●日中間の戦略的競争関係をいかにマネジメントできるかが日本の課題
カーティス 長期的に見れば、日中間の戦略的競争関係はもう永遠にありますよね。中国はますます強くなる。それに対して日本は、一つの脅威というか、中国が強くなって日本がそれに追いつくようなことはあり得ないので、やはり不安です。ただ、戦争をするわけにはいかないですから、戦略的競争、英語で言うと“strategic rivalry”をどうマネージできるかが、日本にとっての課題です。そのためには、僕の考えでは、二つの重要な対策が必要だと思います。
●二つの重要な対策(1)日米同盟の強化
カーティス その一つは、日米同盟の強化だと思うのです。ですから、今考えてみると、集団的自衛権を認めるような憲法解釈をしたのは、よかったと思います。
ちなみに、もしも民主党の野田佳彦さんが総理大臣の時、国会で衆議院も参議院も民主党が過半数を取っていて、党内の敵が一人もいなければ、野田さんも同じようなことをしたと思います。2009年だと思いますが、彼は国会で、やはり集団的自衛権の憲法解釈を考え直す必要があるかもしれないというようなことを言ったことがあります。
ですから、日米同盟を堅持する。そして、日米同盟を堅持するために、やはり日本の役割をある程度、もっと強化しないといけないのです。
日米同盟は冷戦時代に生まれた同盟です。その目的は二つありましたが、一つはソ連を封じ込めることです。それともう一つは、日本の大きな再軍備というか、軍事大国になる必要がないようにすることです。しかし、それは日本を抑えるのではなく、日本が再軍備しなくても、日本は安全であり、国家の安全は大丈夫だと思わせるというもので、それが同盟なのです。
面白い話があります。ヘンリー・キッシンジャーさんが1971年、内密に北京に行って周恩来さんと会った時に、日米同盟の話になると、周恩来さんから「反対だ」と言われました。「この同盟はアメリカの覇権主義のためのものである」などと言われたそうです。それで、キッシンジャーさんはもともとプロフェッサーですから、周恩来さんに3日間にわたりレクチャーしたのです。要は、「この同盟があるから、日本は軍事大国にならなくて済む」「この同盟がなければ、戦前のように日本はまた軍国主義国になりますよ」と話し、キッシンシャーさん自身もそう思って、「日米同盟は中国のために非常に重要である」という話を周恩来さんにして、3日続けて二人で話し合ったら、最後に周恩来さんは「おっしゃる通りだ」と言ったそうです。それから最近まで、中国は、日米同盟は中国のためにもなっていると考えていたのか、少なくとも反対はしていないのです。
●「日米同盟で中国を封じ込める」という考えはナンセンス
カーティス しかし今、全く時代が変わってきて、中国のほとんど誰と話をしても、今の日米同盟の目的は、「中国を封じ込めるためだ」と言っています。「前はソ連だったけど、今は中国を封じ込めるためで、けしからん」という人が圧倒的に多いですね。
日本国内にも、「中国を封じ込めるために、日米同盟が必要だ」という意見があります。「問題は、オバマさんが弱すぎて、やるべきことをやっていないからだ」という不満も、よく自民党の中から出てきますよね。
しかし、日米同盟は、中国を封じ込めるためにあるのではないのです。そもそも中国を封じ込めることなどあり得ないし、やろうと思ってもできません。要するに、中国がこれ以上強くならないように、外に出ていかないようにするためには、中国の経済を駄目にしなければいけませんが、中国の経済が駄目になれば、アメリカをはじめ、世界の経済が大不況になります。
ですから、それはやろうとは思ってはいないし、やろうと思ってもできないことです。安倍晋三首相も多分、中国を封じ込めて、例えば、日本と中国の経済関係を全くないものにしたら、どちらが一番困ると思うのか、それは日本ですよね。
また、中国が経済的に強くなればなるほど、政治的にも軍事的にも強くなります。それはある意味で止めることができませんが、中国が強くなってほしいというのが、アメリカと日本の実際の政策であったりもするのです。だからこそ、投資をしたり、貿易を拡大したり、WTO(世界貿易機関)に加盟させたりしていますよね。
―― 本当にそれは、中国に強くなってほしいがための政策ですね。
カーティス そうです。ですから、それは中国に強くなってほしいという政策なのです。強くなってほしくなければ、そんなことはしません。
近代史の中で、経済的に強くなっても軍事的に強くならなかった国はどこにあるかといえば、この国ですね、戦後の日本です。日本は特別なのです。普通の国であれば、強くなれば全ての次...