●日本経済の約7割はグローバル競争とは全く異なるゲームのルールで動いている
曽根 今までは、「円安であれば輸出が増える」と皆が言っていました。ところが、今は昔の輸出立国、加工貿易の時代とは違うのです。現地で生産していますし、リスクヘッジもしています。
そういう意味でいうと、経済自体においてグローバルな競争がものすごく激しくなっています。問題は、グローバルのトップが競争力を持続的に持つことができるのかということです。今までもそうでしたが、これからはより厳しくなってきます。自動車は大丈夫だとしても、家電には問題があるでしょう。それに、日本の経済自体の7割はサービス産業ですから、「グローバルなサービスセクターとは何なのか」という別の話も出てきます。
ところが、グローバルのところで為替レートが決まっていると思っていたけれども、実はローカルのところが6、7割もあり、そこは全く違うゲームのルールで動いているのです。ここに対して、今まで通りの政策を続けていて、解決するのでしょうか。つまり、「今まで通り」というのは、「地方再生」などです。「街・人・仕事」といったことをばらまけば、選挙には勝てるかもしれませんが、地方の問題としては今、何が起こっているのかを考えなければいけません。
これは、冨山(和彦)さんなどが前から言っているように、「人手は前から足りない」「高齢化だ」ということです。ですから、介護は大変だし、サービス業では、バスの運転手や車掌がいない、集めるのが大変だという話です。
ですから、実はグローバルの方も半端な競争しかしていないし、ローカルの方も従来の手法でやろうとすると、2030年はまた赤字が積み上がり、それだけで経済はよくならずに終わってしまうのです。
この辺りのことは、従来の「ばらまきはけしからん」という話ではなく、「どこに手を打つのか」「有効打とは何なのかを分かっているのか」ということです。
―― まさにそういうことですね、先生。しかし、これはすごく難しい問題です。
●約7割のローカルをどうするかを考えなければ、日本経済は立ち直れない
曽根 難しいです。このシリーズで以前、世界を目指して競争する2割、3割の人と、残りの平均的な国内で頑張っている人の違いの話をしました。例えば、英語でいうなら、日本人全員をバイリンガルにすることは無理ですが、世界で競争するトップのビジネスマンや官僚、学者たちは、世界で競争できるだけの英語力を身につけなければいけません。しかし、一般の人たちは、生涯に5回も10回も海外旅行に行く人は少ないので、果たして英語が日常的に必要なのか。そういった話と同じです。
―― 先生がおっしゃっていたビジョンと議論を分けるお話ですね。
曽根 そうです。「ビジョンを語るときに、どちらの側のことを言っているのか」ということです。大学がいい例でしょう。東京大学は国際競争なのです。「ローカルのナンバー1が東京大学」ということではありません。「国際競争の中でどの位置にいるのか」ということです。ローカルのナンバー1のときは偏差値が有効な指標でしたが、国際競争に入ると偏差値はとたんに関係なくなります。世界では偏差値が評価基準にはなりません。では、その基準は論文の引用数かといえば、それも違います。つまり、グローバルな競争の中で生き残りを懸けた戦略の質の差です。それがあるのか、ないのかが問われるのです。
民間企業であれば皆、グローバルな競争を考えています。技術やノウハウを持っているのか、国際戦略においてどこで稼ぐことができるのかを、日々考えて実践しています。少しでも失敗すれば、ナンバー1の地位から落ちますし、国際競争から脱落します。これは、サッカーであれ、野球であれ、テニスであれ、皆そういう世界なのです。
ところが、例えば「甲子園で野球をやる」というようなローカルなところでは、これはまた話が違います。東大がローカルのナンバー1だからといって、「それでよい」と安住してしまったら、日本全体は全く伸びません。ただ、東大の中にもローカルな問題に口を出す人がけっこういます。それはそれでいいのですが、しかし、ローカルはローカルに任せるべきでしょう。
では、ローカルに任せるべき日本の大学とは何でしょうか。地方の国立大学が、ローカルな問題をやればいいということでしょうか。それは難しいですね。これは笑い話ですが、岡山大学がどなたかに「中国経済を語ってください」と言ったら、〝Mainland China〟の〝China〟のエコノミックポリシーを語ったそうです。本当は「中国地方の経済を話してほしい」と頼んだつもりだったらしいのです。しかし、学者としては、「中国経済」と言われれば、「〝China〟の経済」なので...