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ユーフラテスの盾作戦のトルコの隠れた目的

中東の新たな地政学的変動(3)ユーフラテスの盾作戦

山内昌之
東京大学名誉教授/歴史学者/武蔵野大学国際総合研究所客員教授
概要・テキスト
シリア和平会議の開催によって、中東問題の解決に寄与するのは、ロシア、トルコ、イランの三国という情勢が固まってきた。地上戦においては、NATOでアメリカに次ぐ規模を持つトルコ陸軍の介入するユーフラテスの盾作戦がIS駆逐の決め手となった感が強い。歴史学者・山内昌之氏に、中東の新たな地政学的変動の事情を伺う。(全5話中第3話)
時間:10:13
収録日:2017/02/22
追加日:2017/04/05
カテゴリー:
≪全文≫

●トルコがISとクルド人を駆逐した、ユーフラテスの盾作戦


 皆さん、こんにちは。前回は地図などを多用したこともあって、少し竜頭蛇尾と申しますか、最後が十分にお話しできませんでした。

 ユーフラテスの盾作戦とは何かというと、ISの駆逐だけが目標ではありません。シリア・クルド人の一掃、そしてトルコのクルド人反政府勢力とシリアのクルド人兵力が結合することにくさびを打ち込むことが、この作戦の隠れた目標でもありました。

 この作戦は(2016年)8月24日に始まりました。開始の4日前にはトルコの南東部にあるガズィアンテプという町で、ISによるとおぼしき自爆テロが起き、トルコ市民が54人も死亡したばかりでした。この町はもともとアンテプという名前で、ガズィは英雄や戦士を意味します。トルコ革命の時に、町ぐるみで抵抗したために、「ガズィアンテプ」という名前が付けられたのです。

 テロ事件をある意味で介入のための理屈、あるいは奇貨として、トルコ国防軍はFSA(自由シリア軍)を支援する名目でシリア国境を越えました。そして、たちまち北部のジャラーブルスを数時間で制圧し、ISをたやすく排除したのです。さしものISも、中東で屈指の陸軍兵力、NATO加盟国として戦闘経験も豊かなトルコ国防軍の正規兵力には太刀打ちできませんでした。9月4日になるまでに、トルコ軍の援護を受けた自由シリア軍は、ジャラーブルスの西50キロメートルにあるアルライーにつながる国境地域から、ISを全て一掃しました。その結果、ISがこの黒い地域まで押しやられたのです。


●スンナ派回廊を確保したトルコ、犠牲になったクルド人

 
 思い返しますと、日本人の人質が解放される・されないといわれていた時に、日本も含めたテレビがトルコ側から送られていた映像で実況した、ということがありました。あの時、向こうの国境の監視塔にISの旗が立っていたり、ISの関係者が現れたりするのをカメラが遠目に収めていましたが、トルコ国境から本当にすぐのところまで、この黒い勢力(IS)が伸びていたということです。

 そのIS勢力が、今やトルコ国境から遠ざけられたという安全保障上の理由が(ユーフラテスの盾作戦には)一つあります。それから、トルコ国内における治安、テロの問題が二つ目になります。それらのみならず、もう一度おさらいをしておきますと、クルド人の排除、ISの駆逐、これらの戦略的な目...
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