●ヨーロッパ首脳は難民とテロ対策で精一杯
最近話題になっているヨーロッパの難民問題、テロ問題と、EU、ユーロ、ヨーロッパの金融政策について、簡単にお話ししたいと思います。
ご案内のように、大量のシリア難民がヨーロッパに流入し、ひと月くらい前にパリで深刻なテロが起こりました。いろいろと話を聞いていますと、その後、ヨーロッパの首脳たちはさまざまな大事な会議で集まっても、誰もが難民とテロ対策の議論で精一杯で、他の大事な議論にほとんど話が進まないようです。もちろん、先週末には地球温暖化の会議があり、ある程度の進展を見たようですが、さまざまな会議をおおまかに見るとそういった傾向があります。ギリシャ情勢、ヨーロッパの預金保険制度といった重要テーマを含め、ほぼ全ての議論がいったん停止になっています。さらに、現在はシリア経由の難民が問題視されていますが、リビアなどの北アフリカ経由、あるいは東ヨーロッパルートも懸念されています。今後どうなるか、余談を許さない状況にあります。
こうした中、一つ懸念される大きな変化が、ヨーロッパにおけるドイツの地位に低下傾向が見られることです。直接の原因は、アンゲラ・メルケル首相がダブリン協定を反故にしてまで大量の難民を受け入れたことがテロ危機拡大の一因になったという認識が、ヨーロッパ中にあることです。
●ヨーロッパは財政緩和の方向へ
このような情勢が経済政策にどういった影響を及ぼしているかといえば、財政政策は明らかに緩和の方向に向かっています。難民とテロ対策という名目で、すでに多くのプロジェクトが進行しており、その一部はEU財政安定成長協定( Stability and Growth Pact)の枠外で行う方向で話が進んでいます。財政支出を増やさないと、右寄りの政党が票を伸ばしていくのではないかとエスタブリッシュメントが恐れているからです。財政政策には当面、緩和の力がかかり続けるでしょう。
同様のことが金融政策にもいえます。12月の初めにあった前回のECB(欧州中央銀行)理事会で、市場予想をやや下回る決定しかなされなかったことも、ヨーロッパ全体を覆っているこうした空気が影響しているという見方が有力です。ECBのマリオ・ドラギ総裁は、今回の理事会の前の講演などで、思い切ったことをやるという趣旨の発言をしました。今回はその通り...