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ビジネスエコシステムでは競争相手をライバルと捉えない

ダイナミック・ケイパビリティ~組織の戦略変化(5)感知・捕捉・転換

谷口和弘
慶應義塾大学商学部教授/南開大学中国コーポレート・ガバナンス研究院招聘教授
情報・テキスト
組織を戦略的に変える力であるダイナミック・ケイパビリティは、新たな事業機会を「感知」し、それを「捕捉」するビジネスモデルを構築して、それに合わせ組織を「転換」していくことで構成される。ポイントとなるのは「ビジネスエコシステム」で、その典型例がiPodの開発だ。慶應義塾大学商学部教授・谷口和弘氏が、ダイナミック・ケイパビリティの核心を論じる。(2016年6月23日開催日本ビジネス協会JBCインタラクティブセミナー講演「ダイナミック・ケイパビリティと戦略経営」より、全7話中第5話)
時間:09:07
収録日:2016/06/23
追加日:2016/09/27
≪全文≫

●新たなコーヒー文化を「感知」したハワード・シュルツ


 では、それぞれの要素である「感知」「捕捉」「転換(再配置)」について見てみたいと思います。まず「感知」は、「探索によって気づきを得る」ことです。どれだけの人と会うか。どんな業界の人と会うか。そこでは越境できているか。そういった話だと思います。国内外のビジネスチャンスを探り当て、企業を取り巻いている内部環境を知り、外部環境を知り、方向性を示そう。そういうことです。

 スターバックスの中興の祖であるハワード・シュルツという人がいます。彼は創業者ではありません。もともとはゼロックスにいた人です。ゼロックスから雑貨会社に移った彼は、ある時イタリアに行き、そこでコーヒーショップに入りました。そのコーヒーショップが気に入ったといって、彼はそこに勤めるようになります。彼がイタリアに行った時に感動したのはエスプレッソバーでした。

 そこでは、エスプレッソが生活の一部になっている。この空間も、イタリア人にとっては大事な生活の一部である。だから僕はそういったビジネスをやりたい。といっても、当時、彼はただのサラリーマンでしたから、オーナーに「こんなことをやりたい」と言います。ところがオーナーは、それを断ります。そこで彼は、スターバックスを一度辞めて、その後スターバックスを買収します。そうやって、彼自身のやりたいことをやります。ただコーヒーを売るのではありません。そこに勤める人をつくるのです。「コーヒー1杯出せるだけではしょうがない。何百杯、何千杯、何万杯とおいしいコーヒーを作り続けられることができるように、人をつくるのだ」と彼は言います。「僕がやりたいのは、コーヒービジネスではなく、ヒューマンビジネスだ。人々の心を元気づけたり、育んだりと、そういったことに、僕は携わっていきたい」、これをビジョンにして彼はやっていったわけです。


●もうかるビジネス・エコシステムを構築せよ


 次に「捕捉」です。問題に気づいたり、ビジネスチャンスに気づいたりというだけでは困ります。そこから一歩踏み出さなければいけないわけです。そのためには投資しなければいけないし、リスクも負わなければいけません。新たなビジネスモデルをつくるということです。そのためにはどういった人が必要か、どんな知識やテクノロジーが必要かを知り、それを動員しなければいけません。ここでも越境することが必要になってきます。しかも国内だけに目を向けていたのではしょうがないのです。先端的な情報技術やテクノロジーは、アメリカからやってきます。ですから、シリコンバレーに目を向けなければいけないでしょうし、グローバルな動員も考えなければいけないでしょう。

 必要なのは、新たな事業機会を捉えるべく、ビジネス・エコシステムをまとめるということです。ここで「ビジネス・エコシステム」が、また一つのポイントになってきますが、これは後でお話します。この点でいうと、アップルがつくり上げたiPodのグローバル・バリューチェーンが有名です。アップルは企画とマーケティングしかやりません。では実際のものづくりは誰がやっているのか。それは、シャープの買収で有名になったホンハイがやっています。デバイスはどうしているのか。やっているのは日本や韓国です。しかしものづくりやデバイスの製造では、いわゆる「スマイルカーブ」になってしまって、もうかりません。だからアップルはもうかるところしかやらないわけです。そういうビジネスモデルをつくっています。

 最後に「転換」です。これは、「終わりなき変革」に向けて活動していくということです。継続的に物事をつくり変えることです。そのためにはリソースを組み換えていかなければいけません。環境が変わっていく中で、リソースを変えられるかどうか。ですが、ある分野やある製品で一度成功してしまうと、その成功体験からはなかなか離れることができません。成功体験が足を引っ張るわけです。新規事業をやりたいと思っても、そういった既存事業が足を引っ張ってしまいます。だからといってスカンクワークにして、全く別の組織でやれるかというと、それもなかなか難しいのです。いずれにしても、硬直性を打破しなければいけないということです。変革しなければいけない。そのためには、時にはショック療法も必要です。劇薬を使わなければいけないこともあるでしょう。

 先ほど挙げた張瑞敏(チャン・ルエミン)さんは、そういうことがうまい経営者だと思います。チェンジ・マネジメント、すなわち「意識を変える」ことを常に続けていきます。あるいは、マツダの自動車試験場に「あくなき挑戦」という碑があります。そういうシンボルをつくって、「われわれは挑戦していくのだ。ロータリーエンジンのように、技術者たちが目立...
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