●異次元緩和をやり抜く黒田長官の金融ザムライぶり
では、第一次アベノミクスのいろいろな問題について、評価(レビュー)を行っていきましょう。
まず金融については、国民を元気付ける表面的効果はありましたが、結局、インフレマインドを醸成するほどのインフレには至りませんでした。黒田東彦総裁は第二次バズーカと呼ばれる金融緩和を行い、世界からも驚かれましたが、効果は一瞬でした。結果的にマネタリーベースが非常に増え、全部合わせるとGDP比の7割ほどを占めます。アメリカがあれだけ金融緩和しても2割でやめたのと比べると、大丈夫なのかという感じはします。
しかも2016年1月29日にマイナス金利の発動です。これにも、国民は驚きました。これは銀行が日銀に預けている当座預金のごく一部についてなので、実際はマイナーなことなのですが、シンボリックなインパクトが大きいため、世界からも注目されました。金利が安くなれば不動産などの資産商売にはとてもよくなります。
しかし、それでもインフレにはなりません。ところが黒田氏は必ずなるとサムライのような発言をしています。2016年秋に金融政策決定会合が開かれ、皆に「どうするんだ」と迫られて、「長短金利を政策運営上の目標とする、新たな金融緩和の枠組みを導入する」と言いました。
これは何かというと、「イールドカーブ」といって、短期と長期でリターンが変わる仕組みです。今は長期金利が下がってほぼ平坦になっているカーブをなるべく長期金利が高めに健全化していけば、金融機関の利益にも結び付くということです。同時に、非常に苦境ではありますが、インフレが2パーセントになるまでは異次元緩和をやり抜く「オーバーシュート型コミットメント」も宣言しました。世間からは大変な決断であることが評価され、「日銀も頑張るものだ」と、特にプロ受けしました。
●募る巨額のベースマネーと出口政策への不安
しかし、われわれ素人にとってはどうでしょうか。GDPの7割から8割にも当たるベースマネーの規模は不安を与えます。アメリカは3回にわたって日本の何倍もの巨大なベースマネーを出しましたが、GDP比で見れば2割程度です。それも非常に慎重なやり方で、10年ぐらいかけて市場と対話しながら、調整して景気が良くなってから吸収していったのです。実際にアメリカは今とても景気がいいですが、日本の場合、いつよくなるか分かりません。
マーケットが驚いて値段が下がらないような出口政策をやっていくには、国債の償還期間と期限を秩序正しく整えなければなりません。日本の場合、それをやると20年以上かかるのではないでしょうか。もしかすると達成できるのは22世紀かもしれません。金融政策への依存が大きすぎたためにそのようなことが起きていることを、国民は知っておいた方がいいのです。
●上がらない成長率と伸びない輸出、そして賃金
結果的にアベノミクスの金融政策が本当に成長につながったのかというと、あまりつながってはいません。実は、アベノミクスの時代になってからの成長率はだんだん下がってきているのです。ならしてみると1パーセント強ぐらいです。
政府は2020年をターゲットにした財政再建を画策していますが、そのための内閣府試算では3パーセント強程度の持続的成長が必要です。安倍晋三首相はさらに新しい第二次アベノミクスにも踏み出していて、その中で「2020年には600兆円経済を実現する」と言っていますが、それも年率3パーセントの成長率がないと実現できません。現状の1パーセント強ではどうなるのか、ということです。
また、輸出も伸びていません。昔なら為替レートが下がって円安になれば輸出価格が低下し、競争力が増すので輸出が増えました。ところが現在、日本の大企業は半分ぐらいが海外に出ています。為替レートが下がったからといって輸出に力を入れると、自分で自分の足を食ってしまうようなことになるのです。実質賃金も、あまり伸びていません。
では、財政再建はどうなるのか。2010年から打ち出しているのは、GDP比(正確には基礎的財政収支:primary balance)で3パーセントほどの財政赤字だったのを、2020年にゼロにするということです。2014年の内閣府試算では、経済成長3パーセントの場合でマイナス11兆円、2015年試算ではマイナス9兆円、2016年ではマイナス5.5兆円、2017年でマイナス6.4兆円。だんだん下がってきているように見えますが、見通しの数字については相当マニューバー(戦術的展開)ができます。政府は「財政再建路線は堅持したい」と言います。安倍首相はどんなことでも堅持するでしょうが、どうなるのでしょう。
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