●あと1年、状況を静観していれば戦争は避けられたはず
―― 「地図は変えられない」「日本もアメリカも海洋国である」など、日米同盟に対する名誉会長のお考えについて、先日『致知』の対談で拝読させていただきました。日米同盟についての名誉会長の持論をぜひお聞かせください。
葛西 これは、私がよく言う話なのですが、「アメリカは日本を本当に守ってくれるのだろうか」と言う人がいます。それを聞いて「そうだ」「そうかもしれない」と思う人も出てきます。あるいは、例えば大統領であってもそれぞれ個性が違うのは当然なのに、「カーターさんのような人ではだめだ」とか「今の政権は国際問題に対してしっかりとした定見を持っているのだろうか」と、いろいろな意見を口にする人がいます。
そして、それにこちら側が振り回されて、「アメリカは頼りにならない」と思った瞬間に、「自分たちの国は自分たちで守らなくてはならないから、核武装が必要だ」という人と、「アメリカは頼りにならないのだから、いっそのこと中国とよしみを通じたほうがいい」という人が、二つに分かれて出てくるのです。しかし、これはどちらも間違っています。
一方、日本では「アメリカは守ってくれない」と話していたその人物が、アメリカでは一転して「日本ではウルトラナショナリズムが進行中で、軍事大国を目指している」などと述べて、日米を離間しようとするのです。
実は、このようなことは過去にもありました。第二次世界大戦前に、ソ連は、日本と蒋介石率いる中国を戦わせて、それによってアメリカ、イギリスと日本の間を引き裂こうと画策しました。その作戦にまんまと乗せられた結果、日本は日独伊三国同盟や日ソ中立条約を結び、さらに仏印に進駐までして、戦争に突入してしまったわけです。
あのとき、確かにアメリカのルーズベルト政権は日本に好意的ではありませんでした。しかし、開戦を思いとどまって、もう少し冷静に大局を見守っていればよかったと思います。あのときドイツとソ連は戦争の直前で、半年後には戦争になっていたわけですし、ドイツがイギリスを屈服させることができなかったということも、ほんの数ヶ月後には明らかになっていました。そして、そのようなことは、ヨーロッパに駐在している武官から日本政府に情報としてもたらされていました。イギリスや北欧などにいた武官から、「イギリスはドイツに屈...