。ここからかつての活況を取り戻すためにはどうしたらいいか。こういう状況に対して、それはイオンのせいだ、イトーヨーカドーのせいだ、というようなロジックが使われますけれども、言ってみればこの種の田舎の政治家、あるいは商店主の議論と同じような感じがするのです。


●ケネディ就任演説とは真逆の内容


 もう一つ、アメリカのアイデンティティの模索をしていますが、アメリカのアイデンティティは大変に難しいテーマです。昔、ハーバード大学でサミュエル・ハンチントン氏とジョセフ・ナイ氏(ともに国際政治学者)が20人ほど集めてセミナーをやった時、あのハンチントン氏でさえ「アメリカとは何か」ということについて、議論があちらへ飛びこちらへ飛ぶなどしていましたから、それほど難しいテーマなのです。そういう意味でアメリカのアイデンティティを見いだしたかというと、どうでしょう。万人向けのアイデンティティを見いだすことなど所詮、無理なのです。

 また、内向きの議論とはご承知のように、安全保障上も貿易上も、アメリカ第一主義を唱えていることです。

 さらに言えば、「トランプの民主主義」とは何なのかということになります。トランプ大統領は「ワシントンから国民に権力を取り戻す」と言っています。また、「政府の役割は国民にサービスすることだ」とも言っています。これは、このテンミニッツTVでかつてお話ししたジョン・F・ケネディの就任演説(2015年12月28日配信「ケネディ演説の起源」参照)と真逆です。政府が国民にサービスすることではなく、「国民が国家に何ができるのか」という格調の高い演説をしたケネディとはまったく違います。


●貿易、減税、外交等、さまざまに浮かぶ疑問点


 では、トランプ大統領は具体的に何をしようとしているのでしょうか。既にNAFTA(北米自由貿易協定)の見直し、TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)離脱について発言しています。TPPはまだ発効しておらず、(正確にいえば)加盟しているということではないので、「離脱」という言葉は正しくはないのですが、「離脱をする」と言っているわけです。基本的には2国間のFTA(自由貿易協定)でやろうとしているのでしょう。オバマケアも大統領令で廃止するということです。

 ただし、インフラ投資、減税については、具体的な政策がなかったものですから、方向は分かったとしても、投機筋は期待外れとい...
テキスト全文を読む
(1カ月無料で登録)
会員登録すると資料をご覧いただくことができます。