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ハイパーコンペティション時代に必要なのは「越境」

ダイナミック・ケイパビリティ~組織の戦略変化(2)超競争時代への突入

谷口和弘
慶應義塾大学商学部教授/南開大学中国コーポレート・ガバナンス研究院招聘教授
情報・テキスト
時代は、超競争に突入した。もはや国内市場だけ見ても将来性は薄く、新興国や新たなライバルと対峙しなければならない。慶應義塾大学商学部教授・谷口和弘氏は、激動の時代に対応するにはイノベーションが必要であり、そのためには、文理の壁も軽々と超えて、新たな知見を得ることが必要だと述べる。(2016年6月23日開催日本ビジネス協会JBCインタラクティブセミナー講演「ダイナミック・ケイパビリティと戦略経営」より、全7話中第2話)
時間:09:08
収録日:2016/06/23
追加日:2016/09/06
≪全文≫

●既存の競争を超えた「ハイパーコンペティション」


 まず「ハイパーコンペティション時代のマネジメント」です。ハイパーコンペティションとは、超競争ということです。グローバル化によって、経済活動、例えば人の流れや金の流れ、情報の流れが、国境を越えて行き来するようになりました。そんな中で日本は、かなり所得も高くて市場もそこそこ大きい。今までだったら自国のことを考えていればよかったわけですが、これから人口も減ってくるため、自国内の競合、自国内の市場だけではなく、海外の市場、特に先進国だけではなく、新興国にも目を向けなければいけないという状況になってきています。これが「ハイパーコンペティション」です。

 もちろんそうなってくると、既存の競合相手だけではなく、新規参入の企業がふとアジアから現れたり、あるいは東ヨーロッパから何か新しいものが出てきたりするなど、そういった環境変化があるため、機敏な対応が求められてきます。そういった急速に変化する環境に対応することが、ハイパーコンペティションということだと思います。

 環境がそのように激動する中で、既に競争優位でもうけの仕組みも分かり、「この製品は売れている」「これはうちにとっての成功の方程式だ」と考えたとしても、なかなか通用しないかもしれません。そういう競争優位の確立、あるいは持続そのものが困難になるのではないかということが予測されるわけです。

 競争優位というのは、例えば自社の製品が、他のライバルと比べられた場合、「こっち(自社)の製品がいい」と選んでもらえることですね。それによって業界平均よりも高い収益が得られるなどの良いパフォーマンスにつながる、そういう話ですね。われわれはこれを専門的に「レント」と呼んでいます。超過利潤ということです。競争が激しくなると、その超過利潤はゼロに近づいていきます。だからいかにしてもうけるか、超過利潤を増やすか、レントを増やすかということが、皆さんにとっての課題になってくるはずです。

 さらに、持続的競争優位という話が出てきます。レント(の獲得)が一時期で終わってもらっては困ります。それはずっと続いてほしい。環境が変わっても、あるいは環境が変わっても、あるいはライバルが新規参入することが難しくて、なかなか自社製品をまねすることができず、技術者のテクノロジーをまねすることができなければ、持続的競争優位が確立されます。だから結局、企業の戦略というのは、ここのところに結びつけば、一番ありがたいはずです。


●「イモ洗い洗濯機」が示すもの


 例に示すのは、ハイアールという中国の家電メーカーです。もともと冷蔵庫をつくっていた企業です。そこに、張瑞敏(チャン・ルエミン)という人がやってきます。ハイアールの工場はそれまで非常にモラルが低く、生産活動が十分にできていなかった結果、不良品ばかりつくっていたらしいのです。彼はそんな会社を建て直していきます。

 彼のコンセプトは、「消費者は常に正しい」というものです。ずっと「市場は正しい、市場のことを考えよう」ということを言ってきたそうです。例えばある洗濯機を出して、それのクレームが会社に来る。「おたくの会社の製品を使っていると泥が詰まる」と。そこでアフターサービスで四川省やウイグルに行く。なぜ泥が詰まったかというと、サツマイモを洗っていた。つまり農家の人たちは、サツマイモを洗ってその商品価値を上げていた。普通のメーカーの人だったら、「洗濯機でサツマイモを洗うのは非常識だ」と考えるかもしれない。私だったら、そう考えると思います。ですが、彼(張瑞敏)は「消費者が常に正しい」ということで、イモの洗える洗濯機を開発しようとします。そして実際に彼は、1998年にイモ洗いの洗濯機をつくりました。それが98年4月には1万台と、結構売れたそうなのです。

 この張瑞敏さんの話から見て取れること、それは、われわれは何か重要なものを発見する必要があるのではないか、ということです。「洗濯機は洋服を洗うものだ」と決めつけ、そういう常識によって、われわれの見方は狭くなっています。しかし必要なのは、ディスカバーです。ディス・カバーですから、「カバーを外す」という意味ですね。偏見を取り除く、あるいは先入観を排除するということが大事なのかなと思います。


●イーロン・マスクは人類を火星に連れていく?


 そういった意味で重要なのは、次に挙げるイーロン・マスク氏ですね。彼は最近何かと注目されている起業家です。彼は、国策事業に挑戦しています。これも先ほどの例と一緒で、彼はロケット開発をやろうとしています。ロケットなどと言うと、NASAの専売特許だと思われがちです。ロケットはもうNASAがやるものだという「常識」や先入観があります。しかし彼は...
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