●ハンガリー東駅で遭遇したヨーロッパ難民の現状
ブレグジットの最大の争点は、移民問題でした。しかし、実際にいま欧州が苦悶し苦闘しているのは、移民以上に大量の難民問題です。
2015年以来、一部は移民かもしれませんが、150万人を超える大量の難民がEU諸国に押し寄せました。その途中、1万人を超える人々が、地中海やその他の地域で命を落とし、欧州域内では対応しきれないまま、内部対立が非常に激化しています。これに対してメルケル首相は終始「難民受け入れは人道支援だから絶対に行う」と見事な姿勢を見せています。
彼らが中東からヨーロッパへ入ってくると、最初の渡航先はギリシャやハンガリーです。今日も何人かの仲間が来ていますが、私ども島田村塾では、2期生ほぼ全員でハンガリー訪問をし、首都ブダペストで東駅(East Station)の様子を見ました。駅前では数千人の難民が毛布にくるまったり、ハンガリー政府から食事をもらったりしていました。彼らはとにかく「ドイツ行きの列車に乗りたい」と大騒ぎをしていたのです。ハンガリー人は「ふざけるな」と思っていたでしょうし、オルバーン首相は苦々しく見守っていたでしょう。しかし、メルケル首相は「ハンガリーからは1日あたり1万人をドイツに受け入れる」と約束しました。
●難民とテロ問題で岐路に立たされたメルケル氏
その矢先に、とんでもないことが起きました。2015年11月13日のパリ同時多発テロで130人が亡くなった事件です。
実行犯の一部はシェンゲン協定にのっとって国境を越えてきた者たちでした。シェンゲン協定について話すと時間がかかるので割愛しますが、要するにEUの中では国境を越えて自由に出入りできると定めた特別な条約です。その危険性が、このような事態に結びついてしまった。「誰が悪いのか?」と犯人探しが始まり、人道主義による難民受け入れを主張するメルケル氏に批判が集中しました。
メルケル氏は東ドイツ育ちでロシア語が得意です。ライプツィヒ大学を物理学専攻で卒業したいわゆる「リケジョ」ですが、ベルリンの壁崩壊を受けて、突如民主化運動に目覚めます。その後はコール首相の高い評価を受け、「コールのお嬢さん」と呼ばれる秘蔵っ子でした。コール氏の失脚後、CDU(キリスト教民主同盟)の党首となり、2005年に大連立を果たして首相となりました。
国内では「メルケルが選挙に立つと絶対にかなわない」と評判です。私も21世紀で最大の政治家ではないかと思っていましたが、この移民問題では、大変な矢面に立たされることになりました。
●ケルン事件とトルコ合意で、EUはさらに混乱?
2015年の大みそかには、ケルンをはじめとするドイツの主要都市で多くの暴行・略奪事件が発生しました。ケルンでは3名、ハンブルグでは2名が暴行され、全国で合わせて1,500人が被害告発(うち700人が性的被害)という規模です。加害者はアラブないし北アフリカ系の風貌で、ドイツ語を話さなかった。さらに、警察の報告書には「俺は、シリア人だ。親切にしろよ。メルケル夫人が俺を招待したんだ」と発言したと書かれています。
メルケル氏は現在立場のない状況で、苦境に陥っています。しかも2017年秋には、ドイツで選挙が待っています。トランプ氏は「あのおばさんがいるんじゃ、みんなEUから出て行くよ」と発言しています(歴史の分からない困った人物です。島田塾で少し座らせたいものです)。ドイツ国内では「AfD(Alternative fur Deutschland。アーエフデー。ドイツのための選択肢)」という超右翼の政党が出てきて、大変勢力を伸ばしていますし、シェンゲン協定は問題ではないかと言い出す人も増えています。
困ったメルケル氏はトルコと話し合い、2016年3月にトルコ合意を取り付けました。2016年3月20日以降、7.2万人を上限として、ギリシャに渡ったシリア難民は全てトルコに送還する。そのうちから順次、EUが庇護申請者として迎え入れられる者を選別する、と決めたわけです。これにより、難民の渡航は激減しました。見返りとして、メルケル氏はトルコに60億ユーロを援助したうえ、EUへのビザなし渡航が許可されるようになりました。
トルコはずっとEUに加盟希望を出してきたのですが、国内の人権侵害などが問題視され、EUにはふさわしくないと言われてきました。ただ、この取引があったため、事実上は加盟したことになるのではないかという説もあり、EUは混乱している最中です。
●「ユーロスケプティシズム(欧州懐疑主義)」とハンガリー
次に「ユーロスケプティシズム(Euroscepticism。欧州懐疑主義)」を取り上げます。「欧州=EUとは何なのか」という動きが起こっているのです。
さて、先ほども触れた島田村塾のハンガリー訪問では、ジョージ・ソロス氏が創設したCEU(Central European Univers...