●戦闘機保有数推移にみる中国航空戦力の脅威
── 先生の『文藝春秋』7月号の記事(「尖閣激突 中国航空戦力が日米を上回る日」)、あれはすごく好評でした。
岡崎 そうですか。この前ここで話した内容ですよね。前回、この話はしましたか。私はあの論文を、「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会(安保法制懇)」の最後の会議(第7回 平成26年5月15日開催)で発表したのです。何年も続く会議の最後の回ですから、もう後は皆でお礼を言ったりするような、いわば手打ちの日なのですが、私の番になって「こんな時間にこんな話を持ち出して申し訳ないけれども」と言って、あれを発表しました。
どうしてかと言うと、集団的自衛権というものは、権利があると書いた以上は行使するのが当たり前ではないか、ごたごた言うなと私はずっと言ってきました。皆そうでした。皆これまで法律議論しかしていなかったのです。
ところが、集団的自衛権議論の最後の頃になって、政府が「国際情勢がここまで緊迫している以上はやらざるを得ない」と言い出したのです。誰が言ったか知りませんが、これは一種の修辞だと私は捉えました。それで、私は「そんなばかなことはない。法律的にもはやしなければならないものをするのであって、国際情勢は関係ない」と思っていたのです。大体私は35年前から言っているし、その頃の方が情勢はひどかったのです。そう言っていましたら、自民党の派閥、これは名前を言っても構いませんが、二階俊博さんの派閥の志帥会で勉強会をして、派閥の態度を決めようということになりました。それで頼みに来たのが、大蔵省出身の若い人で、長崎幸太郎さんでした。
── 長崎幸太郎さん。
岡崎 あれは立派な人物です。彼が訪ねて来て、「法律面は分かっている。しかし情勢がどのくらい悪くなったのかを教えてくれ」と言うのです。私は、情勢が悪くなったと思っていなかったので困ってしまいまして、それで初めて今の国際情勢を勉強したのです。すると、勉強しているうちに私自身が愕然としてきました。これは大変だと。これは法律が何であろうと構わないから、すぐにでも集団的自衛権を認めなければいけないという結論に、私自身がなったのです。ぎりぎりだったのです。そこで、法制懇の最後の会議で、手打ち式の最中に「こんな時間になってこんなことを申し上げて悪いけれども」と言って、あれを説明したのです。
── 先生のあの論は明解でした。実際の戦闘機の保有数推移を挙げての説明は。
岡崎 あの事実は本当に恐るべきことです。
── 衝撃でした。
●米国も日本も、単独では中国にかなわない現実
岡崎 あれで一番大事なことは、もうアメリカ一国で中国にかなわないということです。
── それゆえ中国対日米同盟しかないということなのですね。
岡崎 東シナ海でアメリカと中国がぶつかった場合、アメリカが負けてしまう。そして負ける見通しならアメリカは守りません。退いてしまいます。退かれたら、今度は日本一人では無論守れません。だから、アメリカと中国がどんなことになったとしても、日本の自衛隊が米軍と完全に一緒でなければ守りきれないのです。
── 慄然としますね。
岡崎 そういう恐るべき状況だということです。
── 法律の手続き論よりも情勢の方が動いているということなのですね。
岡崎 しかし、それをどうして誰も気がつかなかったか。私だって2年前なら「まだちょっと余裕があるな」という結論になったでしょう。2年前でも本当はもう危なかったのだけれども、2年前に数字を見ていればまだ大丈夫と思ったでしょう。まして5、6年前なら全然思いませんから。
── 『文藝春秋』7月号寄稿のように、明確に数字を詳細に挙げて情勢分析をされたのは、先生が初めてです。
岡崎 初めてです。誰もしていません。しかも今年になってからの情勢ということに意味がある。つくづく情勢というのは変わるものです。そしてそれによって、中国をどう扱うかという問題も変わります。
今、多くの人が議論しているのは、中国の繁栄はいつまで続くだろうかということです。中国は今、もうとにかくいろいろな矛盾が噴出しています。公害問題もひどいですし。だから、そのうちに墜ちるだろうと、そればかりを議論しています。ですが、本来議論すべきはやはり、中国がここまで大きくなってしまったという現実です。
ここまで大きくなってしまうと、例えば経済問題にしても、韓国にしてみれば中国の方が日本の何倍も大事になります。それはインドネシアや東南アジア諸国についてもそうかもしれません。ですから、それだけ大きくなってしまった中国という現実をどう扱うか、ということが、他のことよりも大事になりました。中国は将来駄目になるだろうとか、そんな見通しではなし...