●2017年1月に外貨準備が減少から増加に変わった理由
最後になりますが、2017年1月に外貨準備が減少から増加に変わった理由を説明すると、それは中国要因が非常に大きいからです。中国は人民元を対米ドルで基本的にペッグしていますので、その関係上、ドルがユーロや円に対して上昇すると元をドルに対して切り下げます。一方で2017年1月から2018年3月のようにドルがユーロと円に対して下落すると、人民元の対米ドルを切り上げます。
例えば2016年までのようなドル高局面、ユーロや円が安い局面では市場の中で元が対米ドルで切り下げられるという思惑が浮上し、中国から海外への資本流出が加速することが起こりました。例えば2015年に人民元の切り下げを中国が発表したときは、月々約10兆円のお金が抜けたような計算になります。
その結果として、左下のグラフ(上のグラフ)で示されている通り、中国の外貨準備が当初の4兆ドルから一気に3兆ドルまでおよそ1兆ドル(日本円で約100兆円)減少しました。2017年はじめに中国の外貨準備高が3兆ドルまで減ったところで、中国が通貨防衛策の軸足を為替介入、つまりドルを売って元を買い戻すという為替介入から、金融引き締めに軸足を移しました。
それをよく示すものが右下のグラフ(上のグラフ)です。青が米ドルの短期金利で、赤が人民元の短期金利を示していますが、2017年はじめにアメリカをはるかに上回る金融引き締めが行われたことによって人民元の下落に歯止めをかけ、資本流出も止めて外貨準備の減少を止めてきました。その結果として、中国の外貨準備が減少から増加に転じたことが他の国々の外貨準備の増加と相まって世界全体の外貨準備を底堅く押し上げる結果につながり、これが前回話したように、主要国通貨間でのドル売り、ユーロ買い円買いポンド買いを誘発する状況になっています。その意味において、2017年に中国の通貨防衛策が為替介入から金融引き締めに転換したこの頃が、足元に至るまでのドル安の一つの大きな背景になる、非常に重要なターニングポイントでした。為替相場における鍵をいかに中国が握っているかということがまた1つ示された事例といっていいと思います。
●米ドルの長期トレンドと大統領、財務長官の交代
これは蛇足ですが、アメリカのドルの中長期的な方向感を示したものが上のグラフになります。これは米ドルの通貨指数の長期的な動きをアメリカの大統領が交代したところと照らし合わせて、示しているものです。過去、ドルの大きなトレンドの転換が大統領交代時に起こったことがよくお分かり頂けるかと思います。今回ドル安が始まって特に対ユーロでそれが顕著になったのは2017年1月からですが、これはいうまでもなくバラク・オバマ大統領からドナルド・トランプ大統領に交代したタイミングでした。
実は過去、大統領が交代したタイミング以外でもドルの長期トレンドが転換したことがあります。大体アメリカの財務長官交代時と重なることが多いのです。その典型例というのが1985年のプラザ合意ですが、この時はロナルド・レーガン大統領の下で財務長官がドナルド・リーガン氏からジェイムズ・ベーカー氏に交代したことが通貨政策の変更になりました。
その後、長期的なドル安が続き、クリントン政権が誕生してドルは底入れするもなかなか上昇に転じません。ドル円に関していうと、その後も下がり続けるという動きが続きますが、1995年にクリントン政権下において財務長官がロイド・ベンツェン氏からロバート・ルービン氏に代わって以降、為替介入が突然効き始め、ドルの長期トレンドが底ばいから上昇に転じるということが起きています。他には、為替相場そのものが変動を始めるきっかけであった1971年のニクソンショック、金ドル交換停止の時にも、ニクソン政権の下でアメリカの財務長官がデヴィッド・M・ケネディ氏からジョン・コナリー氏に代わったタイミングで、このような大きな通貨政策の変更が行われたこともありました。
ですから、基本的には大統領と財務長官の交代をよく注意しておく必要があると思います。
●財政収支とドル相場
そうした中で、ドルの長期トレンドが転換すると、今見ていただいているグラフの通り、財政収支が改善していく時にはドル高トレンドが維持されやすく、財政収支が悪化するトレンドになるとドルが下落する傾向が出てきます。今回トランプ政権の下で、大型減税が成立しました。これに伴ってアメリカの財政赤字が拡大していく方向になっていますので、ドルの長期トレンドも財政収支が改善したオバマ...