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江戸時代の最高のプレゼントは「刀剣」だった

将軍のプレゼント

山内昌之
東京大学名誉教授/歴史学者/武蔵野大学国際総合研究所客員教授
概要・テキスト
江戸時代、「あるもの」が、金銀や絹よりも価値ある贈り物として武士に尊ばれた。武家社会ならではともいえる、「あるもの」をめぐる贈答文化。その「あるもの」とは? 贈答様式に垣間見える江戸時代の日常とは?
時間:13:29
収録日:2019/04/22
追加日:2019/06/27
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≪全文≫

●江戸時代の最高のプレゼントは「刀剣」だった


 皆さん、こんにちは。現代人も昔の人も、贈答、現代風にいえばプレゼントは、もらう方も差し上げる方も心が弾む、一種の晴れの儀式です。ですが、現在のように物があふれかえっている時代では、もらって嬉しいものが何か、あるいは絶対に誰でも最高と思うプレゼントを決めるのは難しいものです。誰もが最高と思うものが必ずしも一致するわけではありません。

 例えば、車好きであれば、ランボルギーニやフェラーリ、ポルシェといったスポーツカーがもらって最も嬉しいプレゼントだと思うかもしれませんが、私のように車にまったく関心のない人間には、ランボルギーニやフェラーリ、ポルシェも、どこが違うのかというくらいの関心のなさです。このように、人によって関心事が違うのが現代の特徴かもしれません。

 しかし、江戸時代、徳川の時代においては、武家社会に関する限り「最高のプレゼント」というものがありました。それは何といっても刀剣でした。刀剣こそが最高の贈答品でした。それは昨今の刀剣ブームで日本の若い女性にも人気のある芸術美もさることながら、独特な輝きと精巧な研ぎが相まって醸し出す刀剣の魅力は、まさに武家の魂の象徴とみなされたからだと考えられます。したがって刀剣が人気だった次第です。何かの公式行事のときにも、あるいは私(私用)の贈答においても、「最高のプレゼントは刀剣だ」と言って間違いない所以です。


●刀剣は武家社会で果たした儀礼的な役割


 日本近世史の専門家である深井雅海(ふかい・まさみ)氏が『刀剣と格付け』(吉川弘文館)という興味深い本を2018年に出版されました。これは武家社会における贈答品として中世以来重視されてきた刀剣について、美しい写真も交えて紹介された本で、刀と社会の交わりについて触れられています。例えば、亀甲貞宗や包丁正宗といった国宝級の刀剣も知られていますし、道誉(どうよ)一文字などの御物も美しい写真で紹介されています。

 この本で私が特に興味を感じたのは、刀剣が武家社会で果たした儀礼的な役割です。とくに将軍家と大名家との刀剣贈答は、徳川家康から11代将軍・徳川家斉(いえなり)までの間に1841件も行われた記録があります。そのうち、家督相続の御礼として刀剣が献上されたケースが408件、昔の言葉でいう致仕(ちし=隠居)の御礼が137件にも上って...
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