●世界を不安に陥れているISとテロ
中東複合危機のもたらす世界不安についてお話しします。今どういうことが起こっているかというと、ISとテロです。振り返ってみると、例えば2015年1月、フランスで新聞社が襲撃されました。同年11月、今度は人々の娯楽施設などがやられて、たくさんの人が死にました。バングラデシュでもテロがありましたし、ブリュッセルの空港もやられました。ドイツでも2016年12月にテロがありましたが、十数人が死にました。こんなことがどんどんあるわけです。日本も当然、ターゲットになっています。
これらの国で何が起こっているのかといえば、紛争と内戦です。その結果、必ず民衆が犠牲になります。そうすると彼らは難民となって、助けを求めて出てくるのです。
●ISはプリモダン、モダン、ポスト・モダンの混合体
中東はあまりにも関係が複雑です。山内昌之先生が『中東複合危機から第三次世界大戦へ イスラームの悲劇』(PHP新書)という、少し飛んでいるタイトルですが、とても立派な本を出しています。この中で彼が言っているのは、「第三次世界大戦は始まっている」ということです。どういうことか。封建時代はプリモダンの時代で、フランス革命、アメリカ独立からはモダン、つまり「進歩はいいことだ。平等、民主主義はいいことだ」という時代で、私たちはその時代の申し子です。その次に、ポスト・モダンがあるだろうということです。政治学者の中ではEUはポスト・モダンだといわれていました。つまり「国民国家を超越するんだ」と皆が夢を描いたのです。
山内さんはもっと皮肉を込めて、「ISがそれを見せている。ISは、今の国民国家の時代に生きていながら、実はネットワークによって、実体のない国家として国境を越えている」と言っています。これはポスト・モダンです。
●複雑な中東問題-アラブのシーア派、スンニ派の対立
また、アラブの対立を特徴付けるのはシーア派とスンニ派の対立ですが、分かりにくいでしょう。これは何かというと、ムハンマドが死んだ時、子どもがいなかったのですが、子どもに近いような弟子たちが何人かいたので、(彼らの中から選ばれた人が)「カリフ」と名乗ったのです。しかし、彼らは権力闘争ばかりで、殺し合いも行われています。一番、殺されたのはシーア派なのですが、その怨念が今日まで生きているのです。スンニ派の総大将はサ...