中東の新たな地政学的変動
この講義シリーズは第2話まで
登録不要無料視聴できます!
▶ 第1話を無料視聴する
閉じる
この講義の続きはもちろん、
5,000本以上の動画を好きなだけ見られる。
スキマ時間に“一流の教養”が身につく
まずは72時間¥0で体験
ロシア・トルコ・イランの同盟関係は長続きしない
中東の新たな地政学的変動(5)新三国同盟の壊れやすさ
山内昌之(東京大学名誉教授/歴史学者/武蔵野大学国際総合研究所客員教授)
歴史学者・山内昌之氏がシリアを中心とした中東の新たな地政学的変動について解説するシリーズ最終話。現在、ロシアとトルコの接近、およびイランを含めた新三国同盟ともいえる協力関係の下、シリア情勢はかりそめの収まりを見せている。山内氏はこの三国の関係はそう長続きはしないだろうと見ている。安定とは程遠いシリア、中東問題の背景とその根本に迫る。(全5話中第5話)
時間:10分36秒
収録日:2017年3月1日
追加日:2017年4月7日
カテゴリー:
≪全文≫

●ロシアとの接近で国境危機を救ったトルコ


 皆さん、こんにちは。

 (これまで)シリア危機をめぐるロシアとトルコとの接近についてお話ししてきました。これはシリアの政治プロセスにおいて、2つの影響を与えています。それは、アメリカの影響力の減少はもとよりですが、もう一つ忘れてはならないのは、イランの力の減少、少なくともその制限をロシアが図ったということです。

 トルコは2015年来のロシアとの緊張状態を克服し、和解からさらに政治協力、そして事実上のシリア問題に関するアドホックな同盟に進むことによって、一種のボーダー・クライシス、国境危機を救ったといえます。つまりそれは、シリア国境に沿って自治区もしくは勢力圏をつくられることを全て阻止し、トルコがダマスカス、ひいては南のスンナ派アラブ世界にそのまま接触できる可能性を保持した、という意味においてです。さらにトルコはこのことによって、歴史的にスンナ派のライバルであるシーア派の総帥イランの影響力を薄めることに、ひとまず成功しました。


●国境危機を救うためにトルコが払った2つの代償


 もっとも、その一種の代償として、反政府勢力にアレッポから退去させる、つまりアサド政権と組んでいるロシアのメンツを立てるために、アサド政権と戦っている、そして自ら援助してきた反政府勢力に、北の重要な戦略的都市であるアレッポから退去させました。

 もう一つの代償は、トルコがシリアに南下し戦略的に干渉政策を始めた時に図っていたこと、すなわち東のクルド人によるユーフラテスより西側の中心都市マンビジュの占領を止めさせて、クルド人をそこから追い払うという政策を、今ひとまず中止しているということです。つまり、クルド人との正面衝突を避ける、あるいはクルド人との妥協を余儀なくされるというもう一つの譲歩をした、ということです。これは、今のところトルコにとってやむを得ない譲歩、あるいはぎりぎり忍耐できる限界で譲歩したということです。


●ISのアルバーブ退去の背後にある各国それぞれの意図


 今、トルコ軍は北からアルバーブというISの支配している地域に迫っており、シリア政府軍はアルバーブにつながる都市に南から入ることを慎重に避けていますが、これはトルコ軍と接触することを避けているかのように思われます。一番新しい情報(2017年3月1日現在)では、このアルバーブから...

スキマ時間でも、ながら学びでも
第一人者による講義を1話10分でお届け
さっそく始めてみる
「政治と経済」でまず見るべき講義シリーズ
トランプ政権と「一寸先は闇」の国際秩序(1)国際秩序の転換点と既存秩序の崩壊
経済秩序や普遍的価値観を破壊し、軍事力行使も辞さぬ米国
佐橋亮
産業イニシアティブでつくるプラチナ社会(1)「プラチナ社会」構想と2050年問題
5つの産業で「資源自給・人財成長・住民出資」国家を実現
小宮山宏
多数派が多数でなくなるとき
悩める多数派…なぜ「多数は少数の集まり」と考えるべきか
曽根泰教
デジタル全体主義を哲学的に考える(1)デジタル全体主義とは何か
20世紀型の全体主義とは違う現代の「デジタル全体主義」
中島隆博
マルクス入門と資本主義の未来(1)マルクスとはどんな人物なのか
マルクスを理解するための4つの重要ポイント
橋爪大三郎
グローバル環境の変化と日本の課題(1)世界の貿易・投資の構造変化
トランプ大統領を止められるのは?グローバル環境の現在地
石黒憲彦

人気の講義ランキングTOP10
徳と仏教の人生論(1)経営者の条件と50年間悩み続けた命題
宇宙の理法――松下幸之助からの命題が50年後に解けた理由
田口佳史
何回説明しても伝わらない問題と認知科学(1)「スキーマ」問題と認知の仕組み
なぜ「何回説明しても伝わらない」のか?鍵は認知の仕組み
今井むつみ
エンタテインメントビジネスと人的資本経営(6)評価制度設計と「夢」の重要性
なぜ二本立ての評価制度が必要か…多種多様な人材の評価法
水野道訓
いま夏目漱石の前期三部作を読む(1)夏目漱石を読み直す意味
メンタルが苦しくなったら?…今、夏目漱石を読み直す意味
與那覇潤
経験学習を促すリーダーシップ(1)経験学習の基本
成長を促す「3つの経験」とは?経験学習の基本を学ぶ
松尾睦
ケルト神話の基本を知る(1)ケルト地域と3つの神話群
ケルト神話とは…ダーナ神族、アルスター神話、フィアナ神話
鎌田東二
学力喪失の危機~言語習得と理解の本質(2)言葉を理解するプロセスとスキーマ
なぜ子どもは教えられても理解できないのか?鍵はスキーマ
今井むつみ
東大ハチ公物語―人と犬の関係(1)上野英三郎博士とハチ
忠犬ハチ公で哲学する…人と犬の関係から見えてくる道徳論
一ノ瀬正樹
クーデターの条件~台湾を事例に考える(1)クーデターとは何か
台湾でクーデターは起きるのか?想定シナリオとその可能性
上杉勇司
習近平中国の真実…米中関係・台湾問題(1)習近平の歴史的特徴とは?
一強独裁=1人独裁の光と影…「強い中国」への動機と限界
垂秀夫