●「総選挙」はメイ首相の判断ミス
イギリスの総選挙の結果についての解説をいたします。結論から言いますと、テリーザ・メイ首相の判断ミスでした。デービッド・キャメロン前首相もEU離脱の国民投票をすることによって、イギリスを大混乱に陥れました。これと同じようにメイ首相も、総選挙に訴えることで、過半数だけでなく、圧倒的な多数を議会で獲得して、EU離脱の交渉などをうまく進めようと思ったのでしょうが、結果は過半数の議席さえ取れませんでした。よって、連立政権になります。
連立というのは簡単なことではありません。相手が小さいために簡単に進むのではないか、と思う人がいるかもしれませんが、小さい政党の無理難題を聞かざるを得ない、というのが連立政権です。
●相対多数制で過半数をとれなかったのはメイ首相の誤算
では、選挙結果を少し見てみましょう。650議席の中で、保守党は議席を減らしました。331議席から318議席に減少しました。一方、労働党は232議席から262議席に増やしました。もう一つ、興味深いのは、スコットランド国民党(SNP)が前回は56議席、それが今度は35議席に減っています。また、イギリス独立党(UKIP)は、議席が0です。
こうして考えてみると、イギリス政治はどちらに動いているのか、という疑問が出て来ると思います。保守党としては300議席は取ったとしても過半数に至らない。イギリスの政治は基本的にはプルラリティ・ルール(plurality rule)、つまり小選挙区相対多数なのです。この制度は、競争が大体2党に収斂するため、過半数を取りやすい制度です。
前回は保守党が「運よく」と言っていいでしょう、過半数を取れたのです。しかしながら、今回はこの制度であるにもかかわらず、過半数を取れませんでした。事前の世論調査では、野党はボロボロで、特に労働党に関しては支持が低いとほとんど言われていたのですが、選挙直前で急に拮抗してきて、ほぼ差がなくなってきたのです。そういう意味でいうと、今回総選挙に打って出れば、圧倒的に議席を持ち、そのことによってEUの交渉ができると考えたテリーザ・メイの戦略は、見事に外れました。
●総選挙に訴えたがための敗北、連立政権模索へ
このことは、実はキャメロン首相の時も同じ問題があるのです。どういう構造かというと、キャメロン氏も保守党内部の強硬派、離脱派を説得できなかったのです。説得できないから国民投票に持ち込んだのです。国民投票で圧勝して、その強硬派、少数派を排除するつもりでした。今回も、保守党内部の少数の強硬派を説得できませんでした。だから、総選挙に訴えるのです。総選挙に訴え圧勝することによって、強硬派の人たちを相対的に小さい形にし、彼らが造反しても議会が通るという形にしておきたかったのだろうと思います。
そういう意味でいうと、問題に正面からぶち当たらないキャメロン氏やメイ氏は、要するに、自分の党内問題に対して総選挙に訴える、国民投票に訴えるということで、少し筋が違うのではないかと思います。それが成功すればいいのですが、実際には成功しませんでした。結果的にはハングパーラメント(hung parliament、宙ぶらりん議会)、つまり多数をどこも取らないという形になり、連立政権を模索せざるを得ないということになったのです。
ただ、イギリスを見ていると、イギリスでハングパーラメントになるような大対立が起きたケースはEU問題が絡んでいることが多いのです。過去においてもイギリスにとって頭の痛い問題は、EUとどう対峙するかということが、大きな問題としてあったと思います。このハングパーラメント、つまり連立という形でメイ政権は続くのか、ということですが、維持するのはとても難しいと思います。
●EU離脱に関する2つの選択肢
もう一つ難しい問題は、EUとの離脱交渉です。EUとの離脱交渉は、イギリス人からすれば、ハードBREXITとソフトBREXIT、つまりハードな離脱とソフトな離脱の2つの選択肢があるということです。これと同じようなことで、日本の場合、金融でハードランディングとソフトランディングの2つがありましたが、あるイギリス人に「ハードBREXITとソフトBREXITの違いは何か?」と聞いたら、そのイギリス人も「よく分からない」と言いました。離脱には変わりないわけです。強いて言うならば、「単一市場からの完全離脱」というのがハードBREXITということになるのでしょう。それに中間があるとすると、移民問題をどう扱うか、ということになります。
ノルウェーなどがそうなのですが、ソフトBREXITは、単一市場に何らかの形で残りながら、そして離脱という形を取るということです。ノルウェーは(単一市場の)メンバーではあるわけですが、ただ発言権はなく分担金は出しているという形です。こういうノルウェー型などを...