将軍のプレゼント
この講義の続きはもちろん、
5,000本以上の動画を好きなだけ見られる。
スキマ時間に“一流の教養”が身につく
まずは72時間¥0で体験
江戸時代の最高のプレゼントは「刀剣」だった
将軍のプレゼント
山内昌之(東京大学名誉教授/歴史学者/武蔵野大学国際総合研究所客員教授)
江戸時代、「あるもの」が、金銀や絹よりも価値ある贈り物として武士に尊ばれた。武家社会ならではともいえる、「あるもの」をめぐる贈答文化。その「あるもの」とは? 贈答様式に垣間見える江戸時代の日常とは?
時間:13分29秒
収録日:2019年4月22日
追加日:2019年6月27日
≪全文≫

●江戸時代の最高のプレゼントは「刀剣」だった


 皆さん、こんにちは。現代人も昔の人も、贈答、現代風にいえばプレゼントは、もらう方も差し上げる方も心が弾む、一種の晴れの儀式です。ですが、現在のように物があふれかえっている時代では、もらって嬉しいものが何か、あるいは絶対に誰でも最高と思うプレゼントを決めるのは難しいものです。誰もが最高と思うものが必ずしも一致するわけではありません。

 例えば、車好きであれば、ランボルギーニやフェラーリ、ポルシェといったスポーツカーがもらって最も嬉しいプレゼントだと思うかもしれませんが、私のように車にまったく関心のない人間には、ランボルギーニやフェラーリ、ポルシェも、どこが違うのかというくらいの関心のなさです。このように、人によって関心事が違うのが現代の特徴かもしれません。

 しかし、江戸時代、徳川の時代においては、武家社会に関する限り「最高のプレゼント」というものがありました。それは何といっても刀剣でした。刀剣こそが最高の贈答品でした。それは昨今の刀剣ブームで日本の若い女性にも人気のある芸術美もさることながら、独特な輝きと精巧な研ぎが相まって醸し出す刀剣の魅力は、まさに武家の魂の象徴とみなされたからだと考えられます。したがって刀剣が人気だった次第です。何かの公式行事のときにも、あるいは私(私用)の贈答においても、「最高のプレゼントは刀剣だ」と言って間違いない所以です。


●刀剣は武家社会で果たした儀礼的な役割


 日本近世史の専門家である深井雅海(ふかい・まさみ)氏が『刀剣と格付け』(吉川弘文館)という興味深い本を2018年に出版されました。これは武家社会における贈答品として中世以来重視されてきた刀剣について、美しい写真も交えて紹介された本で、刀と社会の交わりについて触れられています。例えば、亀甲貞宗や包丁正宗といった国宝級の刀剣も知られていますし、道誉(どうよ)一文字などの御物も美しい写真で紹介されています。

 この本で私が特に興味を感じたのは、刀剣が武家社会で果たした儀礼的な役割です。とくに将軍家と大名家との刀剣贈答は、徳川家康から11代将軍・徳川家斉(いえなり)までの間に1841件も行われた記録があります。そのうち、家督相続の御礼として刀剣が献上されたケースが408件、昔の言葉でいう致仕(ちし=隠居)の御礼が137件にも上って...

スキマ時間でも、ながら学びでも
第一人者による講義を1話10分でお届け
さっそく始めてみる
「歴史と社会」でまず見るべき講義シリーズ
本当のことがわかる昭和史《1》誰が東アジアに戦乱を呼び込んだのか(1)「客観的かつ科学的な歴史」という偽り
半藤一利氏のベストセラー『昭和史』が持つ危険な面とは?
渡部昇一
戦国合戦の真実(1)兵の動員はこうして行なわれた
戦国時代の兵の動員とは?…無視できない農民の事情
中村彰彦
近現代史に学ぶ、日本の成功・失敗の本質(1)「無任所大臣」が生まれた経緯
現代の「担当大臣」の是非は戦前の「無任所大臣」でわかる
片山杜秀
天下人・織田信長の実像に迫る(1)戦国時代の日本のすがた
近年の研究で変わってきた織田信長の実像
柴裕之
第二次世界大戦とソ連の真実(1)レーニンの思想的特徴
レーニン演説…革命のため帝国主義の3つの対立を利用せよ
福井義高
百姓からみた戦国大名~国家の本質(1)戦国時代の過酷な生存環境
戦国時代、民衆にとっての課題は生き延びること
黒田基樹

人気の講義ランキングTOP10
豊臣兄弟~秀吉と秀長の実像に迫る(9)秀吉が作った公武統一政権と歴史のif
公武統一政権を作った秀吉の狙いとその歴史的意味
黒田基樹
AI時代と人間の再定義(4)自分と出会うチャンス
人生はエネルゲイア――AIにない「自分と出会うチャンス」
中島隆博
ポスト国連と憲法9条・安保(1)国連の構造的問題
核保有する国連常任理事国は、むしろ安心して戦争できる
橋爪大三郎
衰退途上国ニッポン~その急所と勝機(1)安いニッポンと急性インフレ
世界で一人負け…「安い国」日本と急性インフレの現実
宮本弘曉
これからの社会・経済の構造変化(1)民主主義と意思決定スピード
フラット化…日本のヒエラルキーや無謬性の原則は遅すぎる
柳川範之
「進化」への誤解…本当は何か?(7)進歩思想としての進化論と社会進化論
適者生存ではない…進化論とスペンサーの社会進化論は別物
長谷川眞理子
プラトン『ポリテイア(国家)』を読む(1)史上最大の問題作
全米TOP10大学の必読書1位が『ポリテイア(国家)』
納富信留
経験学習を促すリーダーシップ(1)経験学習の基本
成長を促す「3つの経験」とは?経験学習の基本を学ぶ
松尾睦
「次世代地熱発電」の可能性~地熱革命が拓く未来
地熱革命が世界を変える――次世代地熱の可能性に迫る
片瀬裕文
逆境に対峙する哲学(1)日常性が「破れ」て思考が始まる
逆境にどう対峙するか…西洋哲学×東洋哲学で問う知的ライブ
津崎良典