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トランプ政権の方向性と日本が取るべき針路

2017年世界と日本(9)新たな時代への挑戦と覚悟

島田晴雄
慶應義塾大学名誉教授/テンミニッツTV副座長
情報・テキスト
公立大学法人首都大学東京理事長・島田晴雄氏が今後のトランプ政権の方向性を予測し、日本の取るべき針路について2つのプランを提示する。これらのプランの根底にあるのは、日本は長いこと日米安保体制に安住し、そのことに何も疑問を持ってこなかったという猛省である。日本は新時代にいかに向かうべきなのか。(2017年1月24日開催島田塾第142回勉強会島田晴雄会長講演「2017年 年頭所感」より、全11話中第11話)
≪全文≫

●トランプショックによる変化とその原因


 最後はやはり、(日本の針路についての)プランAとプランBは、言わないわけにはいかないと思います。

 トランプショックで何が変わるかというと、要するに他国間協議や協定、共通ルール、透明性、こうしたことを全部飛ばして、「二国間で決めるんだ」と言っているので、不安定で予測が非常に難しくなります。それから、安保同盟は全く軽視されています。また、オバマ戦略も全部否定しています。クリミア、ウクライナ、シリア(におけるロシア既得権は全て)承認ですが、中国戦略としては、「たたきつぶせ」という具合なので、ちょっとどうかなと感じています。

 ここで、われわれが本当に考えなければいけないこと、今こういうショックを与えられて何を考えるべきかということについて、実はテレビを見ていても、また新聞を見ていても、はっきりいって大した議論は見当たりません。本当に建設的な議論がないのです。やはりトランプ大統領は分からない。そうした人がなぜ民主主義のアメリカから出てくるのか、よく分からないのです。

 なぜそんなに分からないのか。例えば、ウラジーミル・プーチン大統領は、このシリーズレクチャーで生い立ちからずっと話したので、分かったでしょう。一回、世界の大帝国だったロシアが崩壊したけれども、領土の交渉をしながらここまで復活してくるということで、よほどの愛国者です。エンゲラ・メルケル首相もそうです。皆、かなり分かってやっています。


●安保条約でアメリカに全てお任せ状態だった日本


 われわれは、なんと65年間考えてこなかったのです。なぜか?――日米安保があるからです。1952年に日米安保条約が発効したでしょう。あれから(思考が)止まっているのです。なぜなら、アメリカにお願いすれば全部、済んだわけですから。そうして、日本は、戦後70年間、軍隊の規模でいえば世界で3番目あるいは4番目に大きいという自衛隊を持っていて、1発も実弾は撃っていないと言っても、そんなことは誇りにはなりません。

 要するに、全部アメリカがやってくれていたのです。しかも、非常に友好的だったのです。つまり冷戦構造ですから、スターリンの巨悪に対して、日本が最前線で同盟国として堤防になってくれれば全ていいということで、アメリカは日本に経済援助も軍事援助も、何もかも行ったのです。


●日本は安保体制の中、アメリカモデルをなぞるだけだった


 ですから、日本は、軍事だけではなく、政治家も代わるとすぐにワシントン詣でではないですか。経団連をはじめ、産業も全部、アメリカの動向を見ているではないですか。ビジネスもそうではないですか。教育までそうで、私は学校にいてつくづく思うのです。アラブに関する本をそれまで何十冊と読んでいたのですが、恥ずかしながらこの前、60歳過ぎて初めてアラブ諸国を訪れて、驚きを感じました。

 われわれが小学校から高校までで習う世界史のスタートはギリシャです。ギリシャは文明の発祥だといわれています。それからローマ、そして、中世、暗黒の時代になって、ルネッサンスで自由が謳歌され、産業革命が起きる。それから、なんと、パックスアメリカーナ。つまり、「アメリカ万歳」という世界史を、日本の全国民が繰り返し繰り返し習っているのです。

 他にも、中国もあればアフリカもあります。中東でいえば、イスラム帝国は人類史で最大の帝国です。数字も全部、イスラム帝国から出ているわけで、天文学もそうです。ですから、それに比べれば、最近の学問は伸びしろが短い。

 こうしたことを全然知らなかったのです。私はアラブのサウジアラビアに行って、本当に文化人として申し訳ないと思いました。学ぶことが非常に多く、改めて見直すことができたのです。恥ずかしいですよね、そういうことを習っていなかったのですから。なぜかというと、安保体制の中にいるからです。ですから、ドナルド・トランプ大統領が「日米安保なんてどうだっていい」と言ったら、われわれは対応のしようがないのです。


●プランA-トランプ政権は穏当な方向に行く


 では、どうしたらいいのか。ということで、プランAです。プランAは、トランプ政権が妥当な方向へ行く。穏当な方向に行くという場合の針路です。というのは、先ほど言ったように、人脈には相当、立派な人もいるのです。ですから、そういう人たちがいろいろいさめることで、多少は大統領もまともになってくるでしょう。それから、自由貿易権から個別交渉になったとしても、二国間交渉でTPPと同様の成果を上げられる可能性もあります。また、日本はすぐにイギリスと自由貿易協定をやればいい。

 ロシアが経済制裁を解除されても、これはしょうがないでしょう。ロシアが攻めてくるわけではないですから。それから、中国、北朝鮮は警戒...
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