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アメリカとキューバの防災から考える日本の防災の課題

海外の防災に学ぶ~アメリカとキューバの事例から~

片田敏孝
東京大学大学院情報学環 特任教授/群馬大学名誉教授
情報・テキスト
日本の防災に課せられた最大の課題は、国民一人一人が災害に向かい合う主体性をどう取り戻していくのかということだ。これに対して、海外の防災はどうなっているのか。今回はアメリカ、キューバの防災を取り上げながら、日本の防災について考えてみたい。
時間:16:20
収録日:2019/03/30
追加日:2019/06/22
タグ:
≪全文≫

●日本の防災は災害に向かい合う主体性をどう取り戻していくかが課題


 日本の防災の最大の課題は、国民一人一人が災害に向かい合う、その主体性をどう取り戻していくのかということです。防災を地域の問題として捉え、それに官民挙げてみんなで向かい合えるような社会をどう取り返していくのか。これが今、日本の防災に課せられた最大の課題なのだろうと思います。

 そのような観点から、海外の防災、特にアメリカ、キューバといった国の防災を取り上げながら、日本の防災について考えてみたいと思います。


●アメリカの防災の特徴は主体性の高さ


 まずアメリカの防災です。一言でいうならば、主体性が非常に高く、自分の命を自分で守るということに非常に特化した防災が行われているように思います。社会構造そのものがそうなのでしょう。

 そこで、2017年に起こったアメリカのハリケーンの例を挙げながら、アメリカの防災の現状について考えてみたいと思います。

 2017年8月の終わりから9月にかけて、ハリケーン・ハービーがヒューストン周辺を襲いました。これはカテゴリー4でかなり大型のハリケーンなのですが、この時には先行降雨といって、ハリケーンが南方にいる間に、先に陸地側で大雨を降らせているのです。

 この時、ヒューストンでは1,250ミリを超して、1,300ミリ近い雨が降りました。普段、砂漠のようなところにこれだけの雨が降るものですから、甚大な水害になりました。水没した面積としては、アメリカ史上最大級です。このときのヒューストンなのですけれども、「ブラウンオーシャン現象」という現象が起こっています。それは、ブルーオーシャンに対してブラウンオーシャンということで、つまり陸地側にあまりにも雨が降ったため、上陸しても勢力を落とすことなく、そのまま成長し続けるというような状況が生じてしまったのです。これによって、ヒューストンは完全に水没し、全米はこの事態に震え上がったわけです。

 この1週間後です。今度はさらに大きなカテゴリー5、つまり最大カテゴリーのハリケーン・イルマがフロリダ半島を直撃しました。この時。テレビのニュースキャスターは「最悪のシナリオです」と絶叫しています。フロリダ州のリック・スコット知事も「すぐに避難してください」とテレビで呼び掛けて、避難命令を出しています。

 これは、ちょうど1週間前にハービーという大型のハリケーンによってヒューストンが水没した状況を近くで見ていたため、今度はそれよりもカテゴリーがもう1つ上でさらに直撃だということで、スコット知事が出した380万人の避難命令に対して、ものすごい避難が行われたわけです。その時逃げたのは650万人といわれています。およそ倍近い人が逃げているわけです。

 これが大変な問題を引き起こしました。まず高速道路は大渋滞です。1,000キロ離れたアトランタに向かって、キャンピングカーに家財道具を積み込み、家族を乗せて、ものすごい勢いで避難を始めたからです。ガソリンスタンドは空になったため、路上放置が起こります。避難命令を出した州政府側からいうと、避難の必要のない内陸の人まで逃げたため、こんなに混乱したではないかということで、これを「Shadow Evacuation」と呼んで社会問題として位置付けました。

 これは日本と大違いです。日本の場合、仮に380万人に避難命令を出したとしても、逃げる人はどれだけいるでしょうか。それほど逃げないことが問題視されるわけです。一方、アメリカの場合はこれほど多くの人が逃げて、社会が混乱したことが問題にされます。どうしてアメリカはこんなに逃げるのでしょうか。これには、日本の防災において学ぶべきところがあるように思います。


●アメリカ社会に根深い「自分の命は自分で守る」という原理原則


 この問題を考えるとき、アメリカの社会というものを非常によく見なければいけないように思うのです。私はこの問題に前々から興味を持っているのですが、まずアメリカの社会は、少し昔にさかのぼって考えてみます。

 西部開拓史の頃ですが、原住民からするならば、開拓者は侵入者です。一方、そこに入っていく側から見ると、原住民であるインディアンが攻めてくるということで、みんな拳銃を持っているわけです。これがアメリカの銃社会のもともとの始まりだろうと思います。

 今日もですが、アメリカの郊外に行くと、広大な小麦畑が広がっていて、そこにポツンポツンと家が点在しています。そのようなところに強盗が入った場合、警察を呼んでいたら間に合いません。そこで、誰もが自分、そして家族の命を守るために拳銃を持っているのです。

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