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ポジショニングアプローチと資源アプローチの考え方とは

ダイナミック・ケイパビリティ~組織の戦略変化(3)ビジョンと戦略経営

谷口和弘
慶應義塾大学商学部教授/南開大学中国コーポレート・ガバナンス研究院招聘教授
情報・テキスト
戦略的な経営に必要なのは、自己と他者について知り、目指すべきビジョンを示すことだ。かつてマイケル・ポーターは競争の場の選択が重要(ポジショニングアプローチ)だとし、ジェイ・バーニーは良質な資源を育てることが競争に勝つ要因(資源アプローチ)だとした。慶應義塾大学商学部教授・谷口和弘氏が、これまでの議論を振り返りながら、次なる時代の経営論を探る。(2016年6月23日開催日本ビジネス協会JBCインタラクティブセミナー講演「ダイナミック・ケイパビリティと戦略経営」より、全7話中第3話)
時間:11:41
収録日:2016/06/23
追加日:2016/09/13
タグ:
≪全文≫

●戦略経営に必要なのは、自己と他者を知りビジョンを示すことだ


 次に、「戦略経営のフレームワーク」という話に移りましょう。戦略経営とはいったい何でしょうか。戦略経営を考える上で大切なのは、まず自己を知り、他者を知ることです。自分のことを知らなければいけないし、さらに自分を取り巻いている周りのことも知らなければいけない。これが基本になります。自分はいったいどんな強みと弱みを持っているのだろうか。自分の中には、どんなリソースがあるのだろうか。こういうことを知らないといけないと思います。これが内部環境です。

 さらに、先ほど出てきたようなライバルのことも知らなければいけない。自分を取り巻いている周りや市場には、どんな問題があるのか。サツマイモを洗って泥を詰まらせているという問題を抱えている農民がいるかもしれない。どんなニーズがあるのか。そういったことに敏感でなければいけない。重要なのは、これら内部環境と外部環境を把握し、両者をうまく適合させることです。チャンスを見つけて、そこに自分の持っている強いリソースを投げられるかどうかです。

 そのためにはやはり、ビジョンが大事だと思います。企業として何をしたいのか。どうなりたいのか。社会に対してどう貢献したいのか。そういうものがないと、なかなかうまくいかない。先ほど競争優位であるとか持続的競争優位であるとか、あるいはレントに関する話をしましたが、レントというのは目的ではなくて、結果です。大切なのはやはり、いかにしてビジョンを実現していくかということではないか。そしてビジョン追求の結果、良好なパフォーマンスが得られればいいのです。


●二つの戦略経営論


 こうしたことを考える上で、必要な戦略経営のフレームワーク(眼鏡)があります。代表的な眼鏡は二つです。一つは、マイケル・ポーターが提唱したものです。皆さんの部屋にも、もしかしたら彼の本が蔵書としてあるかもしれません。ポーターは「ポジショニング・アプローチ」という考え方を唱えます。それは「自分の周りを特に知りましょう」という考え方です。それに対してジェイ・バーニーは、「リソースが大事だ」と言います。自分や自分の所属する会社にどんなリソースがあるかということが大事だということを、バーニーは言います。これが、「資源ベース論」という考え方です。いずれにしても戦略というのは、まずビジョンがないといけません。どの市場で、どうやって戦うかです。独自の方法や意思決定が、戦略に変わってくるということです。

 それでは、それぞれの戦略の分析に入りましょう。まずはアンディ・グローブという人です。彼はインテルの代表的な経営者だった人です。「3番目の社員」と言われています。インテルの創業者二人います。一人目は、先ほどのムーアの法則でお話ししたゴードン・ムーアです。もう一人はロバート・ノイスです。彼ら二人がインテルを創業し、3番目の社員として入ったのが、このアンディ・グローブという人でした(残念ながらすでに彼は亡くなっています)。

 彼によれば、会社は完璧な戦略を持っていると思われがちだが、実際には戦略をそのまま実行しているということはない。ダーウィンの進化論のようなものが、いわば戦略である。悪く言えば、(確固たる)戦略など存在しない。いくら計画しても、その計画通りに直線距離ではいかないということです。良いものは残るし、悪いものは淘汰されるだろうということです。計画して、いろいろ準備するのも大事なのですが、状況に合わせて適合していくこともやはり大事であるというようなことを言っています。変化の機会に対して、どれだけフレキシブルになれるか。どれだけフレキシブルな対応ができるか。彼はそういったことを言っています。

 ちなみに、このアンディ・グローブなど、インテルの創業者たちは、理系の人たちでした。文系の知識や文系の学問的なバックグラウンドを持っていたわけではありません。これは、20世紀ならではの話だと理解できると思います。

 要するに、「競争の場の選択」です。企業を通じて、どこで戦うのか、どんな事業をやっていくのか。経営者がその場所を選択することが、大事ではないかという議論です。優れた経営者は、勝つためにはどこで戦うべきかをよく知っている人であり、そしてそれを実践しているような人だと思います。だからどのような業界でも、どのような状況でもうまくいくようなスーパー・マネジャーは、なかなか現われません。

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