●交渉がまとまれば中東の情勢ががらりと変わる
岡崎 これは分かりませんけれども、11月から半年間交渉していて、交渉の内容は全く出てきませんが、もしアメリカとイランで話し合いがつくと、ホメイニ革命が1979年ですから、少なくとも35年の間の中東情勢ががらりと変わるということになります。これは大きいです。だから、イスラエルやサウジアラビアは今、猛烈に反対しているのです。
サウジはすごいです。サウジは国連の安保理事国に当選して、今年から入ることが決まっていました。入ったら、イラン制裁を厳しくして、シリアに対するイランの介入を排除して、それからイランの核開発を止めて、場合によっては爆撃しても何をしても締めつけるというつもりで安保理に入るつもりでした。
ところが、アメリカとイランが交渉を始めました。すると、安保理に入らないと言い出しました。こんな例はないです。安保理の理事国に選出されることが決まっているのに、それで嫌だという例は今までにありません。
ですから、情勢ががらりと変わります。これは、あと半年見なければいけませんが、半年で中東はまるっきり変わると思います。
例えば湾岸の各王国ですが、これは皆スンニ派の王様です。シーア派というのは下層民で少数派ですが、これを皆イランの手先だとして弾圧するという政体でした。しかし、アメリカとイランが仲良くなってしまうと、政権が皆不安定になります。やはり湾岸は状況ががらりと変わりますね。
―― そうですね。そうすると、サウジとかイスラエルとか、皆焦りますよね。
岡崎 イスラエルも焦っています。ですから、イスラエルは今度、イスラエル・ロビーを使って、米イラン交渉をぶち壊そうとしています。アメリカの議会でイラン制裁をもっと強化する決議案を通そうとしているのです。それでオバマは拒否権を使う構えですけれども、結果はどうなるか全く分かりません。
●油価が下がればシェールガスの新規投資にブレーキがかかる
半年の交渉の後、もし日本に影響が出るとしますと、これは私の見通しで、全く誰にも言ってはいないですが、アメリカとイランの交渉が成立すると、石油の値段が下がります。つまり、湾岸に戦争の危険がなくなってしまうのです。それで、どこまで下がるか分からないけれども、まず湾岸に戦争の危険がなくなったということで、投機材料として下がります。それから、イランの石油がどっと入ってきますし、イラクの石油ももう今にもばっと出てくるでしょう。イラクの政権はシーア派で、イランの子分なのです。
そうすると、石油が下がります。石油が下がるとどうなるかというと、今のアメリカは景気がいいために円も安くて、これでうまくいっているけれども、これは全部アメリカのシェールガスによるものです。シェールガスの採算ですが、新規投資の採算の基準はだいたい、石油の値段で80ドルと言われており、油価80ドルより安くなってしまうと、もう新規投資はできないと言っています。
―― 今100ドルくらいに落ち着いています。
岡崎 そうすると、アメリカの景気も分からなくなってしまいます。もっとも石油の値段が安くなったら、日本は得をします。日本は得をするけど、アメリカの景気が落ち込んだら、日本は悪くなります。そういう可能性も出てきます。ですから、この半年の交渉で世界情勢が、がらりと変わると思います。
●交渉が昨年3月に開始されていた意味とは
―― イランとのそんなタフな交渉は、いったい誰がやったのですか。ゲーツですか。
岡崎 イグネイシャスという新聞記者がいるのです。これは、アメリカのCIAでもペンタゴンでも勝手に廊下を歩いて、どこの部屋でも入れるというほどの情報通で、ホワイトハウスでは完全に信頼されています、その人が、米イラン交渉がこの秋に成立した時に、11月にひそかにオマーンで交渉していたと、内容をすっぱ抜いたのです。
オマーンは目立たない国で、全く誰も分かりません。交渉に出席したのも、アメリカ側は中東局の次長、それから、ホワイトハウスの中東担当の次席です。ですから、やはり目立ちません。その二人が行って交渉し、話がついたので、彼がホワイトハウスの許可を得て記事にしたのでしょう。それで、すっぱ抜き記事が出ました。
これは誰も言っていないしアメリカの誰も注目していないけれども、私が少し気になったのは、その記事では去年の3月から交渉をやっていると言うのです。
どうしてそれが重大かと言いますと、イランでローハニが大統領に当選したのは、8月なのです。これも当選すると思われてはいませんでした。でも、当選したら、イラン人は意外に平和を欲しているのだなということが分かってきました。それで、イランは、たとえローハニが当選しても、ハメネイは資格を認めないだ...