三つの戦争と「イスラム国」―中東情勢における悲劇の本質
この講義の続きはもちろん、
5,000本以上の動画を好きなだけ見られる。
スキマ時間に“一流の教養”が身につく
まずは72時間¥0で体験
国家と国民のあり方を根本から問う「イスラム国」
三つの戦争と「イスラム国」―中東情勢における悲劇の本質
山内昌之(東京大学名誉教授/歴史学者/武蔵野大学国際総合研究所客員教授)
混迷を極める中東の戦い。その台風の目は「イスラム国(IS)」なる新興の過激派組織だ。過日、この組織により邦人男性が拘束された。今、中東を揺るがすISの動向と主張、国際情勢への影響を歴史家の山内昌之氏が平易に解説、中東の悲劇の本質に迫る。
時間:20分25秒
収録日:2014年8月20日
追加日:2014年9月18日
カテゴリー:
≪全文≫

●三つの戦争が同時進行する中東で日本人が拘束された


 8月下旬、日本人の湯川遥菜さんという人が、「イスラム国」と呼ばれるイスラムのゲリラないしテロリズムの組織に拘束される事件が起きました。そこで今日は、現代中東の複雑さと混沌について触れてみたいと思います。

 現代の中東の政治構図の複雑かつ混沌を極めた様子は、世界史の中でも類を見ないほどです。一番顕著な特徴は、この中東において、性格の異なる三つの戦争が同時に進行していることではないかと、私は思います。

 まず、第三次ガザ戦争は、パレスチナ人の自決権とイスラエルの安全保障をめぐる対立が高じた衝突です。シリアの内戦は、もともと「アラブの春」に基づく反アサド政権の運動が発展したものです。しかもシリアにおいては、スンナ派中心の反対運動の内部において、内戦が生じています。その中で一番極端な「イラクとシリアのイスラム国家」(ISILあるいはISIS)と呼ばれる組織は、イラクの領土とまたがる作戦を展開しています。言い換えますと、内戦の中にまた内戦が入れ子のようになっている、ある意味で二重戦争の複雑さを呈しているのです。こうした二重戦争の複雑さの中で、反アサドのイスラム戦線とイスラム国という、もともとは仲間であった組織が戦い合う。その渦中で、今回の日本人湯川遥菜氏の拘束事件が起きたのです。


●政教一致の伝統継承を誇示する「イスラム国」の名


 一方、イラクに目を転じますと、シーア派のマリキ氏からアバディ氏へ首相が交代することになりました。この首相承継の混乱に乗じて、ISILという組織は、シリアとイラクを横断する形でイスラム法に基づく国家を樹立し、シーア派政権との正面からの戦争に入りました。それは、現在の中東をはじめ国際秩序の原理を否定し、第一次世界大戦の戦後処理に由来する中東の国境を大胆に否定するものです。

 さらに、ISILは組織の名前から「シリア」と「イラク」という名前を消して、単に「イスラム国(IS)」〝ad-Dawlah al-'Islāmiyyah〟というアラビア語を英訳すれば〝Islamic State〟というだけの名称を付けることにしています。

 このイスラム国あるいはイスラム国家という名称は、イスラム史を7世紀までさかのぼって考えると、まことに興味深いものです。もともと7世紀にムハンマドが神の啓示を受け、間もなく...

スキマ時間でも、ながら学びでも
第一人者による講義を1話10分でお届け
さっそく始めてみる
「政治と経済」でまず見るべき講義シリーズ
日本の財政政策の効果を評価する(1)「高齢化」による効果の低下
高齢化で財政政策の有効性が低下…財政乗数に与える影響
宮本弘曉
ポスト国連と憲法9条・安保(1)国連の構造的問題
核保有する国連常任理事国は、むしろ安心して戦争できる
橋爪大三郎
多数派が多数でなくなるとき
悩める多数派…なぜ「多数は少数の集まり」と考えるべきか
曽根泰教
お金の回し方…日本の死蔵マネー活用法(1)銀行がお金を生む仕組み
信用創造・預金創造とは?社会でお金が流通する仕組み
養田功一郎
財政問題の本質を考える(1)「国の借金」の歴史と内訳
いつから日本は慢性的な借金依存の財政体質になったのか
岡本薫明
マルクス入門と資本主義の未来(1)マルクスとはどんな人物なのか
マルクスを理解するための4つの重要ポイント
橋爪大三郎

人気の講義ランキングTOP10
何回説明しても伝わらない問題と認知科学(3)認知バイアスとの正しい向き合い方
知ってるつもり、過大評価…バイアス解決の鍵は「謙虚さ」
今井むつみ
内側から見たアメリカと日本(3)ビル・ゲイツの世界戦略
「50億人を救う」と宣言したゲイツとの粋なエピソード
島田晴雄
「宇宙の創生」の仕組みと宇宙物理学の歴史(1)宇宙の階層構造
「宇宙の階層構造」誕生の謎に迫るのが宇宙物理学のテーマ
岡朋治
エネルギーと医学から考える空海が拓く未来(2)量子論と空海密教の本質
脳内の量子的効果――ペンローズ=ハメロフ仮説とは
鎌田東二
歴史の探り方、活かし方(2)図書館「レファレンス」の活用
図書館の便利な活用法…全国の図書館からの「お取り寄せ」
中村彰彦
クーデターの条件~台湾を事例に考える(1)クーデターとは何か
台湾でクーデターは起きるのか?想定シナリオとその可能性
上杉勇司
伊能忠敬に学ぶ「第二の人生」の生き方(1)少年時代
伊能忠敬に学ぶ、人生を高めて充実させる「工夫と覚悟」
童門冬二
徳と仏教の人生論(3)無分別知と全人格的思惟
般若とは何か――秋月龍珉からの命題を探求し到達した境地
田口佳史
習近平中国の真実…米中関係・台湾問題(7)不動産暴落と企業倒産の内実
不動産暴落、大企業倒産危機…中国経済の苦境の実態とは?
垂秀夫
経験学習を促すリーダーシップ(1)経験学習の基本
成長を促す「3つの経験」とは?経験学習の基本を学ぶ
松尾睦