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ロシア・トルコ・イランの同盟関係は長続きしない

中東の新たな地政学的変動(5)新三国同盟の壊れやすさ

山内昌之
東京大学名誉教授/歴史学者/武蔵野大学国際総合研究所客員教授
概要・テキスト
歴史学者・山内昌之氏がシリアを中心とした中東の新たな地政学的変動について解説するシリーズ最終話。現在、ロシアとトルコの接近、およびイランを含めた新三国同盟ともいえる協力関係の下、シリア情勢はかりそめの収まりを見せている。山内氏はこの三国の関係はそう長続きはしないだろうと見ている。安定とは程遠いシリア、中東問題の背景とその根本に迫る。(全5話中第5話)
時間:10:36
収録日:2017/03/01
追加日:2017/04/07
カテゴリー:
≪全文≫

●ロシアとの接近で国境危機を救ったトルコ


 皆さん、こんにちは。

 (これまで)シリア危機をめぐるロシアとトルコとの接近についてお話ししてきました。これはシリアの政治プロセスにおいて、2つの影響を与えています。それは、アメリカの影響力の減少はもとよりですが、もう一つ忘れてはならないのは、イランの力の減少、少なくともその制限をロシアが図ったということです。

 トルコは2015年来のロシアとの緊張状態を克服し、和解からさらに政治協力、そして事実上のシリア問題に関するアドホックな同盟に進むことによって、一種のボーダー・クライシス、国境危機を救ったといえます。つまりそれは、シリア国境に沿って自治区もしくは勢力圏をつくられることを全て阻止し、トルコがダマスカス、ひいては南のスンナ派アラブ世界にそのまま接触できる可能性を保持した、という意味においてです。さらにトルコはこのことによって、歴史的にスンナ派のライバルであるシーア派の総帥イランの影響力を薄めることに、ひとまず成功しました。


●国境危機を救うためにトルコが払った2つの代償


 もっとも、その一種の代償として、反政府勢力にアレッポから退去させる、つまりアサド政権と組んでいるロシアのメンツを立てるために、アサド政権と戦っている、そして自ら援助してきた反政府勢力に、北の重要な戦略的都市であるアレッポから退去させました。

 もう一つの代償は、トルコがシリアに南下し戦略的に干渉政策を始めた時に図っていたこと、すなわち東のクルド人によるユーフラテスより西側の中心都市マンビジュの占領を止めさせて、クルド人をそこから追い払うという政策を、今ひとまず中止しているということです。つまり、クルド人との正面衝突を避ける、あるいはクルド人との妥協を余儀なくされるというもう一つの譲歩をした、ということです。これは、今のところトルコにとってやむを得ない譲歩、あるいはぎりぎり忍耐できる限界で譲歩したということです。


●ISのアルバーブ退去の背後にある各国それぞれの意図


 今、トルコ軍は北からアルバーブというISの支配している地域に迫っており、シリア政府軍はアルバーブにつながる都市に南から入ることを慎重に避けていますが、これはトルコ軍と接触することを避けているかのように思われます。一番新しい情報(2017年3月1日現在)では、このアルバーブから...
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