●超電導リニア(SCMAGLEV)で日米同盟を強化し、技術の裾野を広げる
―― 技術開発に関するライセンス料をフリーにしてしまうとは、すごいですね。
葛西 そんなところで少しお金を稼いで、そのために時間がかかっても意味がありません。何かを成し遂げるときの要諦はエネルギーを最大にすることで、そのためにはやはり集中して、しかも素早くやるということです。エネルギーはmv2ですから。何かに焦点を合わせたら、そこに焦点を絞ることと、速やかに行動すること、これがあらゆるものの成功の秘訣だと思うのです。ですから、「せっかくわれわれが完成した技術をアメリカにライセンス料フリーで提供してしまうのか」ということではなく、日本政府としてこの技術を生かして日米同盟を強化し、それとともに技術そのものの裾野も広げるという形になるのが最善だと思うのです。
●米国式〝BMW〟と超電導リニア(SCMAGLEV)の親和性
葛西 ワシントン~ニューヨーク間は350キロメートルですから、東海道新幹線の東京~名古屋間とほぼ同じ距離です。東京~名古屋間が完成すると、東京~名古屋間の地域は、どこにいても1時間以内で動けるようになります。それから東海道新幹線についても、ひかりの本数が増えますから、例えば豊橋、静岡、浜松、それから三島、小田原、どこにいても、東京、名古屋、大阪に、今までより大幅に時間を短縮された形で行けます。これによってこれらの地域が一つのまとまった地域になります。
最近アメリカでよく言われているらしいのですが、ニューヨークで一番進んだ人たちはどういう生き方をするかと言うと、〝BMW〟なんだそうです。これは何かというと、〝bicycle〟〝metro〟〝walk〟の頭文字を略して〝BMW〟と言うのだそうです。ニューヨークは道が非常に混雑して、自動車で通勤すると大変な長い時間がかかる上に、予測がつかないほど時間がかかることもある。しかし自転車なら大丈夫だと。自転車で駅まで行き、地下鉄に乗って、あとは歩けばいいのだと言っているのです。ですので、マグレブ(超電導リニア/SCMAGLEV)がワシントン~ニューヨーク間をつなぎますと、ワシントン~ニューヨーク間350キロの地域がみんなそういうスタイルになるのです。マグレブの駅まで自転車で行き、そこからマグレブへ乗って、あとはオフィスまで歩けばいい。これによって、ワシントン~ニューヨーク間のさまざまな地域がほとんど等質の価値を持つようになります。それはもはや別個の都市が並んでいるという関係性ではなく、一つの大きなメガロポリスとして統合されるということになり得るのだろうと思います。
こうしたアメリカでの展開をアメリカの人たちと一緒に進める中で、〝transformational(革新的)〟であることと、〝green〟であること、これらがアメリカにおける二つのキーワードだと彼らは言っています。
●飛躍した技術が世界標準になり、社会を一変させる
―― 日米両方にできることの意味は大きいですね。東京~名古屋~大阪間と、ワシントン~ニューヨーク間の両方が完成したら。
葛西 もう世界の標準技術ですね。世界中でそういうものを欲しいというところが出てくると思います。そういう飛躍した技術というものは、現在の既存の傾向から予測することはまずできません。東海道新幹線建設時も、どのぐらいの輸送能力になるだろうか、輸送量になるだろうかと想定はしているのですが、実際にできてみると、それをはるかに上回る2倍、3倍の輸送需要が出てきた。全く違った社会現象が生まれてくるということですよね。ワシントン~ニューヨークの場合も、マグレブができると、今までの予測を上回る生活スタイルの変化が生まれるだろうと思います。それをぜひ引き起こしていきたい。それによって、単なるフィージビリティ・スタディの域を超えた成果を上げることができるでしょう。
だいたい科学的な方法というものはたいした方法ではないのです。過去から現在を結んでその延長線上に将来を見て、それに多少の誘発効果を上乗せするという、いわば極めて過去にとらわれた図式なのです。技術が飛躍したときは、それとは全く違った需要、行動形態、あるいは社会的なポテンシャルが生まれてくるのです。ですから、汽車から飛行機に変わったときはやはり大きかったのだろうと思います。今まで全くなかったものができたわけですから。
ところが、利口な人間というものは、だいたい昔から続いてきたことを延長して、科学的に将来を実証してみせます。その説明があるとアカウンタビリティが果たされるので、それが一番良いやり方だと思っているわけですが、それは不等式の中における話であって、一定の不等式の上限を飛び越えた世界になったときには、全く...