帝国に共通する性格とは何か~民族紛争の火種を知る~
この講義の続きはもちろん、
5,000本以上の動画を好きなだけ見られる。
スキマ時間に“一流の教養”が身につく
まずは72時間¥0で体験
ハプスブルク帝国とオスマン帝国に共通する性格とは?
帝国に共通する性格とは何か~民族紛争の火種を知る~
山内昌之(東京大学名誉教授/歴史学者/武蔵野大学国際総合研究所客員教授)
山内昌之氏には、熱心な世界史ファンからの質問が寄せられる。今回採り上げたのは「ハプスブルク帝国とオスマン帝国に共通する性格とは?」との問いだ。「帝国=悪」の図式や「講和条約=国際平和」の常識を塗り替える山内氏の歴史学に基づく答えを聞いてみよう。
時間:7分39秒
収録日:2014年7月30日
追加日:2014年10月30日
カテゴリー:
≪全文≫

●「帝国の性格とは何か」のお尋ねに答えて


 視聴者の皆さんからいろいろなお尋ねをいただいています。本当にありがたいことです。

 今日は、オーストリア=ハンガリー帝国とも呼ばれるハプスブルク帝国とオスマン帝国について、こうした帝国に共通する性格とは何なのかというお尋ねをいただきました。

 なかなか難しい問題ですが、簡単に申しますと、両方とも多民族国家であることです。そして多宗教国家で、宗教もたくさんある。それから多言語国家であるということです。帝国とは、そのように多くの民族、多くの宗教、多くの言語といった多様性を、ある意味で担保している点に特徴があります。

 したがって、帝国といえば悪いことだけを連想しがちですが、必ずしもそうではありません。多くの民族や多くの宗教は、そこに人為的な境界を引き、「国民国家」と呼ばれる体制をとりました。一国家=一民族、一宗教、一言語へと、限りなく近づけようとする試みです。そうしたことが多くの摩擦を生んだことを考えると、帝国の中において、多くの民族、多くの言語、多くの人種、多くの宗教が、人工的な境界線(バウンダリー)をつくられずに共存していたことは、積極的に評価していい面と言えるでしょう。


●多様性が担保された帝国を懐かしむ人々もいる


 ですから、今のウィーンの人々、あるいはハプスブルク朝のもとに住んでいた人たちには、オーストリア=ハンガリー帝国が存在していた頃を、ノスタルジアとして懐かしむ人たちがいます。あるいはオスマン帝国の支配下にあったアラブの人々、クルド人たち、そしてユダヤ人たちでさえ、オスマン帝国が「パクス・オトマニカ(オスマンの平和)」の名において達成した時代、民族対立や宗教対立が起きることなく調和的に共存していたことを、懐かしく評価する人たちもいるのです。

 つまり、帝国には二つの面があります。一つは、皇帝やスルタンによる抑圧という面です。しかし、この抑圧も普通言われるのは随分誇張した見方です。むしろ、皇帝やスルタンたちは、その支配下にある臣民としての諸民族に自由な信仰、自由な言語、そして自由な居住地を任せ、後は放置しておいたり自由に委ねておいたりといった君主たちであったことを忘れてはなりません。そのように、帝国のもとでは多くの人たちが共存していたという側面も、また帝国の一面であります。


●第1次世...


スキマ時間でも、ながら学びでも
第一人者による講義を1話10分でお届け
さっそく始めてみる
「歴史と社会」でまず見るべき講義シリーズ
「武士の誕生」の真実(1)10世紀の東アジア情勢と「王朝国家」
「王朝国家」と「武士」が誕生した理由は大唐帝国の解体
関幸彦
ローマ史と江戸史で読み解く国家の盛衰(1)父祖の遺風
なぜ「父祖の遺風」がローマと江戸に共通する価値観なのか
本村凌二
ローマ史に学ぶ戦略思考~ローマ史講座Ⅳ(1)古代の持つ意義と重み
一神教もアルファベットも貨幣も全て古代に生まれた
本村凌二
明治維新から学ぶもの~改革への道(1)五つの歴史観を踏まえて
明治維新…官軍史観、占領軍史観、司馬史観、過誤論の超克
島田晴雄
歴史の探り方、活かし方(1)歴史小説と史料探索の基本
日本は素晴らしい歴史史料の宝庫…よい史料の見つけ方とは
中村彰彦
豊臣政権に学ぶ「リーダーと補佐役」の関係(1)話し上手な天下人
織田信長と豊臣秀吉の関係…信長が評価した二つの才覚とは
小和田哲男

人気の講義ランキングTOP10
習近平―その政治の「核心」とは何か?(1)習近平政権の特徴
習近平への権力集中…習近平思想と中国の夢と強国強軍
小原雅博
歴史の探り方、活かし方(4)史実・史料分析:秀吉と秀次編〈上〉
史料読解法…豊臣秀吉による秀次粛清の本当の理由とは?
中村彰彦
「宇宙の創生」の仕組みと宇宙物理学の歴史(1)宇宙の階層構造
「宇宙の階層構造」誕生の謎に迫るのが宇宙物理学のテーマ
岡朋治
内側から見たアメリカと日本(4)アメリカ労働史とトランプ支持層
ギャングの代わりに弁護士!? 壮絶なアメリカ労働史の変遷
島田晴雄
何回説明しても伝わらない問題と認知科学(1)「スキーマ」問題と認知の仕組み
なぜ「何回説明しても伝わらない」のか?鍵は認知の仕組み
今井むつみ
エネルギーと医学から考える空海が拓く未来(4)全てをつなぐ密教の世界観
密教の世界観は全宇宙を分割せずに「つないでいく」
鎌田東二
学力喪失の危機~言語習得と理解の本質(2)言葉を理解するプロセスとスキーマ
なぜ子どもは教えられても理解できないのか?鍵はスキーマ
今井むつみ
編集部ラジオ2025(28)内側から見た日米社会の実状とは
島田晴雄先生の体験談から浮かびあがるアメリカと日本
テンミニッツ・アカデミー編集部
習近平中国の真実…米中関係・台湾問題(1)習近平の歴史的特徴とは?
一強独裁=1人独裁の光と影…「強い中国」への動機と限界
垂秀夫
徳と仏教の人生論(3)無分別知と全人格的思惟
般若とは何か――秋月龍珉からの命題を探求し到達した境地
田口佳史