自律型海中ロボットの効能
この講義の続きはもちろん、
5,000本以上の動画を好きなだけ見られる。
スキマ時間に“一流の教養”が身につく
まずは72時間¥0で体験
自律型海中ロボットは海底調査にいかなる影響をもたらすか
自律型海中ロボットの効能
浦環(東京大学名誉教授/株式会社ディープ・リッジ・テク代表取締役)
「調査船の地形図では全く分からなかったことが、自律型海中ロボットの地形図だと明らかになるケースがよくある」と、九州工業大学社会ロボット具現化センター長・特別教授の浦環氏は語る。こうした自律型海中ロボットの効能が、海底調査にどのような影響や利益をもたらしたのだろうか。
時間:16分52秒
収録日:2016年6月15日
追加日:2016年11月9日
≪全文≫

●海底地形図の分解能を高めるには海底に近づけばよい


 これから、第8回のお話をします。これまで私たちがつくってきた自律型海中ロボットが何をしてきたかをお見せしましたが、それらをまとめて、自律型海中ロボットの効能についてお話ししたいと思います。

 この図は、2010年ごろに作成した自律型海中ロボットが熱水鉱床を調べていくというストーリーです。ここには、自律型海中ロボットの効能が端的に示されています。従来は測量船が海底の地形を調べていました。使っていた道具はマルチビームソナーです。このソナーが1度や2度といった角度の音波を出して調べると、海底の地形図が得られます。しかし、例えば1,000メートルや2,000メートルだと、距離が長いので海底地形図の分解能が悪くなります。例えば、1度のビームは2パーセントですから、1,000メートルの海底なら20メートルの水平分解能の地形図ができます。もっと細かく知るためにはビームの幅を狭くする必要がありますが、その技術はすでにサチュレーション(飽和)していて、これ以上細いビームを出すのはなかなか難しいのが現状です。

 それなら、海底に近づけばいいのです。1,000メートルが100メートルになれば、10倍の分解能で海底が見られます。10メートルに近づけば100倍になります。これが、ロボットが海底に進出する意味です。より細かい地形が見えてくると、以前にお示しした伊是名海穴の海底地形図なども細かく見えるわけです。100メートルで2パーセントなら、2メートルの水平分解能で地形図を作れるのです。2メートルまで近づけば写真が撮れますから、ミリメートルオーダーの細かさで分かってきます。


●分解能の高い情報が手に入ると、新しい興味が起こる


 このようなストーリーで海底を調査できるわけですが、従来は自律型海中ロボットがなかったために、測量船が作る地形図で満足していました。ところが、海底熱水鉱床などを開発するときには、測量船の20メートルグリッドの図面では不足しており、もっと細かい図面が欲しいということになります。そこに自律型海中ロボットが活躍する道があるのです。

 r2D4のような航行型ロボットなら海底まで10メートルや100メートル、Tuna-Sandのようなホバリング型は1メートル、2メートルにまで近づける。より細かい地形図を作ることができます。そこで重要になってくるのは、「いったい何が見たいのか...

スキマ時間でも、ながら学びでも
第一人者による講義を1話10分でお届け
さっそく始めてみる
「科学と技術」でまず見るべき講義シリーズ
本当によくわかる「量子コンピュータ入門」(1)量子コンピュータとは何か
「量子コンピュータ」はどういうもので、何に使えるのか
武田俊太郎
断熱から考える一年中快適で健康な住環境(1)日本の住宅の実態と問題点
なぜ日本は夏暑く、冬寒いのか…断熱から考える住宅の問題
前真之
水から考える「持続可能」な未来(1)気候変動の現在地
最悪10メートル以上海面上昇…将来に禍根残す温暖化の影響
沖大幹
ブラックホールとは何か(1)私たちが住む銀河系
太陽系は銀河系の中で塵のように小さな存在でしかない
岡朋治
「海の哺乳類」の生き残り作戦(1)分類と海牛目の特徴
「海の哺乳類」が海の中で行った「生き残り作戦」とは
田島木綿子
培養肉研究の現在地と未来図(1)フェイクミート市場とリアルミート研究
食肉3.0時代に突入、「培養肉」研究の今に迫る
竹内昌治

人気の講義ランキングTOP10
何回説明しても伝わらない問題と認知科学(1)「スキーマ」問題と認知の仕組み
なぜ「何回説明しても伝わらない」のか?鍵は認知の仕組み
今井むつみ
ケルト神話の基本を知る(1)ケルト地域と3つの神話群
ケルト神話とは…ダーナ神族、アルスター神話、フィアナ神話
鎌田東二
エンタテインメントビジネスと人的資本経営(5)「チーム戦と新規ビジネス」の要点
「土地勘のあるところ、自分たちの武器を持っていく」
水野道訓
学力喪失の危機~言語習得と理解の本質(2)言葉を理解するプロセスとスキーマ
なぜ子どもは教えられても理解できないのか?鍵はスキーマ
今井むつみ
徳と仏教の人生論(1)経営者の条件と50年間悩み続けた命題
宇宙の理法――松下幸之助からの命題が50年後に解けた理由
田口佳史
経験学習を促すリーダーシップ(1)経験学習の基本
成長を促す「3つの経験」とは?経験学習の基本を学ぶ
松尾睦
「集権と分権」から考える日本の核心(1)日本の国家モデルと公の概念
日本は集権的か分権的か…地理と歴史が作る人間の性質とは
片山杜秀
いま夏目漱石の前期三部作を読む(1)夏目漱石を読み直す意味
メンタルが苦しくなったら?…今、夏目漱石を読み直す意味
與那覇潤
教養としての「人口減少問題と社会保障」(1)急速に人口減少する日本の現実
毎年100万人ずつ減少…急降下する日本の人口問題を考える
森田朗
ショパンの音楽とポーランド(1)ショパンの生涯
ショパン…ピアノのことを知り尽くした作曲家の波乱の人生
江崎昌子