老いなき世界が告げるもの~永遠の命は本当に必要なのか~
この講義の続きはもちろん、
5,000本以上の動画を好きなだけ見られる。
スキマ時間に“一流の教養”が身につく
まずは72時間¥0で体験
『LIFESPAN 老いなき世界』が突き付けた永遠の命の意味
老いなき世界が告げるもの~永遠の命は本当に必要なのか~
長谷川眞理子(総合研究大学院大学名誉教授/日本芸術文化振興会理事長)
人新世によって人間活動に警鐘が鳴らされる時代にあって、人間の老化を治療しようという書籍が出版された。デビッド・シンクレアとマシュー・D・ラプラントの共著による『LIFESPAN 老いなき世界』である。生きものが老化して死に至るメカニズムを改変するようになったら、それは人間と呼べるのだろうか。
時間:15分53秒
収録日:2021年4月19日
追加日:2021年7月11日
≪全文≫

●人新世を見直す時代に出版された『LIFESPAN 老いなき世界』


 (前回のシリーズは)「人新世とは何か」ということで講義しましたが、この100年前後の間で、人間という生きものがいかに不自然に、好き放題にいろいろなものを使ってきたかということを、いくつかの資料でお見せできたかと思います。

 ホモ・サピエンスは、本当に長らくの間狩猟採集者として、他の生物と同様の自然エネルギーで暮らしてきました。それがおよそ1万年前に農耕と牧畜を始めるという大転換を迎えます。それは、より効率的に食料を採ることができる方法でした。「飢える」ことは減り、と同時に地球表面の改変がどんどん進み、その辺から変化の兆しが起きたわけです。

 ところが産業革命は決定的に違っていました。石炭・石油を燃やすという、ふつうの生きものがやらないことをやるようになって、活動の性質が変わってきます。そして人口が増えます。

 例えば南極には「アイスコア」というものがあり、掘っていくと昔(10万~80万年ほど前まで)の氷が出てきます。昔の氷を調べると、昔の気候がどうだったか、CO2濃度などが分かります。

 今後、アイスコアを掘っていく後世の生きもの(それが人間なのか人間以外の生きものなのかは分かりません)が、「ここは違うね、人新世だね」と言うかどうか。おそらく明らかに区別されるような痕跡を、今人間は残しているだろう。人新世の提案をした人たちから始まったのはそのことで、いろいろな研究がそれを指し示しているところだと思います。

 そういうご時世のもと、デビッド・シンクレア氏がマシュー・D・ラプラント氏と一緒に『LIFESPAN 老いなき世界』という著書を出しました(邦訳:東洋経済新報社)。とても有名で、よく読まれている本だそうです。

 デビッド・シンクレア氏は「生きものはどうして老化(エイジング)をするのか」ということ、なぜ細胞は老化していくのかのメカニズムを研究している学者です。

 誰だって若いまま生きたいと願うし、健康寿命が長いほうがいいと思うものですが、「細胞がどういうメカニズムで劣化していくか」ということを研究している人というのは、どうしてもそのメカニズムを変えたい、阻止したいと思うわけです。


●老化(エイジング)に至るメカニズムとは...


スキマ時間でも、ながら学びでも
第一人者による講義を1話10分でお届け
さっそく始めてみる
「科学と技術」でまず見るべき講義シリーズ
ChatGPT~AIと人間の未来(1)ChatGPTは何ができて、何ができないか
ChatGPTは考えてない?…「AIの回答」の本質とは
西垣通
断熱から考える一年中快適で健康な住環境(1)日本の住宅の実態と問題点
なぜ日本は夏暑く、冬寒いのか…断熱から考える住宅の問題
前真之
培養肉研究の現在地と未来図(1)フェイクミート市場とリアルミート研究
食肉3.0時代に突入、「培養肉」研究の今に迫る
竹内昌治
水から考える「持続可能」な未来(1)気候変動の現在地
最悪10メートル以上海面上昇…将来に禍根残す温暖化の影響
沖大幹
五島列島沖合の海没処分潜水艦群調査(1)目的と潜水艦史
海底に突き刺さる旧日本海軍の潜水艦「伊58」を特定!
浦環
ヒトの性差とジェンダー論(1)「性」とは何か
MLBのスーパースターも一代限り…生物学から迫る性の実態
長谷川眞理子

人気の講義ランキングTOP10
折口信夫が語った日本文化の核心(1)「まれびと」と日本の「おもてなし」
「まれびと」とは何か?折口信夫が考えた日本文化の根源
上野誠
過激化した米国~MAGA内戦と民主党の逆襲(3)DSA化した民主党と今後の展望
DSAの民主党乗っ取り工作…世代交代で大躍進の可能性
東秀敏
逆境に対峙する哲学(1)日常性が「破れ」て思考が始まる
逆境にどう対峙するか…西洋哲学×東洋哲学で問う知的ライブ
津崎良典
豊臣兄弟~秀吉と秀長の実像に迫る(4)信長の直臣、秀吉の与力としての秀長
最初は信長の直臣として活躍――武闘派・秀長の前半生は?
黒田基樹
何回説明しても伝わらない問題と認知科学(1)「スキーマ」問題と認知の仕組み
なぜ「何回説明しても伝わらない」のか?鍵は認知の仕組み
今井むつみ
平和の追求~哲学者たちの構想(1)強力な世界政府?ホッブズの思想
平和の実現を哲学的に追求する…どんな平和でもいいのか?
川出良枝
経験学習を促すリーダーシップ(1)経験学習の基本
成長を促す「3つの経験」とは?経験学習の基本を学ぶ
松尾睦
世界哲学のすすめ(1)世界哲学プロジェクト
日本発!危機の時代に始動する世界哲学プロジェクトの意義
納富信留
認知バイアス~その仕組みと可能性(2)創造のバイアス〈前編〉
創造の「4段階説」、ひらめきには準備が必要
鈴木宏昭
編集部ラジオ2025(31)絵で語る葛飾北斎と応為
葛飾北斎と応為の見事な「画狂人生」を絵と解説で辿る
テンミニッツ・アカデミー編集部