●迫る離脱期限、「無秩序離脱」の可能性も
イギリスのEU離脱問題(BREXIT、ブレグジット)について、何度かここでお話ししていますが、今日はEU離脱交渉について、今後のシナリオはどうなるのかという点をお話ししたいと思います。
2019年における世界の重要事項の一つが、イギリスのEU離脱問題です。期限は、通告から2年後となる2019年3月29日に決まっていますが、現在にいたるまでイギリスとEUの間では合意ができていません。2018年10月に完了するはずだった合意が成り立たず、12月まで延ばしている最中です。合意ができれば、離脱時期を1年ほど先送りすることはあり得るといわれていますが、スケジュール的には2019年3月末には合意がなされ、2020年末に移行が完了するとなっています。
しかし、実はそう簡単にはいかない理由がたくさんあります。まず、合意ができない場合を考えてみましょう。今(2018年11月1日)の段階で合意はできていませんが、このまま時間が過ぎてしまうと、合意なき「無秩序離脱」になるといわれています。
●離脱交渉のカギを握る英国議会の承認
このような事態が起きかねないのは、主としてイギリスの国内政治が理由です。難航しているのはイギリスとEU間の合意交渉だと一般には見られていますが、実はイギリス国内政治上の対立がなかなか厄介な問題なのです。
イギリス政治には、伝統的に左派と右派が存在し、それぞれの党内にも左と右を抱えています。特に労働党などはかなり左寄りになっていて、党内の路線対立に悩んでいます。現在の予測では、労働党右派はテリーザ・メイ首相の合意案に乗ってくることもあり得るのではないかといわれ始めているぐらいです。一方、保守党の中の問題は左右の対立だけではありません。離脱派がかなり多く、さらに「強行離脱派」というグループが存在していることも挙げられます。
こうした中、仮に12月までにEUとイギリスの間に合意ができたとしても、イギリス議会の承認が取れるのかどうかが非常に厄介な懸念材料として浮上しています。議会の承認がない限り「無秩序離脱」のリスクが増すわけで、イギリス国内の承認問題が一つのカギと考えられます。
●「いいとこ取り」や「手切れ金」より問題は国境線
これまでも今も、いろいろな点が交渉の材料になってきました。基本的には、自由なEU市場、つまり関税同盟としてのEU市場に対して、イギリスが今後どのような形で残るのか、それともまったく離脱してしまうのかという、EU市場との関係があります。また、もう一つは人の移動制限です。イギリスは、関税やEU市場はそのままにして、人の移動だけを制限したいという、いいとこ取りの立場にあり、「そうはいかない」というのがEUの方針です。
ただ、今まで厄介だと思われたいくつかのことはすでに合意されています。例えば、手切れ金ともいえる「離脱清算金」の問題がそうですし、EU市民あるいはEUにいるイギリス市民の地位・権利保障はどうなのかという問題も合意に達しています。
では、何が一番問題なのか。それは、このテンミニッツTVで何度も繰り返し述べてきた「北アイルランド・アイルランド間の国境問題」です。日本人はあまり関心がないかもしれませんが、この国境問題は一番の難問として出てきています。
●北アイルランド・アイルランド国境問題が最大の懸案事項
国境は約500キロありますが、イギリスがEUを離脱すると、国境管理が必要になります。EU側、イギリス側ともに、それほど厳格な国境管理でなくてもいいという点では、だいたい方向性は見えています。ただ、今まで自由に通行・往来ができていた北アイルランドとアイルランドとの間はどうなるのか、それが問題です。
従来通りにしてしまうと、ここを通じてイギリスのいう「人の移動」が起こります。すなわち、第三国から来た人が北アイルランドを通じてイギリスに入ってくるわけです。北アイルランドがEUに残留すれば話は簡単なのですが、ただ北アイルランドだけがEUに残ってしまうことは、イギリスとしては認められません。
さらに現在、テリーザ・メイ政権は過半数の議席がないので、約10議席の北アイルランドの地域政党である「民主統一党(DUP)」と閣外協力を結んでいます。この党から、いろいろな注文が出てくることが考えられます。
また、かつてはイギリスにおいてIRA(アイルランド共和国軍)などのテロ問題がありました。それが静まっているのは、イギリスのEU加盟により北アイルランドとアイルランドの間がかなり自由に往来できるようになり、宗教対立などが棚上げ状態になっているからだといわれています。これは紛争が収まっている代表的な例なのですが、それが再燃するのではないか...